表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

価値と運命

 檻には入ったが、俺としては此処が当たり前だったからなぜか落ち着いていた。ソウルイタは椅子に座って心配そうに俺を見ている。

 

「大丈夫か?やけに落ち着いているようだが」

「そりゃ、ここが俺の実家みたいなものなので。」

 そういうと、ソウルイタは苦笑いしながらも同情するように大変だったなと呟いた。

 

「俺は確実に殺されるとして、彼女も殺されるのか?」

「あぁ。彼女は村を焼いたし、もう一つの事件にも関わっているようだからな。」

「その事件って」

「前に少し言ったはずだ。村で2人死んだ事件があってな、上手く隠しているようだが、死の匂いは強いからすぐにバレて魔力の源を見た結果彼女と合致した。」

 なるほど。ヴィンの言った言葉と合わせて考えてみるとその血を使って俺を生み出したと。


「殺しは罰になる。そして……綺麗な魔力を持つものを殺せばその罪は重くなる。綺麗なほど」

「それは顔のことか」

「あぁ。それがこの世界のルールと価値観だ」

「なら、エスティアが殺されたら罪は重いか?」


 そういうと、彼女は黙り込んだ。

「罰金くらいじゃないかな」

「なら、俺がお前の後ろにいる女を殺したらどうなる。身分を村人と仮定して」


「え、わたし!?」

 後ろにいた見回りはおどろいていた。顔も綺麗という基準を考えると高い方ではないんだろうか。



「……?そうだな、斬首くらいだろうか?」

「なるほど」


 俺はその意味をゆっくり飲み込んだ。重い鉛のような感覚で。顔で殺しの罪が変わる。価値が変わるねえ。


「そんな格差ならこの世界を恨むのも仕方ない。人の価値は顔で決まるとは無惨だ」

「……そうか。私は慣れているからなわからない。まあ、たまに綺麗に生まれてよかったと思うことはあるが」



 そういうと、ソウルイタは立ち上がった。


「さて、君のことは可哀そうではあるが殺さなければならない。この世界のために」

 それはそうだな。これ以上置くわけにもいかないのだろう。殺せば、エスティアは悲しむ。それも狙いかもしれない。なら……最後の足掻きとして、ずっと前から心にある質問をぶつけてから死ぬとしよう。

 

「最後に一つ。なんで俺は殺されるべきなんだ。」

「それは……。いや、どうせ死ぬなら話してやろう。満足できないのもわかるからな」


 そういうと、彼女はまた椅子に座った。

「これは魔法を使えるものがいなかった少し昔になる。当時は、お前のような人間がいるのが当たり前だった。だが、一人の魔法を使えてしまう人間が生まれてしまった。それが私達の祖先だ。」

「……ほう。」


「次第に、魔法による支配が当たり前になった。だが、魔力が使えない人間は自分たちの世界を取り戻そうとした。そして、生まれたのが勇者という悪しき者だ。我々の祖先はその勇者と戦い勝つことができたが、人間の最後の希望がこもった刃はとても強力だった。」

 なるほど、あの噴水にはそんな過去があったんだな。そんなに強敵だったなら像にする気持ちも分からなくはない。


「あの象はヴィンという人の血族か」

「あぁ。あの方が封印したからな。あの方が剣を押さえつける。それが象徴だった。壊れてしまったが。」



 ソウルイタは軽く咳払いをして話を戻した。


「その彼を封印してから我々は魔力がない人間を恐れるようになった。あのお方の命だ。」

「俺は勇者とか全く関係ないですけど。」

「そこは……実は私も疑問を持っている。なぜ、魔力がないだけで勇者になりえると考えられ恐れられているのか、どうやって我々と渡り合ったかは教えられていない。ただ、代々無能力者を恐れている。」

 ソウルイタはそう言うと、立ち上がり髪飾りに手をかけた。

 

「すまない、もう時間がないんだ。お前は色々巻き込まれただけで不運な出生なのも分かっている。だが、これがキマリなんだ。」

「分かってる。恨む気は無いよ」

 俺は目をつぶった。最後は少し楽しい夢を見ている気分だった。

 

「我が水の魔女の名のもとに、罪人に慈悲を、無痛の終焉を与えたまえ。ブルッシュ・コール。クラッシュ」

 首元に冷たい刃が当たる。俺も彼女も何も叶えられなかった。

 俺はただ受け身でしかやっていけない。何もないんだから。あの人が俺を守ってくれていたからみれていた世界。すごく綺麗だった。



 エスティアには魔法が沢山ある。だから、この世界を平和に生きることも可能だがアイツの気持ちもよく分かる。



 キンッ

 その時、剣が弾かれる音がした。


 首にあった剣先は消え、ソウルイタは絶望するように固まっていた。


「なぜ、ここに勇者の剣が」

「……?」

 ――お前はそれで本当にいいのか? 俺の意志はまだ……剣にある!お前との約束を今ここで果たす。


 目の前にあるのは噴水でみた剣だ。約束?なんの事だ。


「忌わしき剣が!」

 彼女が剣を握った途端、ソウルイタは吹き飛ばされた。


「なんだっ!」

 体勢を整えながら、彼女は息を吸った。



「例の剣が暴れている!至急軍を招集せよ!」

「……おい、剣。なんのことを言っている。なんか人が来る。まずいぞ」


 ――なら、握れ。思い出せ、希望を、未来を、俺たちの役割を!お前は無能力者なんかじゃない!この剣はお前を選ぶはずだ!


 剣から声がしているようだった。

「……」

 よく分からないが握るしかない。それがどんなものであっても、まだ希望になり得るのなら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ