表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/20

第十七話 盗賊たち

「ついたわ。この辺りが盗賊被害の多発している場所よ」

 街の北側の森についた。


 西側にある退廃の森と違い、ここには特段名前はないらしい。

 ただナジムからレードルへと至る、交易路には『シルク・ウェイ』という名前があるらしい。

 俺たちはそのシルクウェイを、木陰から見守っている。

 ベルクール商会での下調べも終わったので、いよいよ本調査に乗り出したというわけだ。


「それで、これからどうする?」

「そうねぇ。まずは盗賊団のアジトの場所を見つけないと、なんだけど……。そう都合よく盗賊が出てくるとも限らないし……」


 あっ、とルイーズが声を出した。


「なんだよ?」

「名案を思いついたのよ。二人で来て正解よ」

「で、名案って?」


「イクオ。あなた、おとりになりなさい」

「はあ? おとり?」


「盗賊団はね、行商だけじゃなく、事前調査に来た冒険者も襲っているみたいなの。だから調査に来た冒険者を装えば、きっと盗賊団も現れるわ」


 まあ、よくある手だ。理解はできる、が……。


「なんで、俺がおとりなんだよ。ルイーズの方がランク上なんだから、ルイーズがなればいいじゃないか」

 奇襲&同時攻撃とかされたら、たまったもんじゃない。

 俺が最強でいれるのは、あくまで剣がさばける範囲においてのみだ。

 あいにくと剣は一本しかない。

 同時に攻撃を受ければ、一人分の攻撃しか防げない。



「私は無理よ。顔が割れてるもの。Aランク冒険者ともなると、結構有名なのよ」

 ちょっと得意げな顔で、ルイーズが言う。

「俺だって顔が割れ――」

「嘘つかないの。あなた先日来たばかりじゃない」

「うぐっ」

「それに、イクオは見た目がひょろっとしてるから、おとりにはもってこいだと思うのよね」


 否定はしない。

 確かに、ひょろっとしたもやし野郎だ。

 聖剣グランデでなければ、剣さえろくに振るうこともできないだろう。

 しかし、俺は一応師匠だぞ。

 ひょろっとなんて表現はいかがなものなのか。


「それでいてー、イクオは実は強いじゃない?」

 お、おう。まーな。

 落としてからあげられると、胸がキュッとなっちゃう。


「だから盗賊もいい感じに油断すると思うのよね。そこをイクオと私で挟み撃ち、なんてのはどうかしら?」

 悪くない作戦だ。

 この場にいても、結局にっちもさっちも行かない。

 行動を起こさないと、何も起きないのだ。

「わーったよ。俺がおとりをやる」


 そうして、俺は一人『シルク・ウェイ』を歩いている。

 しばらくの間、あてもなくフラフラと歩いている。

 手には調査っぽく、ペンとメモ帳。


 ふむふむ、言いながら、適当に文字を書き込んでいる。

 本当がどんな感じかは知らんけど。

 まあ、調査って言ったら、こんな感じだろ。

 もちろん、辺りには細心の注意を払っている。

 剣は留め具を外し、いつでも抜けるように準備している。


 ザワザワッ。

 急に前方の灌木が騒がしく揺れ始めた。

 今度は後方からもだ。

 俺は立ち止まらずに歩き続ける。気づかないふりをしながら。

 すると、突然――。


「ギャッハハ、俺たちは泣く子も黙る盗賊団だ。命が惜しけりゃ、金目の物を全部おいていきやがれ」

 木々の陰から、五人の男たちが飛び出してきた。

 手にはグニュッと歪曲した剣が握られている。

 いかにも盗賊という感じのやつだ。


 驚き、踵を返すと、今度は後方からも男たちが現れる。


「悪いことは言わねえ。さっさとアニキの言うとおりにしな」

 完全に逃げ道をふさがれてしまった。

 俺は剣を抜いた。


「おいおい、目が悪いのか。十対一だぞ? 算数できますかー? 小学生からやり直せ」

 ギャハハハ、とガサツな笑い声が響く。

「目が悪いのはお前たちだろ。十対一? 笑わせんな。ここにいるのは、象一匹とアリ十匹だぞ。算数の出る幕じゃねーっての。幼稚園生からやり直せ」


 精一杯の勇気を振り絞って、出した虚勢だ。

 俺の手は震えていた。ルイーズの前ではかっこつけたものの、いざ戦いを目の前にするとやっぱり怖い。


 まあ、平和ボケしたサラリーマンだったから当然なのだけれど。

 むしろ、ここで「戦いヒャッホーイ」とかなったら、ヤバいやつだろう?


「言うじゃねえか、へっぽこのクセによ。口だけは達者なようだな」

「達者なのは口だけじゃねえよ。剣の扱いから、女の扱いまで全部、俺の方が上だっての」


(ルイーズ、まだか?)

 さりげなく、盗賊の背後を見遣るが、全然加勢に来る様子はない。

(何やってんだよー、もうっ!)

(トイレか?)

 なーんて、悠長なことを考えてる余裕はなかった。


「テメェ! もう命乞いしても許さねえからな」

 どうやら、火に油を注いでしまったようだ。

 盗賊の顔が爆発しそうなくらい、力ばんでいる。

「おめえら、やっちまえ!」

 一番大柄な男――アニキと呼ばれていた男――が叫ぶと同時に、盗賊たちが一斉に襲い掛かってきた。


「えっ、ちょ、待って。タンマっ! お願い、待って」

 さすがに、十対一はマズい。算数ができるから、わかる。

 剣は振れても、俺には身のこなしができない。

 同時に来られたらお陀仏だ。


 もうダメかと思ったが、盗賊たちは立ち止まった。

 案外、素直なようだ。


「なんだ? 今さら謝っても遅せえぞ」

「いや、そうじゃなくて、その、少しだけ言葉を訂正したいなぁーと……」

 言葉を絞り出しながら、ちらりと盗賊の背後を見る。


 ルイーズの姿があった。

 剣を構えたまま、たたらを踏んでいる。身体が半分出かかっている。


 なんだ、いたのか。

 隠れ方が無駄にうますぎんだよなぁ。

 味方の俺まで、欺いちゃダメだろ!


「どうした? さあ、早く最期の言葉を聞かせてくれよ。なあ?」

 アニキがニタニタと、不細工な顔で笑っている。

 俺はキリッと睨みつけた。


「やり直すのは幼稚園からじゃなく、受精卵からだ。このボケカスども」


「上等だ、この野郎!」

 アニキが顔を真っ赤にして、激高した。


 セリフを言い終わると、俺はすかさず回れ右をした。

(背中は任せたぜ。ルイーズ)

 俺は背後の五人を倒すとしよう。


 盗賊たちは、軍隊のような統制も連携も取れてなかった。

 五人バラバラに攻撃を仕掛けてくる。

 俺にとっては好都合だ。

 まずは一人をしとめる。


「グハッ」


「ギャッ、ウハッ」


 そして、二人、三人と、聖剣グランデが勝手にやっつけてくれる。

 でも、これはこれで加減が難しい。

 今回は魔物じゃないから、誤って殺さないようにしないと。


 俺が盗賊を仕留め終えたときには、すでにルイーズの前にも五人の盗賊が転がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ