第二十話 罠にかかりて、赤
レントの割れた身体の内側から、マグマのようなオレンジ色の光が溢れている。
後方にいた、別の盗賊たちも同じようにオレンジ色に染まっていく。
「ア、アニキ。これはいったい――」
「うわぁぁぁぁ」
「い、嫌だ。何だよ、これぇぇ。まだ死にたくない、助け――」
これは、まさか――。
トラップ?
「イクオ、危ない」
ルイーズに身体を服ごと引っ張られた。
ルイーズが俺と強盗たちの間に割り入る。
「業火の盾よ、我らを守り給え〈ファイヤーシールド〉」
ルイーズの詠唱に合わせて、炎の盾が展開される。
やにわに強盗の身体は爆発した。
爆発する刹那、青白い炎が一瞬だけ揺らめき、はぜた。
ジュワワ、っと音がして、ルイーズの盾の一部がはがれる。
「きゃああああ」
「ルイーズっ!」
俺はルイーズを助けようと、なんとかもがく。
「動かないで。簡易詠唱じゃ、これ以上無理ね」
ルイーズは諦めたように、フッと笑みをこぼした。
「イクオ、あなたに会えて楽しかったわ」
「ルイーズ? 何言って――」
炎の盾が破れると同時に、せきをきったように爆風が押し寄せた。
ルイーズが咄嗟に、俺を守るように抱きしめた。
激しい衝撃とともに、俺たちは後方へと吹き飛ばされた。
木々へとぶつかり、止まる。
イテテテ。
耳がぐわんぐわんして、頭がグラグラする。
俺は混濁する意識の中で、ルイーズの名前を呼んだ。
「うう、ルイーズ」
何やら、手の先に生暖かい感覚が広がる。
それは、とても赤くて――。
「おい、ルイーズ、大丈夫か? しっかりしてくれ」
辺りは血の海だった。
正確には、ルイーズの血で海ができ始めていた。
強盗たちの身体は、肉片さえ残らず消滅したらしい。
Aランクの盾を軽々と突き破るほどの威力だ。
かなり強力なトラップ魔法だったようだ。
「ちくしょう、なんで俺なんかをかばったんだよ」
「イクオがナジムの街を心配してくれて嬉しかった。言ったでしょう、出血大サービスだって」
ルイーズが照れくさそうに微笑んだ。
「こんなときにシャレを言ってる場合かっ!」
「そんな怖い顔しないで。笑ってよ」
「笑えるわけないだろ……。だって、こんな――」
ルイーズの腹部には、風穴があいていた。
出血がひどい。
「気に……しないで……私が弱いのが……ガフッ、いけないの……よ」
ルイーズは吐血した。
ゼーゼー、と苦しそうに肩で息をしている。
「待ってろよ。今、ポーション飲ませてやるから」
俺はマジックボックスから、急いで上級ポーションを取り出した。
このエデンにおける、最上級のポーションだ。
治せないはずがない。
「大丈夫だ。これで助かるからな」
ルイーズの口へと、ポーションを注いでいく。
せき込み、吐き出しながらも、どうにかルイーズに飲ませることに成功する。
ルイーズの出血は止まるどころか、どんどん増えていく。
「ご、ごめん……ね……。ポーション無駄にし……ちゃって」
「そんなのなんでもないって。いいから。もうしゃべるな」
ルイーズの顔から生気が抜けていく。
青白い顔はまるで、フランス人形のようだった。
素人目にみても、もう助からないのは明白だった。
俺はその事実を否定する。
否定して、薬をたくさん、あるだけ飲ませていく。
「クソッ。薬をこんなに買ったのに」
けれど、効果は一向に現れない。
「金ならあるんだ。頼む、誰か助けてくれ」
声が森の中に、虚しくこだまする。
ルイーズの命の値段はいくらだろう。
そんなものもちろん、考えるまでもない。
全財産だ。
「一兆スイヤーあるんだ。助けてくれるなら、全部あげるから。誰か」
いや、それ以上でもいい。
借金だってしてもいい。
だから、頼む、誰か、ルイーズを助けて――。
小鳥がピヨピヨとさえずるばかりで、何一つ返事は返ってこない。
血は止まらない。
どんどんとルイーズの顔色が土気色へと変わっていく。
「イクオ、ありが……とう」
ルイーズがゆっくりと目蓋を閉じていく。
「待て、待て。ルイーズ。いくな、頼む待ってくれ」
俺はルイーズの肩を必死に揺さぶった。
まだ辛うじて生きてはいるが、ルイーズの呼吸がどんどん弱くなっていく。
万事休す。時間の問題だった。
もう本当に、打つ手はないのか――。
もう、本当に――。




