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デート

 早く寝たんだから、早朝に起きるのも当たり前のことだろう。俺は目を開けた時に、空腹と身体の茨に襲われて困っていた。昨日より茨が肌にくっついていて痛い。


 隣をみたが、彼女の姿はなかった。俺をベッドに縛り付けてどこかにいっているらしい。


 彼女がいないと動き出せないし呼ぶしかない。

「おーい、助けてくれー」


 すると、バタバタと足音が聞こえてくる。


「おはようユイト。起きたみたいだね」

「あぁおはよう。頼むから早く解いてくれないか? 身動きが全く取れないんだが。


「そうだね」

 彼女がそう言うと、すぐに茨がほどけていった。相変わらず身体は血だらけになっている。


「ごはん食べる?」

「あぁ。」

 そう言って、俺たちはキッチンに入り椅子に腰かけた。


「はい。これがパンね。で、そのバターっていうクリームをつけて、この砂糖っていうものを振って食べてね」

「ありがとう」

 言われた通りに、パンを半分に割ってバターを塗り砂糖を振りかけた。そして、口に運ぶ。


 スープみたいに身体に染み渡る味ではないが、バターの匂い、噛み心地、味が全て初めてだった。


 ……なんだこれは、うまい!


「美味しい?」

「美味しい!」

 そう言うと、彼女は「よかった」と嬉しそうにうなずいた。


「今日はアクアリウムに行こうと思います」

「あくありうむ?」

 町の名前だろうか?


「水族館といえばわかる?」

「……あっ。なんとなく何かが泳いでいるんだよな」

 どこで聞いたかは忘れたが俺はなんとなく理解した。


「じゃあ、行こう」

 食べ終わると、俺は彼女に言われるがままについていった。ローブもしっかり被っているし、次はバレないといいんだが。


「今日は歩くのか?」

「うん。昨日あんなことがあったし、今は魔法の痕跡が残るのは避けたいんだよね。私でも、簡単に探知できるくらい魔法って自分のエネルギーをつかっているから特定されやすいんだ。」

 魔法というのは便利な半分、困る事も沢山あるらしいな。そして、俺たちは焼けた村を通り過ぎていく。なんとなくだが、村を中心とした場合右がブレイスル、左が今向かっている場所だろう。


 昨日の町。あれは空中を飛ぶのが当たり前の場所だった。

 あと、あそこにあった銅像。今思うと変な違和感があった。


 特にあの剣。人が祈っているのは永遠の封印を望み、安明を願っているから。なら、何故……悪き勇者に祈りを捧げるんだろうか?


「考え事?」

「あぁ。昨日はバタバタしていたが、今考えると町には色んな疑問がある。なんというか……あの町が……いや」

 うまく言語化できないが、あの町全体に何か違和感がある。既視感というような。


「そうなんだね。うん。きっと分かる時がくるよ」

「あぁ。そうだな。」

 そういうと、エスティアは空気を変えようとしているのか前に出てクルリと回った。


「やっぱり誰かといると楽しいね。ここは、町から離れてるから、昨日よりは全然安全だよ。でも……本当は町でやりたいこともっとあったのになぁ」

「ほかの場所でもできるんじゃないか?それに大体のことができるなら魔法で何でも願いが叶う日がくるかもしれない」

「面白いこと言うね。いつか町でも作ってみようかな、なんてね」

 彼女はクスッと笑い、楽しそうに俺の手を取って振っていた。


「お前ならできるだろ」

「しないよ。私は、ユイトしか興味ないもん。ま、また考えるよ」

 軽くそう言うと、目の前に大きな洞窟があった。中からざわめく声と、涼しい空気を感じる。


「ここだよ」

 二人で降りると、人が立っていてエスティアがお金を渡していた。それにして、この人、お金はどこから手に入れているんだろうか。ヒモの俺が言うのもなんだけどな。


「ごめん。俺はお金ないから。働いて返したいが」

「別にいいんだよ。だって願いを沢山叶えてくれているんだから。ただあなたはずっといればいいの」


 大きな水槽には牙をもった大きな魚が泳いでいた。他の魚たちは道を開けるように静かに泳いでいる。それをみてエスティアはため息をついていた。


 それを人々は嬉しそうに見つめている。


「どこも変わんないな。」

 あんなに楽しそうだった人がすぐこんな表情になるとは。


「そんなこというなよ。ほらあのきれいなやつ見てみろよ」

「あれは……クランゲだ。」

「小さくても誰かを魅了するやり方を持っているやつもいる。やり方といっても自分らしくしているのがいいんじゃないかな。ま、俺は人の事も自分のことも分からないから偉そうには言えないが」

「私は全部奪われちゃった。自分なんてもう遥か昔から見失ってる。ただ深い傷しか残ってない。」

 彼女はそう言いながら、クランゲと牙の大きいやつを見比べていた。


「でも、ユイトといたらなにかわかる気も傷がほのかに癒える気がするの」

 少し元気を取り戻したようだ。次はコレ、アレやら指をさしていく。


 良く分からない貝殻が浮いたり沈んだりしていたり、魚の大群が道を囲むように泳いでいた道を歩いた。

 彼女は俺に倒れこむように歩き始めた。これが憧れの歩き方なのだろうか。まぁ俺に支障はそこまでないからな。


 沢山の魚が気持ちよさそうに泳いでいて、俺もリラックスできた気がした。この空間はなんか落ち着くな。エスティアも昨日は張りつめていたしいい気晴らしになったと思う。

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