俺、生まれ変わったら【鉛筆】になっていて…なんという事だ…
……俺は、鉛筆。
HANDSの文具コーナーに陳列されていた、4Bの鉛筆である。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、芸術愛好家だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、鉛筆になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は鉛筆デッサン作品をこよなく愛する、コレクターだったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…手に入れたデッサンにフィキサチーフをシューシューかけていた事が忘れられなかった。
世界に一枚しかないデッサンの収集に夢中になった事と、うっかり鉛筆の線を指先で拭って台無しにしてしまった後悔だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――ダメだ…こんなんじゃ、とても……
俺を購入したのは、スランプに陥っている美大生だった。
ありふれた才能で講師の座に落ち着いた見る目のない一般人の言葉を真に受ける、純粋な学生だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
せっかくの感性をつまらない指導者の言葉に従って封印し、流行りの画風を学ばされ、芽という芽を摘まれ枝という枝をへし折られていくのが…我慢ならなかったのだ。
光り輝いている原石の、若さのあふれた活力あふれる筆跡は尽く酷評され…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――え?
俺を握りし締めたまま、身動きできなくなった…学生。
指導者の下につくというのであれば、デジタルに移行しろと…古臭い鉛筆デッサンから卒業しろと怒鳴られている。
俺は願った。
「もう、こんなやつとは縁を切って、自分の芸術を自分の好きなように描き続けてくれ」
そう願ったのには、理由があった。
この学生を評価するものは、本人が知らないだけでたくさん存在していたのだ。
どうしてあんな指導者の下についたのか、疑問視するものは少なくなかった。
たった一度だけ、作品を褒めてもらった縁を…いつまでも大事にし続ける学生のピュアな姿勢が、心をえぐり続ける。
……気付け、自分の才能に!縁を切れ、自分の可能性を潰すやつとは!!
―――決めました、僕…先生について行きます
学生は、指導者の志を継ぐために…自分の世界観を、捨てた。
最新のデジタル描画を学び、手の動かし方を忘れてゆく。
学べばだれでも習得できる技術が学生の中に増えていき、唯一無二の芸術が消えてゆく。
俺の願いも…むなしく。
学生は技術者として成功をおさめ、日々受注を受けながら収入を得て暮らすようになった。
完全デジタル化に伴い画材は次々に処分されていき、マネージャーが「使ってないし捨てますね」と、俺の入った筆箱をつまんでゴミ箱に放り投げた。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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