エスティア
「お腹すいた」
「いいよ。沢山食べさせてあげる。」
エスティアは俺の手を掴むと歩き出した。
「付いてきて。」
「どこに行く気なんだ?俺は、見ただけでバレるんだぞ。お前が強くてもご飯なんて……」
「大丈夫。今日は私の家だから。それももう考えてる。」
考えてるとは……準備がいいな。彼女はそう言うと、横に並び俺の身体にもたれかかった。
「そんなに、お前は欲しかったのか」
「……うん。親すら私を愛してくれなかった。触ってくれなかった。こうやって人の暖かさが知れる日を私はずっと望んでた。」
親にすら見捨てられた。か。小さい頃は牢越しに触れていたから暖かさを知っている。だが、それは親の負の想いからの行動だ。
こうやって、負の想いを感じないのは居心地がいい。ただ、彼女の力が強いのはどうにかしてほしい。
「1つ聞きたい。そんなにされるほど、お前の顔は醜いのか?俺は顔の良い悪いはよく分からないが。」
「……今の世の中、顔が全てなんだよ。貴方は世界を知らないから分からないと思うけど。私はずっと見せられてきた。愛を手に入れた人を。容姿しか綺麗じゃない人間を」
きっと彼女がこんな事になったのは、人間社会のせいなんだろう。あの血だらけの顔を見れば容姿に執着しているのも頷ける。
「だから、私といて欲しい。貴方といれば満たされる。生きていける。」
「そんな事で良ければ」
しばらく歩いていると、一際不気味な場所に来ていた。紫色の色素が飛び散るのが周りに見える。
「もう少しだから」
そう言われ樹海のような場所に入っていき、彼女は指を鳴らす。すると、大きな木が現れ枝の間に小屋があり、階段が足元まで伸びていた。
「これ……」
「造ったの。人目が付かなくていいから。」
「造った!?」
「魔法があれば簡単だよ」
魔法というのは本当に便利なものだな。これなら誰も分からないだろう。彼女は、俺を家に入れ座らせる。部屋というのはこんなものなんだな。燃えた部屋では分からなかったが檻とは全く違う。
「じゃあご飯作ってくるね。ユイト、何が食べたい?」
「……なんでもいい。」
すぐに何かをつくる音が聞こえてきた。俺が食べていたご飯は親が作ってくれたもののみ、他の人間がつくったものは初めてだ。
しばらくすると、いい匂いがしてきた。彼女は何かを持ってきて蓋をあける。
「はい。……今日のご飯はシチューだよ」
「ご飯はこんなに煙たいのか?」
「つくってすぐだから。あったかいよ」
俺のご飯は深夜の1回。人が眠り静かになった時だけだ。だから、ご飯は冷たいのが当たり前だった。
「っあつ。……!? けど、おいしい。こんなに美味しいの初めて食べた」
気づけば涙が流れていた。具材が溶け込むように暖かいクリームと混ざりあっている。あったかい。ご飯は生きるためだけのものじゃないんだな。
「良かった。いっぱい食べてね」
「……」
1口、また1口と口を運ぶ。ご飯が生きる感覚を教えてくる。もっと食べたい。この腹が満たされるまで。
「もういいの?」
「十分。ご飯は生きる為の道具じゃないんだな。」
ご飯でこんなに満足するなんて思ってもいなかった。すると、疲れからか次は眠気が襲ってくる。
「今日は疲れたよね。早く寝ようか」
「そうしたい」
彼女は指を鳴らすと、お皿が真っ白になりひとりでに動いた。
「じゃあ寝よう。一緒に。」
そういうと、ベッドを指差し腕を掴む。一緒に寝る気なのかこの人。確かにベッドは1つしかないけど。
「ま、待ってくれ。俺、ずっと檻暮らしで、その匂いが……」
パチッ
「よし、これでいい」
指を鳴らした途端に、身体に水が染み入るような感覚がある。これは1ヶ月に1回くらい親がしてくれたやつだった。本当になんでも出来てしまうんだな。
俺は拒み切れずにベッドに倒れこんだ。力もない俺が勝てるわけない。誰かと寝る、そんな事をこの人生で考えたことも無い。
「寝る時はずっとずっと不安で苦しいの。人の暖かみで眠りたい。私を安心させてほしい。」
俺はただ抱きしめた。それが俺の使い方なんだ。
彼女が俺をしがみつくようにして数秒後、身体に痛みが走った。周りを見ると茨が俺と彼女を固定させるようだった。
「絶対に手放さないから。一生、愛してる。」
「……」