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輪廻転生を描く虚無の支配者

 「イアペトス」。ギリシャ語で「突き刺す者」を意味するティターン神族の一柱で、元は異国の死神であったとも言い、ティタノマキアでゼウス率いるオリュンポス十二神に敗れ、ヘリオスらと共にタルタロスへ幽閉された太古の神だ。

 そんな刺殺大好きな死神たるイアペトスが最初に行うのは、



 ――――――ブシャアアアアアアッ!



『《《ゲロバースト!》》』


 まさかの嘔吐攻撃だった。身体中から漏らしていた赤紫色のガスを口内で濃縮し、エアロゾル化しながら噴出したのである。きちゃない。


『『『アミバァアアアアァッ!?』』』


 しかし、伊達や酔狂ではなく普通に危険な攻撃であり、浴びた亡者は一瞬にして溶解、周囲の物体も汚染されて猛毒の霧を立ち込めさせた。どうやら、イアペトスのブレスは腐食性がかなり強いらしい。真面に浴びれば骨も残らないだろう。

 まぁ、当たらなければどうという事はないのだが、


《中々にヤバいですね!》《だがしかし、当たらなければ――――――》

『グモヴォォオオオオッ!』

《《いや、動き速っ!?》》『あと普通に気持ち悪い』


 お腹こそ少し大き目なものの、走り蜘蛛に近い形態のイアペトスは信じられない程に素早く、その機動力はアシダカグモを彷彿とさせる。まさに電光石火の勢いだ。動きが蟲過ぎる……。


『このっ! 【地獄の(ブースデッド・)烈火炎(ヘル・フレイム)】!』


 戦いの主導権を握る為、ユダが胸部の口から爆炎を吐いた。



 ――――――チカッ……ボゴォオオオオン!



『ホワァアアアッ!?』


 だが、流れを掴む処か、ガスに引火して大爆発、逆にユダの方が大ダメージを受けた。腐食性だけに飽き足らず、引火性も高いとは恐れ入る。


『キチキチキチ……』


 しかも、イアペトスには大して効いておらず、平然と牙を鳴らしていた。蜘蛛の弱点は防御力の低さなのだが、見た目が似ているだけの神には通用しない概念のようである。


『ググモヴォオオオオオオオオッ!』

《《糸に巻かれて死ぬんだよぉ!》》

『ブグヴォッ!?』


 そして、引っ繰り返ったユダにイアペトスが襲い掛かるも、寸前でソドムとゴモラの蔦網が炸裂、見事な雁字搦めにして動きを封じた。


《また助けてやりましたよ!》《首を地面で雑巾がけしながら感謝して下さいね!》

『絶対に断る! それよりも、前ッ!』

『グモヴァアアヴヴヴヴゥゥゥゥッ!』


 しかし、腐食性の高いガスを操るイアペトスにとって、こんな網など廃屋の蜘蛛糸程度にしか過ぎず、即座に溶解して再度襲ってきた。


《《舐めるなぁっ!》》

『【神炎皇咆ゴッド・ブレイズ・キャノン】!』


 対するユダたちは、蔦網に神炎を引火させた状態で発射、ガスの引火性を逆用した面攻撃を仕掛ける。


『グヴォォオオンッ!』

《《嘘ぉ!?》》『変形しやがった!』


 すると、イアペトスが身体を変形(トランス・フォーム)して、人型に変☆身。蔦網を広がり切る前に握り潰してガスで点火、大爆発する神の拳を叩き込んできた。特に理由の無い暴食がユダたちを襲う。


《ど、どないすりゃええねん!》《何故急に訛る?》

『ぐっ……言ってる場合か! 何かしらの弱点を見付けないと蹂躙されるぞ、唯の暴力に!』

『グヴォアアアゥゥゥッ!』

《《『ぐわばぁあああっ!?』》》


 さらに、大地に亀裂が入る勢いで拳を叩き付け、同時にガスを流し込む事で衝撃による着火を行い、ムカデ砲よろしく連鎖爆発で破壊のエネルギーを地下を通じて打ち上げてきた。

 ただし、動きは緩慢で、蜘蛛形態と比べると止まって見える程の鈍さだ。どうやら、この形態はパワーと引き換えにスピードを殺しているらしい。この爆発連鎖の地雷無法地帯で自由に動けるならの話だが。


『クソが! こっちが不利過ぎるぞ!』


 炎も駄目、蔦網も駄目となると、打つ手が無いに等しい。最悪な状況に、ユダは思わず舌打ちする。


《こうなったら……》《ちょっと協力して貰いますよ!》


 すると、ソドムとゴモラが妙案を耳打ちしてきた。


『いや、それワタシが痛い目に遭うだけじゃん!』


 だが、それはあまりにユダの負担が大きい、不平等極まる代物。あわよくばユダを巻き込んで亡き者にしようとしているのが透けて見える、酷いにも程がある提案であった。


《でもでも、どうしようもないっしょ~?》《僕らとしては、君を盾に逃げても良いんだけどね~?》

『こいつら……!』


 しかし、やらねばこっちが殺られてしまうのも事実。この煽り野郎共の案に乗っかるしかない。


『(だったら、こっちにも考えがあるからな!)』


 お互い腹に一物抱えつつ、行動開始。


『【赤き剣(ライムンドス)】!』


 ユダが目の前を一文字になぞると、そこに炎の一閃が描かれ、瞬時にガラスの如く粉砕、一つ一つが炎の赤き剣となり、イアペトスに降り注ぐ。単なる面では投げ返されるのがオチなので、針の筵で攻撃しようというのだ。


『グモヴォオオッ!』


 それに対して、イアペトスは蜘蛛形態に戻る事で、自慢のスピードを発揮、針の目を掻い潜って突進してきた。


《《そ~ら!》》


 と、そこへソドムとゴモラの蔦投網が飛来、再び雁字搦めにしようとする。


『グヴォオオオッ!』


 すると、イアペトスは再度人型に変形。今度は掴まず手で払い除けて、勢いを殺さぬままに殴り掛かってくる。


《《『(思った通りの蟲頭め!)』》》


 だが、全てはユダとソドム&ゴモラの思惑通り。今までの行動パターンから、イアペトスが蟲同然の単純な思考回路で動いている事を見抜いていた。行動原理が単純であればある程反応は早いが、その分ワンパターンで行動を誘導され易いという事である。そこにユダたちは(・・・・・・・・)罠を張ったのだ(・・・・・・・)


『グヴォッ!?』


 イアペトスの神拳がユダの頭を捉えるが、手応えはまるで無く、それ処か手に蔦網がグローブのように絡まった。


《『偶には自分の拳も食らってみなぁっ!』》


 さらに、空中で待機していた(・・・・・・・・・)ユダの頭部に乗る(・・・・・・・・)ソドムが蔦を引き(・・・・・・・・)、神の拳をイアペトス自身に叩き込ませた。

 そう、攻撃を仕掛ける時点でユダの胴体に載っていたのは、ゴモラが即席で編んだ偽物であり、ダッシュに紛れて宙へ躍り出ていた本物のユダの頭部と、それに乗るソドムが協力し、引き網の要領でイアペトスを自滅させたのである。


『ゴォォヴ……ッ!』


 流石に己の拳は効果抜群だったらしく、頭部のような器官(実際は糸イボ)が粉砕され、内部が僅かに露出する。


『直火焼きだ! 【地獄の烈火炎】!』


 そこへ透かさずユダが飛び乗り、頭部と合流して傷口を直火焼きした。当然ながら、この後直ぐに充満するガスに引火して大爆発するのだが、


《《それじゃあ、後は任せた!》》


 ここでソドムとゴモラは平気でユダを見捨て、さっさと逃げ出した。


『そうは行くかぁ! シャアアッ!』

《《ダニィッ!?》》


 だが、そうは問屋が卸さず、ユダが舌を細長くして伸ばし、逃げるソドムとゴモラを捕まえ、手元に手繰り寄せ、


『オラッ、死にたくなかったら、盾を作れ!』

《《クソッタレがぁっ!》》


 蔦網を張らせ盾にする事で、爆発の衝撃から身を守る事に成功した。


『グモヴォァアアアアアッ!?』


 そして、己自身の力によって、イアペトスは爆発四散。塵も残らず吹き飛んだ。


《よ、よくもやってくれましたねぇ……!》《次は無いと思えよ……!》

『それはこっちの台詞よ、外道共……!』


 とにもかくにも、「淫蕩」の支配者たるイアペトスは滅び、閉ざされた階層の出口が開かれた。

言いたい事は山積みだが、今は先に進もう。


《《『(何時か絶対に殺してやるからな、クソがっ!)』》》


 こんな現場は嫌だ……。

◆イアペトス


 ギリシャ語で「突き刺す者」を意味する戦神。ティタン神族の一員ではあるが、元は異国の死神であったと言われている。ティタノマキアでオリュンポス十二神に敗北すると、ヘリオスらと共にタルタロスへ幽閉された。ヘリオス同様、情報はかなり少ないが、実はノアの子孫とも関りがあるらしい。

 

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