アカちゃんはどこから来るの?
お父さんとお母さんに聞いてみなよ、とびっきりの笑顔でね
つぎのひっ!
『ふぁ~ん……おはよぉ~♪』
『お早うです……』
「はい、お早うさん」
爽やかとは程遠い、湿った空気の中で三人は朝を無事に迎えた。ナニモナイヨー?
《お早うございます、皆さん!》
《予定通り、空の旅ですよ~!》
すると、昨日応対してくれた二人のピグミーが今日も現れた。何と面の皮が厚い連中だろう。どの面下げたらノコノコ出て来れるのやら。
まぁ、ポダルに本性はバレバレなので悪さは出来ないであろうが……。
「……何て言ってるんだ?」
『かんたいでそらをいくんだって』
「そいつは初耳だ」
『まだいってないからね~』
いいえ、言葉が通じてなかっただけです(笑)。
「じゃあ、早速その船とやらを見せて貰おうか」
『ピグミンミン♪』『ピグリャ~♪』
ピグミーたちの案内で、集落の奥地へ進んで行く。足元が狭い上にスケスケなので、歩いていて非常に怖い。
《こちらです!》
辿り着いた先に待っていたのは、
『カタカタカタカタカタッ!』
「『『コウノトリじゃん』』」
まさかのコウノトリだった。しかも、ドラゴンと見紛う程にデカい。クラッタリングがうるせぇ……。
《こっちですよ~!》
言われて見ると、コウノトリたちの足元に巨大な籠があり、そこへ次々とピグミーたちが乗り込んでいた。幸い人間が乗っても充分な程にスペースはあるものの、顔面は漏れなく吹き晒しである。これで雲の上を行くのだから、絶対に寒い。
「おい、何処が艦隊なんだよ?」
《実はこのコウノトリ、サイボーグなんですよ! 我々も機銃を撃てますしね!》
『だいじょうぶだ、もんだいないっていってる』
「それわざと言ってる?」
全然信用ならなかった。確かにコウノトリの脚や胸部に機銃らしき物が取り付けられているが、だからどうしたという話だ。あと、ピュグマイオイの子孫として、コウノトリを使役するのはどうなのか。鶴なら良いって訳でも無いが……。
《さぁ、行きますよ~ん♪》
「えっ、お前らも来るの?」
《はい、族長命令で》
『うえのしじだって』
「あっそうなの……」
たぶん、こっそり盗みを働こうとした懲罰だろう。皆がみんな、悪者と思ってはいけない。タブンネ。
「まぁ、良いや。さっさと行って頂戴な」
《了解です! 全艦、発進~!》
『『わぁ~お!』』
何だかんだで、コウノトリ艦隊は発進した。数回の力強い羽ばたきでフワリと浮かび、そのまま空高くまで上昇して行く。その後は雲の絨毯を撫ぜるように滑空し始めた。
「思ったより静かだね」
《鶴と一緒にしないで下さい! コウノトリフライトは、軽い・速い・静かが売りなんですから!》
「……何て?」
『コウノトリはしずかではやい、かろやかなとりなんだって』
「そりゃ凄い」
思ったよりも静かなコウノトリのフライトに、ポダルが感心する。そんな彼女の顔には、シャボン玉のようなマスクが形成されていた。ポダルの股間に収まるラゴスにも同じ物が装着されている。
むろん、全てたくあんの魔法が生み出した保護膜である。上空は空気が薄く非常に寒いので、呼吸をスムーズに行い、外気温を遮断出来るキャップが必要なのだ。籠に蓋をすれば早いとか言わないで。
『わ~、すごいけしき~♪』
籠の窓から見える景色に興奮するたくあん。果てしなく続く雲海の間から顔を覗かせる、緑の大河。こんな素晴らしい光景は、アフリカから日本に輸送された時でさえ見た事が無い。
『そうだね。ボクも初めて見たよ』
それはラゴスも同様であり、白い大海と緑の波間を楽しんでいた。
(それにしても、随分と密集して飛ぶな。渡り鳥ってのはこんな物なのか?)
一方、ポダルはコウノトリの編隊飛行に違和感を覚えていた。あまりにも各機が近過ぎる。まるで襲撃に怯えているようだ。
と、その時。
「……ん? 何だ?」
ふと見上げると、太陽の中に黒い影が。眩い光の中に、僅かに見える小さな点。それが時間と共にドンドン大きくなって――――――、
『キィイイイイイイン!』
「グ、グリフォンだと!?」
それは「グリフォン」だった。
猛禽類と怪獣を混ぜ合わせたような姿をしており、肉食恐竜を思わせる四肢と、三叉矛に似た巨大な翼を持っている。翼は尾部の気門に直結したジェット推進式で、胸部の熱機関で熱せられた上で矛の先端から噴流される空気によって、空を自由自在に飛び交う。その様は鳥と言うより戦闘機である(というか祖先は蛾であり、鳥類ですらない)。
◆『分類及び種族名称:有翼幻獣=グリフォン』
◆『弱点:胸部』
さらに、背中には光弾銃で武装した人型知的生命体が搭乗しており、機動性を保ちつつも遠距離攻撃が可能な状態であった。
そんなグリフォンと騎乗手が、隼の如く急降下しながら、擦り抜け様に無数の光弾を一羽のコウノトリへ浴びせ掛け、瞬く間に撃墜する。黒い血飛沫が舞い、羽根吹雪が散った。
《敵襲! 三番艦が食われた!》
『カタカタカタカタカタカタ!』
《くっ……防御陣形ぃっ!》
響く怒号と唸るクラッタリング。敵機の襲来が、全機に通達された。コウノトリたちが円陣を組み、機関砲の銃口を襲撃者へ向ける。
《観測班、騎乗手は!?》
《あれは……「アスラ神族」です!》
それは運命の戦争が始まった事を意味していた。
◆アスラ神族
ディーヴァ神族と敵対する武闘派の神々。インド神話においては悪党だが、ゾロアスター教(ペルシャ神話)においては善神扱いされている、宗教戦争に振り回されている可哀想な連中でもある。宗教にはよくある事。そして誰も彼もが武断派という訳でも無い。後の阿修羅族でもある。
作中に登場するのはゾロアスター教側の信徒で、「アフラ・マズダー」が持つ本来の役割(※)を取り戻す事に固執する過激派テロリストである。
※アフラ・マズダーは現在でこそ「最強最高の善神」として扱われているが、本来は世界の終末期に現れる「裁定者」……つまりは巨○兵と同じ役割だったりする。もしくはペルシャ神話版の「デウス・エクス・マキナ」。