第十五話 もう一つの依頼
「もうっ! 街中探したのよ。いったい今までどこにいたのよ」
冒険者ギルドを出て、二人きりになるなり、ルイーズがプンプンと怒り始めた。
「どこって、ずっと家にいたけど」
「この一週間ずっと?」
「ああ、ずっと」
「……変ね。一軒ずつ見て回ったつもりなのだけれど……」
「……それって、ストーカーってやつでは?」
「なんか言った?」
「いえ、何も」
そういえば、ルイーズに住所を教えてなかったことに気づいた。
きっと街中の家々を探したのだろう。
そう、家を――。
俺のは屋敷だから、探さなかったに違いない。
なんか知らんけど、ちょっと優越感。
「そういえば、ルイーズもクエスト受注してなかったか?」
ギルドから出るとき、ルイーズも依頼書を持っていたのを思い出した。
「そうよ。って言っても、私のは掲示板のやつじゃないんだけどね」
「というと……名指しの依頼ってことか?」
「そうよ。商業ギルドからの依頼でね。どうやら、隣町との間に、盗賊が巣食っているみたいなの。最近、行商の馬車が襲われる事件が多発しているのよ」
そう言って、ルイーズは依頼書を見せてくれた。
【盗賊討伐 ルイーズ・シャルルーゼ様限定
隣町『レードル』との交易路付近で、盗難事件多発。
相手は盗賊と思われるが、所属は不明。
冒険者にも、多数の犠牲が発生している模様。
細心の注意を払って、討伐されたし】
ふむふむ。
結構やばそうだ。
へぇ、限定クエストだと、推奨ランクの代わりに名前が載るのか。
「ギルドから名指しされるってことは、やっぱりルイーズ結構信頼厚いんだな」
そういえば、以前ミミが、Aランクは王様から依頼されることもあるって、言ってたっけか。
「まあね」
ドヤ顔のルイーズも、またかわいい。
「ってことは、推奨はAランクってことか?」
「そうとも限らないわ。『最低Aランクが必須』、と捉える方がいいかもね」
「どういう意味だよ」
「モンスターなら、推奨ランクは決まってるのよ。種族値とでも言うのかしら。トロールならB、オークならC,ゴブリンならEみたいな感じでね」
「ゴブリンの中に、オークやトロールみたいな強さの個体はいないってことか?」
「そういうことよ。でも、人間は違う」
「ん?」
「冒険者を見たらわかると思うけど、生物の中で唯一、人間だけはランクが成長する生き物なのよ。だから、同じ種族の中にFランクもいれば、Sランクもいる」
「つまり、盗賊と戦ってみるまで、敵のランクはわからないってことか?」
「そういうこと」
なるほど、さしずめ、ランクXというところか。
Ⅹは変数で、その人間の個体値や、経験によって変化するというわけだ。
「ってことは、かなり危険……ってことか」
「そう、このクエストは危険なのよ。私でも達成できるかどうか……」
「それなら、ルイーズも他の冒険者と組めばいいじゃないか?」
「残念ながら、釣り合う仲間がいなくてね。Aランク以上ともなると、数えるほどしかいないから。それに、みんな曲者ぞろいだしね。とても協力なんて……」
なるほど。それでルイーズは一人で討伐に向かおうとしているのか。
「というわけで、私には別のクエストがあるから、『シルバーウルフ』討伐は、イクオ一人で挑んでもらえるかしら。イクオの力なら『シルバーウルフ』くらい簡単に倒せると思うわ」
ルイーズは退廃の森と違う方向へと歩き出す。
俺は背後から声を掛けた。
「なあ、ルイーズが行かなくて、いいんじゃないか。別に、そんなに一人でしょい込まなくても」
「このまま貿易が途絶えると、卵やビール、何から何まで値上がりしてしまうわ。物価が高くなって、人々の生活が立ち行かなくなってしまう」
なに? 物価が高くなるだと。
それはいけない。
辛さはよくわかるよ。
あの真綿で首を締めつけられるカンジ、ものすごく不快だ。
「でもだからって……。どうしてそこまで――」
「この街が私の生まれ故郷だからかな。街の人が苦しむのをわかってて、一人逃げ出した私を、きっと未来の私は許せないわ」
「わかった。その盗賊退治とやら、俺も協力しよう」
ったく、どの世界にも強欲な悪い奴はいるものだ。
物価が高くなろうが、別に俺は痛くも痒くもない。
けど、みんなの生活が脅かされるのは気に食わない。
善人が割を食わされるのは、見過ごせない。
「えっ、でも、イクオには別のクエストが……。途中放棄すると、違約金もかかるし……」
違約金なんて、安いものさ。
ルイーズの命に比べたらね。
「俺ならルイーズのパーティーに釣り合うだろ? それとも不満かい?」
俺はにやりと笑った。
「まさか。嬉しい」
ルイーズも笑う。まるで木漏れ日の下で輝く月みたいな、笑顔だ。
「俺たち二人なら百人力さ。盗賊団だってイチコロだ」




