不遇
「……おい」
「彼女が水の魔女。ヴィン・トリア」
彼女はすぐに俺を下すと離れろと手を払う。エスティアすら危うい相手がこんなに早く来るとはな。
この人……どこかで似た顔を見たような気がする。
「あなたの茨は生命力が強くて、いい道しるべになりました。」
「その言い方やめなよ。変に偉そぶってさ。」
「私は色々と立場がありますから。――あなたと違って」
「――!!」
ヴィンという女性とエスティアは知り合いとみていいのだろう。詳しくは全く知らないから予測しかできないが。
「私の親友を殺して、こんなことをするとは思いませんでした。まさか、こんな危険人物を呼び出して首輪をつけるとは」
「あんたに何がわかるの。なにもかも奪ってきたくせに!!」
そういうと、茨を溶かすようにして俺の方に振り向いた。
「天から見放された少年よ、聞いてください。彼女は人を殺し禁忌で貴方という無能力者を生み出した。親に罪はなく、世界にも恨む必要はない。ただ彼女のせいで貴方は無能力者になったのです。」
「黙れ!!」
自分がなぜ無能力者になったのか。彼女と俺になんの関係がある?
「待て。生まれつきの無能力者じゃないと?お前はそれを知って迎えに来たのか?」
「……」
家族にはただ謝るしかなかった。でも、脳裏で家族のせいで俺はこんなのになった説もあるのではと考えたこともある。
「禁忌……血を網合わせ生命すらも狂わせる。運命を歪ませてまで手に入れたい望み、エスティア……望んだのは忌わしき勇者なんでしょ?でも、失敗。あなたはただの無能力者よ。だって顔は覚えているもの。あの銅像を見ればね」
「……意味がわからない。なら、俺がここまで家族を苦しめたのは彼女のせいだっていうのか?」
「えぇ。そうです。なんて可哀想……愚かな運命を背負いし人。」
エスティアは呆然と黙り込んでいた。
「答えてくれ。」
「……」
こういう時、お前はなんていったら教えてくれるんだろう。負い目を向けているんだろうか?
生まれてしまったものは仕方ない。失ったものは仕方ない。力がない俺はそうやって飲み込むしかない。
お前のせいであっても。
「俺は無能力者だ。それはお前を恨んだとしても変わらない。世界は俺を殺しにくる。お前は俺を助けてくれた……なら、この事は目をつぶって騙されたままお前についていきたい。」
「……バカなの!? そうよ! 私のせいで貴方の自由も家族も失ったの! 家族だって私が殺した! 私の私情で!」
パチパチ
「――!」
「はははっ。えらいわね、しっかり罪を言えて。あなたみたいな人はそうやって波風を立てるのも前にでるのも許されないの。さあ、罰を受けなさい。あなたにピッタリの潮目です。」
ヴィンは手を叩きながら近づいてくる。
「大っ嫌いなんだ。この世界……みんな綺麗な顔に綺麗な魔力があるって信じてる。中をみてくれない……能力より外面なんだから。醜ければ下に見てさ……ストレスのはけ口に散々にしてくれたんだなコイツ。生まれの魂なんて皆同じなのに。」
「……俺の全てを渡す契約は既に終わった。恨む気は無い。俺に広い世界を見せるのも、殺すのはお前だけだ。お前のやりたいことを俺は遂行する。」
俺はブツブツ言うエスティアの腕を取った。
「俺はどんなお前でも、世界がなんといっても俺だけはお前を受け入れる。だから、力を貸してくれ。」
「……っ。」
エスティアは驚いた顔をした後に静かに頷いた。
「―――!」
ガッと出された右手に答えるように、茨はあたり一面から現れては視界を奪っていく。だが、全てがヴィンに向かったとしても全て弾かれる。
「ユイト、来て」
次は上に茨を伸ばして彼女は俺の手をとった。
瞬時に視界が代わり大きな町が見える。ブレイブスルだ。
「派手にやっちゃおうかな。」
「……なにをする気だ」
その瞬間に、シンボルである像が爆発した。
「……それは派手にやっちゃったな。」
「あはは!楽しい!ユイトに受け入れてもらえるだけでこんなに心が軽くなる!」
像の前に立つと皆が逃げ出し誰もいなかった。
煙が消えると、ただ一本の剣が銅像の色ではなく鋼色に輝いていた。
吹き飛んだのは……ヴィンによく似た人だ。そして、剣を握りしめているのはボロボロの青年だった。
「……」
なんだろう。俺はなにかこの青年の顔が焦げ付いていく。
――お前が勇者になれ!はやく!
「――!?」
何を言っている。
「どうしたの?」
「いや、声がした気が」
「へんなこというね。……グハッ。あれを使おうとしたんだけどダメかも」
「おい!」
彼女の身体がどんどん青くなっていく。まさか、魔力が使えないようになにかされたんじゃ。
対処する隙もなく、俺たちの前に彼女が降りたった。後ろにはソウルイタもいる。
「わたしの血族を……残念です。貴方とは背負っている数が違う。悔やむより先にあなたを殺します。」
「――!!」
決死の思いで出した茨の間に見えた一筋の光。その光はエスティアをいとも簡単に打ち抜いた。彼女が息をする暇もなく無気力に倒れこむ。
「おい!」
「そのものを捕まえなさい、ソウルイタ」
「はっ」
エスティアに近づいたが、もう息をしているかすら怪しかった。俺は、ソウルイタに抵抗しきれず連れていかれた。もう自由は終わったんだろう。ほんの一瞬だったが楽しかったと言われればそうかもしれない。