第十七話 盗賊たち
「ついたわ。この辺りが盗賊被害の多発している場所よ」
街の北側の森についた。
西側にある退廃の森と違い、ここには特段名前はないらしい。
ただナジムからレードルへと至る、交易路には『シルク・ウェイ』という名前があるらしい。
俺たちはそのシルクウェイを、木陰から見守っている。
ベルクール商会での下調べも終わったので、いよいよ本調査に乗り出したというわけだ。
「それで、これからどうする?」
「そうねぇ。まずは盗賊団のアジトの場所を見つけないと、なんだけど……。そう都合よく盗賊が出てくるとも限らないし……」
あっ、とルイーズが声を出した。
「なんだよ?」
「名案を思いついたのよ。二人で来て正解よ」
「で、名案って?」
「イクオ。あなた、おとりになりなさい」
「はあ? おとり?」
「盗賊団はね、行商だけじゃなく、事前調査に来た冒険者も襲っているみたいなの。だから調査に来た冒険者を装えば、きっと盗賊団も現れるわ」
まあ、よくある手だ。理解はできる、が……。
「なんで、俺がおとりなんだよ。ルイーズの方がランク上なんだから、ルイーズがなればいいじゃないか」
奇襲&同時攻撃とかされたら、たまったもんじゃない。
俺が最強でいれるのは、あくまで剣がさばける範囲においてのみだ。
あいにくと剣は一本しかない。
同時に攻撃を受ければ、一人分の攻撃しか防げない。
「私は無理よ。顔が割れてるもの。Aランク冒険者ともなると、結構有名なのよ」
ちょっと得意げな顔で、ルイーズが言う。
「俺だって顔が割れ――」
「嘘つかないの。あなた先日来たばかりじゃない」
「うぐっ」
「それに、イクオは見た目がひょろっとしてるから、おとりにはもってこいだと思うのよね」
否定はしない。
確かに、ひょろっとしたもやし野郎だ。
聖剣グランデでなければ、剣さえろくに振るうこともできないだろう。
しかし、俺は一応師匠だぞ。
ひょろっとなんて表現はいかがなものなのか。
「それでいてー、イクオは実は強いじゃない?」
お、おう。まーな。
落としてからあげられると、胸がキュッとなっちゃう。
「だから盗賊もいい感じに油断すると思うのよね。そこをイクオと私で挟み撃ち、なんてのはどうかしら?」
悪くない作戦だ。
この場にいても、結局にっちもさっちも行かない。
行動を起こさないと、何も起きないのだ。
「わーったよ。俺がおとりをやる」
そうして、俺は一人『シルク・ウェイ』を歩いている。
しばらくの間、あてもなくフラフラと歩いている。
手には調査っぽく、ペンとメモ帳。
ふむふむ、言いながら、適当に文字を書き込んでいる。
本当がどんな感じかは知らんけど。
まあ、調査って言ったら、こんな感じだろ。
もちろん、辺りには細心の注意を払っている。
剣は留め具を外し、いつでも抜けるように準備している。
ザワザワッ。
急に前方の灌木が騒がしく揺れ始めた。
今度は後方からもだ。
俺は立ち止まらずに歩き続ける。気づかないふりをしながら。
すると、突然――。
「ギャッハハ、俺たちは泣く子も黙る盗賊団だ。命が惜しけりゃ、金目の物を全部おいていきやがれ」
木々の陰から、五人の男たちが飛び出してきた。
手にはグニュッと歪曲した剣が握られている。
いかにも盗賊という感じのやつだ。
驚き、踵を返すと、今度は後方からも男たちが現れる。
「悪いことは言わねえ。さっさとアニキの言うとおりにしな」
完全に逃げ道をふさがれてしまった。
俺は剣を抜いた。
「おいおい、目が悪いのか。十対一だぞ? 算数できますかー? 小学生からやり直せ」
ギャハハハ、とガサツな笑い声が響く。
「目が悪いのはお前たちだろ。十対一? 笑わせんな。ここにいるのは、象一匹とアリ十匹だぞ。算数の出る幕じゃねーっての。幼稚園生からやり直せ」
精一杯の勇気を振り絞って、出した虚勢だ。
俺の手は震えていた。ルイーズの前ではかっこつけたものの、いざ戦いを目の前にするとやっぱり怖い。
まあ、平和ボケしたサラリーマンだったから当然なのだけれど。
むしろ、ここで「戦いヒャッホーイ」とかなったら、ヤバいやつだろう?
「言うじゃねえか、へっぽこのクセによ。口だけは達者なようだな」
「達者なのは口だけじゃねえよ。剣の扱いから、女の扱いまで全部、俺の方が上だっての」
(ルイーズ、まだか?)
さりげなく、盗賊の背後を見遣るが、全然加勢に来る様子はない。
(何やってんだよー、もうっ!)
(トイレか?)
なーんて、悠長なことを考えてる余裕はなかった。
「テメェ! もう命乞いしても許さねえからな」
どうやら、火に油を注いでしまったようだ。
盗賊の顔が爆発しそうなくらい、力ばんでいる。
「おめえら、やっちまえ!」
一番大柄な男――アニキと呼ばれていた男――が叫ぶと同時に、盗賊たちが一斉に襲い掛かってきた。
「えっ、ちょ、待って。タンマっ! お願い、待って」
さすがに、十対一はマズい。算数ができるから、わかる。
剣は振れても、俺には身のこなしができない。
同時に来られたらお陀仏だ。
もうダメかと思ったが、盗賊たちは立ち止まった。
案外、素直なようだ。
「なんだ? 今さら謝っても遅せえぞ」
「いや、そうじゃなくて、その、少しだけ言葉を訂正したいなぁーと……」
言葉を絞り出しながら、ちらりと盗賊の背後を見る。
ルイーズの姿があった。
剣を構えたまま、たたらを踏んでいる。身体が半分出かかっている。
なんだ、いたのか。
隠れ方が無駄にうますぎんだよなぁ。
味方の俺まで、欺いちゃダメだろ!
「どうした? さあ、早く最期の言葉を聞かせてくれよ。なあ?」
アニキがニタニタと、不細工な顔で笑っている。
俺はキリッと睨みつけた。
「やり直すのは幼稚園からじゃなく、受精卵からだ。このボケカスども」
「上等だ、この野郎!」
アニキが顔を真っ赤にして、激高した。
セリフを言い終わると、俺はすかさず回れ右をした。
(背中は任せたぜ。ルイーズ)
俺は背後の五人を倒すとしよう。
盗賊たちは、軍隊のような統制も連携も取れてなかった。
五人バラバラに攻撃を仕掛けてくる。
俺にとっては好都合だ。
まずは一人をしとめる。
「グハッ」
「ギャッ、ウハッ」
そして、二人、三人と、聖剣グランデが勝手にやっつけてくれる。
でも、これはこれで加減が難しい。
今回は魔物じゃないから、誤って殺さないようにしないと。
俺が盗賊を仕留め終えたときには、すでにルイーズの前にも五人の盗賊が転がっていた。




