町
「……っ」
疲れてすぐに眠っていたからか、目を開けると、朝になっていた。そして、意識がはっきりしていく事に身体に棘が食いこんでいることにきづき痛みが俺を襲う。
茨が俺と彼女を取り囲んでいる。
そんなに俺が逃げるのが怖いのだろうか。逃げたところで居場所も頼る人もいないのに。彼女の顔に巻いた茨のせいで俺の頬も傷だらけだ。
「……おはよう、ユイト」
彼女は俺が起きたのを気づくと、すぐに起き上がり俺の体を抱きしめる。いつの間にか巻きついた茨も消えていた。
「傷だらけにしてごめん。でも、やっぱりあなたを失うのが怖いの。ユイトを失ったらもう生きていけない。貴方しか受け入れてくれない」
彼女は身体が潰れるような力で抱きしめる。何か怖い夢を見たのか、彼女は震えているようだった。
「別に怒っていない。いつもより良く眠れたし。」
「そっかずっと檻だったもんね。今日はどうする?町に連れて行ってあげようか?」
彼女は簡単だというように提案してくる。外にすら出られないなら、町なんて更に難しくなるに決まってる。
「できるのか?」
「うん。」
――その頃
「なんだこれは……」
装甲を纏う集団を引き連れた女性は、灰になった村へと飛び降りると唖然としていた。
「……」
(我々はただ、魔力が使えないという男を捕らえにきただけなのに。)
「早まるな。まだ確認しない限り撤収はできない。引き続き捜索を行い、並行して被害者の捜索を行え」
「「はっ!」」
命令と共に、ひとけがない燃え尽きた村に散らばっていった。例の男の痕跡だけを求めて、灰が舞い散る村を追っていく。すべてはこの世界のために。
――
「これで本当にいいのか?」
「うん」
彼女から渡されたのは黒い全身を纏えるような服だった。しかもフード付き。
「このローブがあれば魔力はないと分からない。」
そう彼女が言うので俺は信じがたい気持ちで布に手を通した。特に違和感なく肌に張り付いているような感じだった。
「じゃあ行こう。近くにある町、ブレイスルに」
「お前も着るのか?」
ローブを同じように被っている彼女に手を差し伸べられ手を取ると、急に目の周りが真っ暗になった。そして、気づくと空を飛んでいる。今にも落ちそうな勢いで。
「――!!!」
「大丈夫だよ、ユイト。私につかまっていて」
そういうと、彼女は俺を抱き潰し、肩に顔をうずめて匂いを嗅ぐように鼻を動かした。まぁ、浮いて何とかなったしそれだけでどうでもいいや。
周りを見ると当たり前のように皆が空を飛び、店と思われる建物が沢山並ぶだけでなく浮いている。
「なんでみんな歩かないんだ。馬車とかもないし。」
「なに言ってるの?ここの人は歩くなんてしないし……馬車ってなに?」
「えっ?」
彼女はきょとんとした後に首を傾げていた。
「こうやって空を飛ぶのが当たり前だよ。だってみんな魔法を使えるんだから歩いても遅いだけじゃん。ほら、まずは色んなお店を見にいこうよ」
そう言うと、俺の手を強く握りさらに勢いよく飛び上がり宙を舞っていく。次第に身体も速さに慣れていき、見える景色が町と合わさってとても美しく見える。
「ここはパルフの色染めのショップだよ」
「パルフというのはなんだ」
「ここで有名なストラップなんだ。ほら。」
彼女が俺に見せてきたのは、翼の生えた動物……いや動いていない。紐につられていて動けないのか。
「可哀そうだ。離してやれ」
「面白いこと言うね。これはこの町で有名な獣の作りものだよ」
作り物?こんなきれいな目をしているのに?まるで本物のようだ。まあ、本物を知らないが。
「私ね。お揃いでつけるのが夢だったんだ。」
「お揃い……つまり、俺とお前で一つずつ買うということか?」
「そう!!」
彼女は俺を力強く引っ張ると、店の奥に入っていく。奥に入るとさっき見た白い獣が並んでいた。1つならまだ可愛いが、沢山あると気味が悪いな。
「はい、これ一個もって」
「あぁ」
俺はひとつ手に持ち、彼女についていく。顔はあの茨だが、ローブがあれば誰も気にかけないんだな。
「何色がいい?」
「何色でも。好みなんてない。」
「じゃあ青にしようかな」
彼女は二つのものを持って、誰かのところにいき暫くたつと青とピンクのものを手に乗せていた。
「これはユイトの分ね。これでお揃いだよ」
俺が青いものを受け取ると、彼女はピンクのものを大事そうに抱え込んでいた。そんなにこの獣がいいんだろうか。それか「お揃い」というのは特別な意味を持っているのだろうか。
俺は、檻の中で家族の聞こえる声で言葉をなんとなく使えるようにはなったが、意味をあまり理解しきっていないのかもしれない。
「ずっと憧れだった。こうやってお揃いの買うの。ほらっ次行こ!!」
「おっ、おい。」
彼女は楽しそうに俺の手を取るとまた空を跳び上がる。離せば真っ逆さまに落ちるのはわかりきっているので従うしかない。無造作に動く空中ではバランスを取るので精一杯だ。
おそらく向かっているのは、この町で一番上で浮いているところだろう。下からでは何もみることはできないが。
そこに行くと、大きな広場があった。
「ここは噴水の綺麗な所なんだ。ここで椅子に座ってのんびりするのが夢だったんだ」
「そんなの一人でも出来るだろ」
「一人でこんなところ来たくないよ。この顔で一人なんて、皆に笑われるに決まってる」
彼女はそう言うと、少し悲しそうにうつむきながらも首を振った。
「でも今はユイトが一緒にいるもん。ねぇ、なんか食べたい?」
「じゃあ、なんか食べようか。」
彼女は俺の言葉を聞くと、嬉しそうに近くにある小さな店に足を運んでいた。文字はあいにく字は読めないから分からないな。
それにしても色々あったなぁ。この二日間。まさか、家も家族も皆燃えてよく分からん人に養ってもらえるようになるとは思わなかったな。よく怒鳴り合う声が聞こえて知っている、これがヒモってやつだ。
ふと気づくと噴水に向かって祈るように頭を下げている人が何人かいた。よく見てみると、水が出ている部分に何か灰色の銅像?みたいなのがある。
「ユイト、何見てるの?」
「いや……あれが気になって」
彼女はよく分からない食べ物を手に持っていた。
「あれは最後の罪人って言われていて、ここはその罪人を倒した聖地なんだ。」
「罪人?」
「あんまり分からないけど。でも、私はあの人のこと好きだよ。だって私みたいにどうしようもない事で嫌われていたから。」
「そうか」
よく分からないが、あの噴水の人もとんでもない目にあっていたんだな。
「はい、これ」
渡されたのは、茶色の薄い皮に包まれていた果物だった。薄い皮に包む必要あるか?
「じゃあ、一緒に食べよ」
「ん、」
俺がその物体を口にすると、中に噛みきれないものがへばりつく。
なんだこれ。
「おい、お前達」
「――!んっ」
急に低い女性の声が聞こえ、喉に物体が入ってしまった。
「誰?」
「しばらっくれるな。この人殺しが」
すぐにエスティアが俺の前に立ち、睨みつける。まあ、顔があれだから睨みつけるとかないんだけど。
周りにはよく分からない女性の仲間のような人達が周りを囲んだ。もう終わったんじゃないか、これ。
俺は諦めて喉に引っかかったやつに負けて咳き込んでいた。