表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/20

第六話 チート武器ください

 住むところが確保できた。

 服は日本から持ってきたものがあるし、食べ物も日本と変わらなそうだ。市場もある。

 となると、あとは自衛の方法だろうか。


 通貨の価値が百万倍だとすると、治安は日本の百万倍悪いと考えるべきかもしれない。

 街の人の素行が悪いというわけではない。


 魔物がいるからだ。


「ごめんくださーい」

 俺は現在、モモに教えてもらった武器屋にいる。

 中央の環状線沿いにある店だ。

 なんでも街一番の取り扱いらしい。


「うわぁ。圧巻だなあ」

 ゲームの世界では武器屋というものに寄ったことがあるが、現実では初めてだ。

 本物はこんな感じなのか。


 武具が天井近くの壁まで並べられている。

 短剣、大剣、盾に防具まで取り揃えてある。

 中央ではわらで編まれたマネキンが、アパレル気取りで全身コーデしてる。


「あんちゃん、ここらじゃ見ない顔だな」

 どうしたらいいかわからず物色していると、店主らしきおっちゃんに話しかけられた。

 歩くたびに恰幅のいい腹が、ボンッと太鼓を鳴らしている。長くて結われた髭にもまた、貫禄がにじみ出ている。


「実は日本から移住してきたんです」

「へぇー、異世界からわざわざ」


「身を守るための武器を探していて」

「あんちゃんには、こっちの武器なんていらないんじゃないか。聞くところによると、魔物なんかよりよほど強い鉄の化け物を使役しているらしいじゃないか。音速で走るイモムシや、炎弾をはくドラゴンまで、よくもまあ飼いならせるよな」


 もしかして、新幹線や戦闘機のことだろうか。


「いや、あれはただの乗り物なだけで」

「乗り物? 馬車的なやつか。馬だって使役するのは大変だって聞くぜ。いやー、本当に異世界人はすごいよな。なあ? あんちゃんもそう思うだろ」

「使役っていうか、乗るために作り出したというか、なんというか。そもそも生命じゃないというか……」


 俺は説明が面倒だったので、適当にはぐらかした。

 それにしても、エデン人はみんなこのノリ好きだなあ。

 ルイーズさんしかり、日本人は相当強いと思われているらしい。


「えっと、日本に武器を置いてきちゃって。新しいのが欲しいなーと」

 強いと思われて悪い気もしないので、ノることにした。


「なるほどな。今日はどんな武器をお求めで?」


 俺はゲーム以外で、戦いの経験がない。

 スポーツだって中の中くらいだ。

 小学生の頃のドッジボールだと逃げ専で、中高の部活では県予選敗退ばかりだった。

 そんな俺の自衛手段といえば、武器本来の強さに頼る他ない。


「軽くて、強くて、強いスキルがあって、できれば、こうなんか剣が勝手に守ってくれるような武器ってありますか?」


「あんちゃん、欲張りすぎだろ」

 おっちゃんは再びガハハハッと豪快に笑った。


「やっぱり、ありませんよね。そんな都合のいい武器――」

「あるよ」

「えっ? ある?」

「ちーっと値は張るんだけどよ、そりゃもう、これぞ剣の中の剣ってやつが」

「ぜひ見せてください。金に糸目はつけないので!」


 うわー、『金に糸目を付けない』とか、一生に一度は使ってみたいセリフのトップテンに入るよな。

 日本に住んでたら、絶対に言えなかったけど。


 おっちゃんはカウンターの奥へと消えていった。


 しばらく後――。


 おっちゃんは一本の剣を持ってきた。柄の部分に青白い宝玉が埋め込まれている立派なものだ。両刃になっていて、刀身にはなにやらうっすらと文字が刻まれている。

 勇者が持っていそうな感じの立派な剣だ。


「聖剣グランデだ。そこらの剣とは出来が違うぜ」


 俺はおっちゃんから剣を受け取った。

 持ってみると、剣にしては意外と軽い。

 シュン、シュン――。

 運動不足の俺でも簡単に振ることができた。


「どうだ気に入ったかい?」

「使いやすいです。見た目もかっこいいし。けど、本当にこの武器は強いんですか?」

「刀身に文字が入ってるだろ。それ、自動追撃の魔法な。だから、あんちゃんは柄をもってさえいれば、剣が勝手に戦ってくれるさ」


 なんと便利なのだろう。

 剣道もしたことなければ、兵役を経験したこともない。まったくの戦いスキルゼロの俺からすれば、願ったり叶ったりだ。


 というか、勝手に戦ってくれる剣とか、もうそれチート武器なのでは。


「でも、聖剣がどうしてここに?」

「勇者ヘルゲルから預かってる」


 勇者――。

 そういえば、モモが言っていた。


 魔王と戦う勇者は、現代にもいるらしい。

 数名の勇者が、各々魔王と戦っているそうだ。


「そんな大切なもの売ってもいいんですか?」

「いいんだよ。実はここは質屋もやっているんだ」

「質屋ってことは、まさか――」

「そうだ。ヘルゲルは腕はいいが、ギャンブル依存症でな。賭け金欲しさに置いていった。まだ取りに来ないということは、おそらく負け越してるんだろうよ」


 何やってんだよ、勇者ヘルゲルぅぅっっ!


 とんだロクデナシじゃないか。

 せっかくの無双武器を質に入れるとかさー。

 勇者ガバガバすぎない?


「そのヘルゲルってのはいったい……?」

「勇者だ。なんでも、女神様に選ばれて転生したとか」

「それはすごい。というか、羨ましい……」


 おっちゃんは突然、ガハハハッと笑い始めた。


「なんだ? あんちゃん、信じてんのか」

「だって、女神の転生とかテンプレ――」

「ただのたわごとだよ。腕がたつから勇者だともてはやされてんだ。まったく……勇者の名を語るなら、勇者らしくしろってもんだ」


 俺だってどうせなら移住じゃなくて、転生したい。

 そしたらきっと普通のおっさんから、かっこいい青年になれるのだろう。

 チートスキルやチート武器に囲まれて、人生一発逆転劇だ。


 この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば。

 とか。

 朕は国家なり。

 とか。

 言ってみたい!


 が、しかし――。

 そう人生はうまくはいかないものだ。


 転生を願って、ビルから飛び降りるみたいなギャンブルはできないし。(ヘルゲルはやったのかも?)


 そう考えれば、大金とともに異世界に移住っていうのは、アリよりのアリだ。


「聖剣グランデ、もらいます!」

 俺は三千万スイヤーを支払った。


 日本円だと、えっと……三十円なり。


 マジかよ。

 最強武器が三十円って……駄菓子感覚で買えちゃった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ