オブジェクト
「おっ」
順調にダンジョンを進んでいると、行き止まりになった。
壁の前にはいかにも怪しげな水晶が置かれている。
「これが『オブジェクト』って奴か?」
なんだかいきなりゲーム用語が出てきたが、この世界でも普通に使われている言葉だ。ダンジョン関連はいわゆる『横文字』が多用されているんだよな。
ただし、現実世界なのでセーブデータを読み込んでの復活などはできない。
ダンジョンに設置されているオブジェクトの役割は、オブジェクトとオブジェクトの間を繋ぐ転移門だ。水晶に触れることで登録され、他の場所で登録した水晶との間を移動できるようになるらしい。
つまり、最下層の水晶を登録すれば、ここから一気に最下層まで移動できるようになると。
「……なんだかゲームっぽくないかい?」
今さらな疑問を浮かべるシャルロットだった。それ言ったらお前さんはゲームの登場人物じゃねぇか。……いやさすがに原作だとこんなトンチキ悪役令嬢じゃなかったがな。
「何か失礼なことを考えてないかい?」
「いや別に?」
妙なところで鋭さを発揮するシャルロットだった。
「お、そうだ」
オブジェクトに擬態する魔物もいるから気をつけろと教わったことがある。こういうときはやはりメイスの鑑定眼だな。
「じゃ、頼む」
「はい。お任せください」
メイスが眼鏡を外し、鑑定眼を発動する。
うんうん、普段の眼鏡メイスも素晴らしいが、裸眼メイスもまた。しかしだからといって無理に眼鏡を外させるのも違うよな。こう、自らの意思で眼鏡を掛け外しするからこそ魅力が相乗効果で増すというか何というか。
「うわぁ……」
俺の心を読んだらしいミラがドン引きしていた。ふっ、お子様には少々難しかったかな?
「――――」
なぜか尻を蹴られてしまう俺だった。なんかミラの蹴りの威力が上がった気がするな? 慣れて練度が上がったのか、それとも俺に対する容赦がなくなったのか……。
そんな感じでイチャイチャ(?)しているうちにメイスの鑑定が終わったようだ。
「間違いなく本物のオブジェクトですね」
「そうか。助かるぜ。やっぱりメイスは頼りになるなぁ」
「い、いえ、このくらいしかお役に立てませんし」
「いやいや事前に罠かどうか分かるなんて凄いことだぜ?」
「そ、そうでしょうか?」
「あぁ。もちろん戦闘能力の高さも重要だが、こういうときは戦いを避けることこそが最善だ。まったくメイスがいなかったらどうなっていたことか――」
「…………」
「…………」
なぜだか『じっとー』とした目を俺に向けてくるシャルロットとミラだった。なんだろう? 「この女たらしが!」と罵られている気がする。俺は読心術なんて使えないのにな。
こ、これは話題を転換しないとヤバい。俺の第六感がそう言っていた。
「さ、さて。オブジェクトだが、俺は冒険者ギルドの研修で聞いたことがあるだけで、実際に使ったことはないんだが……」
横目で皆を見ると、やはり誰も使ったことがないみたいだった。一番可能性が高いのはラックだったんだが、やはり騎士を目指す人間は冒険者をやらないでそのまま騎士学校に進むらしい。
「一応使い方は知識として有していますが」
おずおずと手を上げるメイスだった。頼りになるぜ。
メイスに教えられながらオブジェクト――水晶を操作する。とはいえ、素手で水晶に触るだけで認証されるみたいだが。
「注意点としましては、登録した本人しか認証されないことですね。つまり登録者が死亡、あるいは行動不能になった場合、このオブジェクトは使用できなくなります」
「なるほど」
一応皆に確認すると、俺が登録するのでいいみたいだった。俺、先頭という一番危険な場所にいるから戦死率は高いんだけどな?
「ははは、ウケる」
なぜか「まったまた~」という顔で笑うシャルロットだった。なんでだよ?