ソウルイタ
「失礼。私の名はソウルイタ、お前があの森を焼いたのか。で、このせき込んでいる奴が例の男か。」
「ゴホッ、ちょっ、ちょっとまっ、うっ」
「……。君大丈夫か。ふむ、餅でも飲み込んだのか呼吸すら危うそうだな」
そう言うと、彼女は俺の体に手を回した。
「――!」
「――!」
俺の驚きとは違う意味でエスティアは目を見開き唇を噛みしめるようにして手を開く。
「触るな。私の最後の希望に。お前みたいなのが適当に足かけて取っていくんだ。私が捕まえた最後の希望に触るな。さわるなさわるなさわるなさわるなさわるなさわるな」
ブツブツと言葉を口走りながら茨を伸ばしていく。
「待て。」
「うえっっ」
その瞬間、彼女は腕をしめ俺のお腹を圧迫し、喉に入っている物体を吐き出せた。
俺を助けてくれた女はすぐに髪の結び目に手を伸ばし、髪飾りを取ると蒼く光る剣となった。
「ブルュッシュ・コール。クラッシュ」
その剣から出る冷気は一瞬で茨を凍らせる。その後、氷は解け水が彼女の剣にまとわりつく。
「そんなんで負けるわけねぇだろ!! この泥棒猫が!!」
しかし、茨はそれぞれ命を持っているかのように四方八方に動き回る。さっきよりも勢いがある。
「返せ!!!!! ユイトを!!!!!」
「まて! 彼女は俺を助けてくれてくれただけだ。さっきのものが喉に詰まったんだ」
俺は彼女の前にたった。少し色々と誤解がある気がする。
「そうやって……お前も裏切るのか!!!!!」
「え」
彼女を狙っていた茨が俺に向いた。ただ弁解しただけなのに、俺にまで茨を向けるのか?
「そうやって変に勘違いするのは良くないぞ。話を聞け。その子が困っているだろう。」
「うるさい!! お前らが私を壊したんだろ!!!」
俺が争う二人を見て唖然としていると背後に誰かの気配がある。振り向くと男の人たちが俺を囲んでいた。痛そうに茨のとげを抜きながら。
「一緒に来てもらうぞ。」
「……」
これは無理だな。おとなしく捕まっておこう。もう死ぬならそれで仕方ないかもしれない。あきらめるなと言われても変に前にでるとこの男みたいに茨やら氷で負傷して死にかける、捕まっても死ぬ。これはどうにもならない気がしてきた。
「そこの女。おとなしく連行されろ。さもなくばコイツをここで殺す。そもそも人権などないからな。」
俺の首元に紐のようなものが現れ次第に狭くなっている。さすがに、これが首に締まるのは痛いだろうな。死にたいが、これで締められるのはちょっと抵抗がある。
絶体絶命だが……今なら声をまだ出せる。死に方を選べる身分ではないが、エスティアに訴えてみよう。
「俺は言う事を聞いてやった。足りないと言われても知らない。早く助けろ。お前は俺の望む死をくれるんじゃないのか?っぐ――!!」
俺は、締め付けられる感覚に何も出来ず意識が遠のいていくのを受け入れるしかなかった。痛い、苦しい、ただ、息が細くなる。
「……っ。分かった」
そういうと彼女は手をあげた。と思った矢先、俺の後ろにいた男が茨に突き刺されていた。周りを茨で巻き散らかしたと思えば、一気に先端の茨まで燃やし尽くす。
その様子を見ていると、いつのまにかエスティアが俺を抱きしめてきた。
「瞬時転移だと 」
彼女は俺を担ぐと、茨を使いながら上へ上がり、ソルウルタと呼ばれる女の人を見下していた。
「多彩な魔術……少し前にここで二人の女が魔女に襲われたという知らせがあった。遺体は縛られた跡を残し遺骨になっている。少しその話についても聞きたいものだ」
「話すことなんてないよ。ただユイトがいればいいの。邪魔しないで。」
ソウルイタは飽きれたようにため息をついた。
「どうやら私たちの情報が洩れて先回りされたようだな。だが、魔力のない人間は危険だ。我々はこのブレイスルのルーカト。水の魔女に愛されたものだ。ここで逃しはしない。」
「……あいつ、もうそんなんになってるんだ。ほんと、何もかも手に入ってて憎たらしいな。」
よく分からないことを言う二人に俺はついていけないまま、エスティアに担がれたままだった。重くないのだろうか。
「お前は多彩な魔力がある。魔女にすらなれるほどだ、だがその力をこの場所で悪用するのは許さない。あの方に慕うものとして」
「じゃあ、勝てばいいじゃん。今日はもう疲れたから。また次かな」
ソウルイタが剣を振りかぶるより速く、彼女は手を上に伸ばし指を鳴らした。向かってきた水は俺たちに届かず、最初に来た時と同じように視界が真っ黒になった。
――気づくと昨日の家についている。
「……へ」
「大丈夫?もう帰ってきたから安心してよ。」
彼女は俺を担いだまま、部屋に入り椅子に座らせてくれた。
「なにかされていない?術は……かかってないよね。」
「あぁ、よくわからないが色々終わったんだな」
彼女は俺をとても心配そうにしていたが、俺は元気だ。あの食べ物以外は。
「あの人は俺が食べ物を噛みきれなくて、息が出来なかったから、助けてくれたんだ。説明しきれなかったのはすまない。」
「あっ、そうだったんだ。……ごめん。私、早とちりしちゃって。」
「別に構わない。だが、お前はこれからも俺をかばい続けるのか?今日、散々な目に合った。もう俺を連れ出さない方がいい。」
良く分からないが、簡単にまとめるとソウルイタという人に見つかったのはまずい気がする。町を守っている人ぽかったし。まぁ、村を焼いて、人が死んで、俺みたいなやつを拾ってきたんだから目をつけられるのは仕方ないきがするが.
「あの人はルーカトっていう魔制局、スレイブルの団長だったかな。魔法と人の正しきあり方を求め、管理する団体だよ」
「ならまずくないか」
「まずい。でも、力はあるからさ。なんとかなると思う。あの魔女がこない限りは。」
魔女か。確か、親の会話では誰もが勝てないと思わせる圧倒的な魔法。誰もが羨む存在らしい。俺としては忌々しいイメージがなんかあるけどなぁ。ちなみに男は魔帝というらしい。
「これからどうしよっかな。引き込もるのは出来るけど、それじゃつまんないよね。」
「俺はずっと引きこもって住ごしてきたからそこまで考えない。」
「それじゃつまんないでしょ。せっかく自由になったんだから楽しもうよ。やりたいこと沢山あるし。じゃあ準備できたら遠いところにいく?」
彼女はそう言いながら、昨日のようになにかを作り始めていた。
「そんな簡単に出来るのか?遠いところに行けば、この家はどうなる?こんなにものあるのに」
「大丈夫。この家ごと動させばいいから」
家ごと移動だと……?この大きな木ごと動させるということか。
「なんでそんなに魔法を沢山持っているんだ?あの人は水と剣しか使っていなかったたが。」
「あれが普通だよ。一つの魔法を完璧に使いこなせるように覚えるだけで大変なんだもん。でも、私みたいに沢山覚えようと学校にいったり、旅に出て書を読みまわったりして沢山覚える人もいるんだよ。そして、あの町にいる魔女もその一人。」
「なら、お前は魔女にはならないのか?町の代表になるくらいの地位だろ?持っていても損はないはずだ。」
そういうと、料理を作っている手が止まった。
「無理だよ。私は他人には愛されない。この醜い顔じゃ人の前には立てない。」
「……そんなわけ」
「醜い顔の人間は愛されない。私は学校でそれを痛いほど痛感した。もう人前に立つ気はない。だからユイトを守るために私はこれから生きていくんだよ」
「それでいいのか。頑張って手に入れたんだろ?」
「いいの。力しかないんだから。」
そう言うと、彼女は俺の横に座り顔を隠すようにしがみついた。なにか彼女の気にしていることを言ってしまったのかもしれない。
「もう話したくない。今日は休む。」
「分かった」
少し日は明るかったが、俺はしがみつかれたままベットに入り眠った。あいにく俺も疲れているし、お腹がすいてようが眠れるように生きてきたので気にしなかった。
「――ということがありました。」
「ありがとうソウルイタ。そして、私の愛するルーカトの皆さんの働きに感謝します。一人ずつ私が手当します、その際に茨を回収して魔力探知でも致しましょう。……実を言うと、その話を聞いて一つ宛はあります。彼女なら猶更、これ以上この町を汚すのは許されません。」
レッドワインのカーペットを歩きソウルイタの頭を撫でる女性は静かに息を吸った。その呼吸に誰もが息をのみ見とれていた。