主人公現る【前編】
主人公視点(主人公は自分を含めフルネームで人を呼びます)
西咲はクラスの委員長である。
昼休みに誰一人として西咲に近寄らないのハその溢れでる権力に怯えているからに違いナイ。
鋭い眼光ギラギラで教室を監視し今か今かとこのパワーを行使する機会を伺うガ、ナカナカ難しくて退屈だなァ。
「そろそろ探検しないと間に合わない」
教室の窓際の前の方カラ、宮中達郎がコショコショ話している声が聞こえてきタ。
「でも、危険だし、もう少し調べた方がいいと思う」
あいつと向かい合っている高野孝の子供みたいな声がした。
宮中達郎と比べると、座っていてもサイズ感の違いが目立つナ。
けれども長い前髪で隠れているが高野孝もナカナカ整った顔をしているとみた、羨ましいゼ。
「昨日することはした。これ以上調べることはないよ」
「それでも、神殿につけずに死んだら意味ないじゃん」
長い前髪が曇った。
普通の人が聞いたらゲームか何かについて話してるのかなくらいに考えるだろうガ、西咲は違う。
ひっそりと会話を盗み聞き、その意味を理解し、そして虎視眈々と待ってイタ。
会話に参加するタイミングを。
「死なないように最善を尽くすよ。時計はダメでもタイマーは動いたし、来た道を戻るのに印だってつける。2人だと危ないから人数も増やす」
「……」
「ごめん、自分勝手すぎた。孝はわざわざ付き合ってくれてるだけだもんね。これ以上危ない目に合うこともない」
宮中達郎はそう言って、机の上で手を組ンダ。
一方で高野孝も黙っている。
西咲は割り込みたい欲をグッと抑える。大人だから空気が読めるノだ。
やがて口を開くは高野孝。
「誰を誘うつもりなの?」
イイ質問だ、西咲も気になって耳を澄マス。
宮中達郎は手を組んだまま。
「そうだね、あまり選りすぐれないだろうから。家が近くて暇な人があと1人いればいいかな」
――家が近くて暇な人…………………!?
「西咲ではないカ!」
ドカンと椅子を引き、2人の前まですっ飛んで、華麗に着地。
「西さん?」
2人とも面白い顔をしてこっちを見ている。
説明が欲しいのも無理はあるまイ。
「イイだろう、教えてやる。3日前、オマエらが帰リ、山の方に行っから怪しいと思いて尾行したノだ。さあ観念しろお前らの企みはお見通シだ。ヌハハハハハ」
教室中に響く高笑い。
皆の視線を一斉に受け、楽しくなってキタ。
「た、だ、し。西咲も悪ジャなかろうテ、助けてやらんこともなイぞ」
仁王立ちで威圧感を与える。
あとは、頭を下げるだけなのに2人とも何をそんなに遠慮するカ。
いや、宮中達郎はニヤニヤしながら高野孝に視線を送っている。
なるほど、決定権は小さい方が持ってイルのか。
「やっぱり行くよ」
ア? なんの話? ああ、メンバー脱退の話か?
でもなぜ今?
「よし。メンバーも増えたことだし、今日行けそうだ」
宮中達郎が拳を握り締めた。
なんか西咲、雑に扱われてない?
「おいおい。助けて欲しいなら助けを請エ」
「助けてください」宮中達郎がぺこりと頭を下げた。
「よかろう。さアいくぞ」
かくして、西咲も彼らのアジトに同伴するコトとなったヨ。
アジトに繋がる不思議なドアを抜けると、霧の中に繋がってイタ。
机の天板が扉になっていて、その下にはリュックが置いてアル。
「オマエのアジトはど◯でもドアか?」
「アジトじゃないよ」
宮中達郎は返事をしつつ、ナニカ渡してきた。
見るとカメラだった。
「中じゃスマホが使えないから、これで写真を撮って欲しい」
「アジトで神殿ヲ探すのに、なぜ写真を撮る?」
「ネットに載せて情報を募るんだ」
「オマエらのアジトは撮影禁止、SNSへの投稿は処罰の対象じゃないのカ」
「勝手に処罰されてろ」高野孝がタイマーをいじりながら鼻で笑って言った。
「黙れアホ」
「なら、お前はアホでちびだ」
「ほらほら。喧嘩しないよ。ここは危険なんだから」
宮中達郎がアホを宥めた。
西咲は偉いから怒られなかった。
「なんじゃこれ」
ふと、床を見ると虫がたくさん落ちていてビックリ。
とりあえず写真をパシャリ。
「虫の死骸。19時過ぎてこっちにいるとこうなるって、来る途中言ったでしょ」
アホが言った。
「ああ、言ってた言ってた。てか、隊長はさっきから何しとるか?」
宮中達郎は木の杖の先に黄色のチョークを結んデいた。
「コンパスも使えないからね、来た道をこれでマークするんだ」
「チョーク、盗んだナ」
「大目に見てよ」
「うーむ。恩赦70%じゃ」
宮中達郎は仰々しく片膝をついて、ははー! と頭を下げた。
ノリが良いいのは良いことじゃ。
「さて、そろそろ行こうか。僕は先頭であたりの警戒しつつチョークを引く。孝は僕の後ろでタイマーと後方確認。西さんは孝の隣で写真撮って、孝が困ってたら助けてあげて」
「了解シタ」
宮中達郎を先頭に、三角形の形で歩み始めた。
遠ざかる机をなんとなく写真に収メタ。
「そういえば、明日テストダナ。勉強しとるかね?」
歩き出して、しばらく。
何もなく、飽きテキタ。
「してないけど、授業聞いてれば大丈夫」
「ふ〜ん」
アホのくせに、アホっぽくない答えダナ。
「にしても何もないなあ、オマエらのアジトは」
「アジトじゃないって。でも確かに、そろそろ何かあっても良さそうだけど」
高野孝はタイマーを胸ポケットから取り出し「あと2時間23分だから、まだ5分しか経ってない」と告げタ。
西咲も覗くが本当だった。
「計測ミスはないカ?」
「多分ない」
30分くらい歩いてたらラッキーダナと思っていたノニ……。
ここは何もないから、本当に時間感覚がなくナル。
「ストップ」
宮中達郎が片手を上げ静止しタ。
「落とし穴がある」
西咲とアホは前に来て、それを確かめル。
「おお?」
それは、人が1人すっぽり入るくらいの床が抜けたような穴だっタ。
「これ、落ちたらどうなんだろう?」
アホも初見のようで、穴から後退りながら言った。
「調べてみようか」
宮中達郎はそう言ってリュックから方位磁針を取り出して、投げ入レタ。
「…………音が返ってこないね」
どうやら、相当深いラシイ。
「落ちたら危ないし、周りを囲んどこう?」
高野孝がそう鳴くと、宮中達郎はチョークで侵入禁止にした。が、普通に侵入して、穴の縁をさすった。
「何しテル?」
「床の厚さが気になってね――厚さ30センチくらいでその下に広がりがある。とりあえずメモしとこう」
宮中達郎はズボンのポッケから手帳を取り出し書き込ンダ。
「にしても、なぜ穴なんかできるノダ?」
「わからない。けど、床は全く傷かない素材というわけではないから、歩いてて違和感があったら注意して」
隊長は手帳を閉じてポッケに仕舞うと、再び前進シタ。
我々も元の列に戻ル。
それから、落とし穴を所々に見つけては踏まないようにし、出発から1時間が経った頃。
宮中達郎の警戒の眼がボヤけたナニカを捉える。
「止まって……なんか公園のようなものがある」
「公園? 神殿じゃないのカ」
西咲は自分で確かめようと宮中達郎と肩を並べる。
チキンは一拍置いて見に来タ。
「……水佐ノ公園」
チキンがぽつりと呟イタ。
「みずさの公園?」
宮中達郎は公園の入り口に近ヅキ、銘板を一読しサッと顔をこちらに向ケタ。
緊張した面持ちで、手招いていた。
西咲らはゴクリと唾を飲み込んで、銘板を覗ク。
――水佐ノ公園。
「どうして、名前を知っていたの?」
宮中達郎が普段より落ち着いた声で諭すように尋ねた。
というのもチキン自身が一番驚いた顔をしていたからナ。
尋ねられ、顔を俯かセタ。困ると俯くのが癖なのかもしれナイ。
「夢でよく出る場所なんだ」
高野孝の小さな声は白い空間によく響いた。