閑話 防衛設備
「まずは桶の中に水を張り、種籾を投入します。そのまま一週間ほど置いておくのですが、水の中で酸欠にならないよう一日一回程度取り出しまして――」
キングゴブリンたち向けに農業講座をするメイス君だった。ゴブリン相手でも丁寧な対応を心掛けるその姿勢、見習わなくちゃね。
正直、前世の記憶を思い出してからは農業に関する知識も仕入れていたのだけど、なんだかメイス君の方が詳しそうだし、教えるのも慣れていそうだから任せてしまおうか。
というわけで。
ボクとミラ君、そしてライラ君は防衛に関する話し合いをすることにした。
わざわざ魔の森に攻め込んでくる勢力なんてないと思うけど、油断してはいけない。なにせ原作のシナリオによっては騎士団を動員して魔の森へ――というルートもあったからね。まぁシルシュ君が仲間にならなかったバッドエンドルートで、もちろん騎士団も壊滅するのだけど。
「うむうむ。私やアークがいつもいるとは限らないからな。魔物対策の防衛設備は必要だろう」
ライラ君はあくまでボクたちを守るための防御施設だと理解したようで。
「……ん。まずは魔の森の入り口を固めるべき」
ボクの心を読んだらしいミラ君は、人間から攻められることを想定したようだ。
「私は魔法がからきしだからな。効果的な防御方法を教えるとしよう」
ライラ君は元勇者だけど、さすが騎士(軍人)として活躍していただけあってそういうのも詳しいみたいだ。
「まず、魔の森と平地との境目を高い壁で囲うか。ぐるっと」
そんな提案をしてくるライラ君だった。
え? シルシュ君のドラゴン・ブレスの爆発でできたこの平地を? 水平線すら見えそうなこの広すぎる平地を? 囲むだけの壁を造るなんて、一体どれだけの人手と予算が必要だと?
ははーん? 軍人だから予算関係はよく分からないって展開だね? シャルロット理解した。
「ん。問題ない」
こくりと頷くミラ君だった。え? 問題ない? できるの? ……ははーん、理解したよ。ここにいるのはバケモノだけってことだね? 元勇者のライラ君に、この国一番の魔術師であるミラ君、博覧強記も行き過ぎなメイス君に、聖女候補のエリー……。
いやまったく、そう考えるとボクって平凡な女性すぎるよね!
「ハッ」
鼻を鳴らすミラ君だった。キミそういうキャラだったっけ?
◇
「理屈としてはクーマと一緒」
クマのぬいぐるみにしか見えない、自律ゴーレムの?
「ん。ゴーレムを自律させて、壁を造らせる。魔力は土地から自動で吸収させるようにすればこちらが疲れることもない。大量に造れば短期間での壁建築も可能」
「それは、実現できればそうだろうけど……」
「ん。最近『レベルアップ』したので問題ないはず」
我が義妹(ここ重要)レディ君から冒険者特有の言葉も習っているっぽいミラ君だった。
「まずはゴーレムの核となる魔石が必要」
「ほぅ、ならば私が狩ってきてやろうではないか」
肩を回しながら魔の森へと向かうライラ君と、彼女について行ってしまうミラ君だった。
「……自律ゴーレムの大量配備……」
それ、戦力として流用すればかなり強力なのでは?