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第十二話 怒られちゃった

 冒険者ギルドへ帰ると、早速、白兎の皮を納品した。


 皮と言っても、まだキラーラビットの死骸だ。

 クエスト関連の魔物は、ギルド経由で解体屋のもとへと運んでくれるらしい。


「ちょ、こ、これはいったい?」

 デスクに置かれたキラーラビットの死骸を見て、ミミが驚いた声を出す。

「白兎の皮ですよ。ほら、これ依頼書」

 俺は、掲示板からはがした依頼書を手渡した。


「でも、これDランク推奨のクエストですよね。イクオさんは、今日冒険者になられたばかりでは……」

「そうですけど?」

「なにやってるんですかっ! ダメでしょ。もうまったくっ! メーですよ、メー」

 ミミは仁王立ちの姿勢で、ぷんすかと怒り始めた。

 言葉遣いこそあれなものの、でもなかなかに堂に入っていて、迫力がある。

 ちょっとガミガミとしていて、おかんぽさがある。

 ミミは双子の姉なので、その生活環境のせいかもしれない。


「あの、ミミさん、いえ、ミミ様。実は申し上げにくいことがありまして……」

 俺はマジックボックスから、そーっと黒い兎の屍を取り出した。


「そ、それはデスラビット? もしかして、これもイクオさんが?」

「えっとー、まあ。向こうの方から、剣に飛び込んできた、というかなんというか」

 まあ、聖剣グランデの自動攻撃のおかげなので、嘘ではない。


「まったくもう、あなたって人は――」

 ミミの身体がプルプルと小刻みに震えている。


 Fランクが討伐クエストをこなすのは、どうやらギルドのルール違反だったようだ。

 安全のため、モンスター討伐はEランクからと決まっているらしい。


「Fランクは薬草採取がメインだって、私話したじゃないですか。それにマスターブックにもちゃんと注意書きがしてあるのに」

「マスターブック?」

「カードと一緒に渡しましたよね。手のひらサイズの本ですよ」

「ああ、あのハエ叩きか」


 たしか、ギルドのしおりとかなんとか。

 やべっ、全然読んでないや。

 説明書とか読むの、昔から苦手なんだよなぁ。


「なんですって?」

「あ、いえ。何でもないです。すいませんでした」

 俺は頭を下げた。


 ちらりと、端にいるルイーズに目をやる。

(なんで教えてくれなかったんだよ。おい、Aランク!)

 俺のテレパシーが通じたのか、目が合うと、ルイーズはそっぽを向いた。

 そのまま、口笛なんか吹いてやがる。


 お前もマスターブック読んでないんかいっ!


「でも、よかった。イクオさんが無事で」

 ミミが右目を指先でぬぐう。きらりと小さな水滴が光った。


 おいおい、嘘だろ。俺のために

 じーん。

 やばい、嬉しすぎる。


「次からは、クエスト受注の前に私に相談しに来てくださいね」

「はい。気を付けます」

「約束ですからね。絶対ですよ」

 ミミが小指を突き出した。

 指切りげんまん。どうやらこの世界にもあるようだ。


「わかりました。約束します」

 俺も指を突き出した。

 怒られはしたけど、全然嫌な気持ちがしない。

 むしろ、人の温かさに触れた気がした。


「ルイーズじゃないの。ちょうどよかったわ」


 唐突に背後から声をかけられ、振り向いた。

 そこにはすらりとした、赤髪の女性が立っていた。高い鼻が目を引く、凛とした顔立ち。

 くねくねとした赤髪が、肩上でうねっている。

 まるで一輪のバラのように可憐だ。

 それでいて、どこか大人のなまめかしい妖艶さを醸していた。

 比喩ではなく本当に、その出で立ちや雰囲気はバラを連想させた。


 目が横長のせいか、いつでも若干笑っているように見える。そこからうっすらと垣間見える、アメジスト色の瞳。

 引きずるように地面まで伸ばした黒のローブが特徴的だった。

 なかなかにミステリアスな雰囲気をまとっている。


「マ、マリルさん」

 ルイーズがうやうやしく頭を下げた。

 マリルはちらりと俺を一瞥し、微笑んだ。


「あらあら~、もしかしてデートのお邪魔だったかしら?」

「わ、私たち、そんなんじゃ――」

「フフ、冗談よ。本当にからかいがいのある子ね」

 マリルはただでさえ細い目を、より一層細くして笑う。


 マリルは俺の方へと向き直った。

「ねえ、アナタ。ルイーズを少し借りてもいいかしら」

 プルッとした唇で、そんなことを言う。

「あっ、はい。どうぞ……」


「ごめん、イクオ。私急用ができちゃった。この埋め合わせはまた今度するから」

 そう言うと、ルイーズはマリルと共にギルドの奥へと消えていった。


 俺はミミと二人、ポツンと取り残されてしまった。

「なんか有無を言わせない感じの人だったな。妙に雰囲気あるっていうか」

「そりゃそうですよ。ギルドマスターなんですから」

 ギルマス? 

 あの人が?


 確かに雰囲気あると思ったけど。

「ギルマスってことは、ルイーズより強いのかな?」

「んー、どうでしょう。マリルさんはどっちかっていうと、頭脳派ですからね。単純な力なら、武闘派のルイーズさんの方に分があるかと。けど実践となると……甲乙つけがたいですね」

 なるほど。

 知的なお姉さんタイプか。


 それにしても二人とも奥の部屋で、いったい何をしているんだろう。

 もしかして、二人っきりであーんなことやこーんなことを……?

 って、いかんいかん、煩悩、滅!


 俺がじっと二人が消えた先を見ていると、ミミが補足してくれた。

「ルイーズさんはAランクですからね。高ランカーともなると、ギルドの一構成員として動く仕事も増えるんですよ」

「ギルドの仕事?」

「より公共性の高い仕事になります。一般の冒険者だと、自分の暮らしで精一杯ですからね。魔物討伐以外の依頼――市民を支える裏方の仕事をお願いすることもあるんです」

「ってーと、〇〇調査みたいな依頼か」


 討伐だと標的がわかる分、成果がはっきりしやすい。目的達成までの道筋が見えやすく、低ランカーでも達成しやすい。

 一方で調査依頼などになると、成果が複雑化する。白黒はっきりしないものもあるだろう。高ランカー向きというわけだ。


「そうです。まあ、そんなのは面倒くさいと断る方も多いですが。ルイーズさんは嫌な顔一つせず引き受けてくれて、本当に素晴らしい方です」


 なるほど。

 ノブレスオブリージュ――高貴なるものの務め――とかいうやつか。

 強さに見合う、責任といったところだろう。


 強いってのも、大変なもんなんだな。

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