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第十三話 魔家四将

 アジャが案内した先には訓練場があった。扉の前にして思う。強者の気配がしない。ある程度の実力を持った強者であれば、近づくだけで存在が感じられる。だが、強者の気配が全くしない。


 己の気配を完全に消せるのなら、ちと用心しなければならない。ダンジョンの魔族に誰一人感づかられることなく、イットのいる戦闘の間まできた猛者も昔はいた。


 あの時は少々手を焼いたな、とふと昔を思い出す。扉に手を掛ける。期待を持って開けた扉の先には四人の魔物が待っていた。


 二人のナーガの魔術師、ミノタウロスの戦士、ワーウルフの剣士だ。アジャは若者と説明していたが、全然若くない。


 もし、目の前の四人を指して「若い」と評価するなら、魔王軍はかなり高齢化しており、魔王城の守備が不安でしかたない。


 四人を見てこれはダメだ、とイットは暗惨たる気分になった。強者の気配がしなかった理由は単純に弱いからだ。見立てでは四人はマイセンやカッソよりは強い。だが、マイセンとカッソを同時に相手にしたら負ける。


 イットはここで暗い考えを振り払う。もしかしたら、四人一組で戦うチームかもしれない。個々の能力が低くても、集団戦になると途端に強くなる奴らだ、と思いたい。


 イットの暗い気持ちを読み違えたのか、アジャがニタニタと笑う。

「どうなされました、魔宰相様。彼らの実力に驚きましたか?」


「正直に言えば驚いたよ。彼らは何者だ」


 胸を張ってアジャは自慢げに答える。

「メルダイン様を守る、魔家四将です」


 気分は最悪だった。彼らをして「将」なら、目の前の四人がダンジョンの天辺だ。しかも四将と呼ぶなら、四人しかいない。饅頭屋の再建も問題だが、メルダインへの助けを怠れば、せっかく守ってきたダンジョンがなくなる。


 かといって、司令部に「やっぱり戻して」と嘆願するわけにはいかない。下手な進言は魔王軍の編成を歪める。また、そんな嘆願を出したと知られればメルダインが黙ってはいない。


「口では否定してもイットは自分の地位を狙っている」と誤解されたら、自滅する。どうしたものか、と悩んでいると。アジャが促す。


「魔宰相様、彼らに稽古をつけてくれませんか?」


 勘違いナーガのアジャも厄介だ。現状をまるでわかっていない。アジャがメルダインの知恵袋的な相談相手なら、武力も知力も不安な限りだ。


「よし、やろう。実力を知りたい。かかってきなさい」


 ミノタウロスがずいと一歩前に出る。

「我は魔家四将が一人……」


 わずかな希望だったチームで戦い成果を上げる線が消えた。


 名乗りかけたところで掌を向けて止める。

「そういうのいいから、四人全員でかかってきて。手加減も無用」


 イットの言葉を聞いて四人の顔が険しくなった。馬鹿にされたと勘違いしている。つまり、イットの実力がまるでわかっていない。


 ナーガの魔術師が二人同時に魔法を詠唱する。詠唱は速く、しっかりしている。イットは先手を打って潰してもよかったが、あえて唱えさせた。


 人間を飲み込むほどに大きい火球が形成される。大きさはいいのだが、魔力の密度が薄い。あれでは魔法に慣れた人間を即死させる威力にはならない。


 火球が飛んできた。避けるほどでもないので黙って受けた。火球が爆発する。本来の火球の魔法ならば爆発して終わりだった。だが、ナーガの使った火球には一工夫されていた。


 火が消えずにイットの体に纏わりつく。消えずに相手を焼き続ける魔法だが、いかんせん威力が弱い。イットが軽く手を振って、付着した炎の魔力を消失させると炎はすぐに消えた。


 続いてもう一人のナーガの魔術師の魔法が完成する。こちらは炎柱だった。イットの真下の地面から炎が吹き上げる。相手がやりたいことがわかっていたので、ひょいと避けた。


 火柱の魔法も一工夫してあった。火柱の下から魔法の鎖が伸びていた。


 相手を逃がさずに焼き続ける工夫だが、こちらも感心しない。魔力の流れを読まれた場合は炎の柱が噴き出す位置は簡単に予測できる。炎の柱が当たると同時の拘束なので当たらなければ意味がない。


 現に避けたイットの前で火柱が昇っているが、痛くも痒くもない。


 火柱の影からミノタウロスとワーウルフが飛び出した。二人は左右からイットを挟撃した。これもダメだ、と頭が痛くなった。


 イットはワーウルフの刀の側面を叩いて弾く。次いでミノタウロスの斧の一撃を掴んで止めた。


 挟撃は良いが、タイミングが合っていない。二人は同時を心掛けたつもりだろうが、急ごしらえなので無理がある。刀と斧で同時に攻撃した場合、刀の攻撃が速く相手に届く、次いで斧がくるので、読みやすい。


 掴んだ斧ごとミノタウロスを念動力でワーウルフにぶつけた。ワーウルフは避けようとしたが、イットの念動力で足を押さえられたので回避に失敗する。


 イットは瞬間移動で、ワーウルフとナーガの中間地点に出現した。ナーガは警戒して杖を構えたがイットは無視する。四人を一気に念動力で引き寄せた。四人が為す術なく集まったところで闇の柱を叩きこむ。あえなく四人は失神した。


 成り行きを呆然と見ていたアジャに助言する。


「稽古を付ける以前だな。あまりにも弱過ぎる。もしどうしてもというのであれば、きちんと修行メニューを考えて出直すがどうする?」


 アジャは目の前に結果を予想していなかったので、言い淀んだ。無理もない。アジャはイットを追い返す命令を受けている。「よろしくお願いします」と答えようものなら、イットの来訪を認める事態になる。


 真逆の結果を報告すれば必ず叱責される。さりとて、現状では「お帰りください」とは頼みづらい。アジャを虐める趣味はないのでイットから助け船を出した。


「今日は昔の世話になった者に饅頭を振舞いにきただけ。饅頭を蒸す作業に戻るので後で返事を聞かせてください」


 アジャは頭を下げるが、狼狽は隠せていない。

「お手を煩わせて申し訳ありませんでした」


 メルダインがどう出て来るかわからない。メルダインから頭を下げてダンジョンの防備を固めるのに手を貸せと頼むなら、無碍にはしない。


「でも言ってこないんだろうな」とイットは諦めた。


 イットは厨房に戻る時に不用品保管庫の前を通った。気になったので、足を止めて扉を開けた。中にはイットがいた時代に使っていた私物がゴミとして無造作に積まれている。中には愛用していた蒸し器があった。


「もったいない、これは魔力付与がある高い品なんだけどな」


 ダンジョンの主が新しくなればダンジョンの備品をかってに持ち出せない。だが、元はイットの私物であり不用品なら持っていってもいい気がした。


「稽古を頼まれた見返りに持って帰ってもいいだろう」


 メルダインの弱みに付け込むようだが、不用品置き場にあるなら、リサイクルに出されて鉄くずになる。ならば有効利用してやったほうが蒸し器も喜ぶと思い、持ち出した。

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