勇者の代償
「……イト!! ねえ起きてよユイト!」
俺は……何をしていた。
目を開けると、エスティアが口を近づけていた。何をしているんだろこの人は。
……? 抵抗しようとしたが身体が動かない。
手を動かそうにも動かない。それどころか、重いものを乗せられているような気分だ。息が吸いにくいし。
目はギリギリ動く、口も僅かだが動かせる。
「ま……て、身体が…うごか……い。頭が……」
「っ!ユイト!? し、心配したんだよ!」
相変わらず強い力で動かない俺を抱きしめていた。
「うっう……ごめん。私があなたに変な剣を触らせたから」
彼女が泣き始めると、反応するように茨が暴れ回っていた。家に穴が空いて行く。そんなに長く眠っていたのだろうか。
「別に。 仕方なかったんだ。……それに、俺は勇者なんだろ?なら……」
「違う! それは……なんか違う気がする。」
彼女はそう呟くと立ち上がった。指を鳴らすと、前握っていた剣が茨に巻かれている。
「ユイトはこの剣に呑まれてるような感じだった。調べようとしたけど触れれないし、あの女が言ってたのは勇者の剣は無能力者なら使えるんでしょ?」
「あぁ」
「なら……私はあなたから魔力を奪ったんだ。そして、あなたは勇者の生まれ変わりなんかじゃない。」
エスティアはただうつむきながら悲しんでいた。その悲しみに反応するように剣を握り潰そうと茨が動く。
「そうかもな」
「もうあの剣は使わないで。あなたがこれ以上何かあったら悲しいよ。」
「わかった」
俺は彼女の要望を呑んだ。あの剣は無能力者なら勇者としての剣となる。ただ勇者の本質は剣だけとかいうことだ。
俺はショウヤでもなく生まれ変わりでも……ない。
「この話は終わりにしよう。まずはこの身体を」
『違う。お前はショウヤだ』
「うぐっ! ――――!!!」
身体がまた1段と痛みが増す。痛みから逃げようとしても身体は全く動かない。身体に重りがのしかかる。
「ユイトっ!」
「があああああ!!」
声は掠れ、身体は常に痛みが走る。
『認めろ。お前はショウヤだ』
「……」
この声はさっきから何なんだろう。でも、認めない限り俺に自由はない気がする。
「みっ…………める。俺はっショウヤだ」
『分かればいい』
「ユイト?」
重りは軽くなり、俺は命からがらに叫んだせいで涙が流れていた。
「エスティア……助けてくれ。苦しい。」
「1つだけ宛にしたくないけど、宛がある。セルブレス。私の学校があった場所。そして全てを失った場所。」
「……」
「そこにユイトを連れていく。」




