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原始太陽

なんてったって、おじさんのきんのたまだからね!

 「ヘリオス」。またの名を「ヒュペリオン」。最高神「ゼウス」率いる「オリュンポス十二神」以前に君臨していた「ティタン神族」の一柱で、中でも「太陽」を司る最上位の神だ。不死身にして不滅の魂を持っており、ゼウスとの戦い――――――「ティタノマキア」にて敗北するも、その特性故に“封印”という形でタルタロスへ幽閉された。系統としては「ガイア」の子孫に当たる為、別系統のエレボスとその支配域であるタルタロスに閉じ込められるのは、諸々の意味を含めて屈辱的な処罰であったと言えよう。その後もゼウスに体良く利用され、人間の恋人を花に変えさせられたりなど、碌な目に遭ってなかったりする。

 そんな哀しみの太陽神が、久方振りに解放されたとなれば、やる事は一つしか無い。



 ――――――ゴォオオオオオオオッ!



『わ~っ!?』『滅茶苦茶やりやがる!』「ズワォッ!」


 全身から赤紫色の炎を噴き出しながら、ヘリオスが放射能の熱線を吐き出す。常軌を逸する熱量が射線上の物体を消し飛ばし、直撃しなかった物質も放射線崩壊して周囲一帯を汚染した。たった一発のジャブでこれである。まさに太陽の化身、存在するだけで環境を塗り替えてしまう。

 これぞヘリオスの生存戦略。放射線を撒き散らす事で基盤の生態系を根底から破壊し、己に適合した環境と生物に書き換える、身勝手な創造主。物理法則に支配された世界ならば、誰にも逆らえない絶対神として君臨していたに違いない。

 だが、この世界には剣も魔法も拳もある。むろん、物事には限度があるものの、現代科学とは別ベクトルの法則を適用し、対抗する事が出来る。


『【ατμόσφαιρα(アトゥモスフェラ)】【|αποστείρωση《アポスティロシ》】【δροσερός(ドゥロセロース)】【|εξουδετέρωση《エクスデテーロシ》】【σημείο(シミオ)】~♪』


 たくあんの多重詠唱により、生存に適した空間が各々の周囲に展開された。汚染物質が浄化され、高熱は清涼な微風と化し、眩い光もチカチカする程度の物となる。物理的にガードし易い粒子放射線ならともかく、透過性の高い電磁放射線は魔法的に防がないと危険だ。



 ――――――カヴォオオオオオオオッ!



『あぶないあぶな~い』


 とは言え、放射能を多量に含んだ熱線は、きちんと回避しなければならない。余熱と直熱とでは文字通り火力の桁が違う。透過性とかそういう問題ではないからね。

 しかし、ここからどうしたものか。太陽そのものと言っても過言ではない炎熱の鎧を纏っている以上、ヘリオスにダメージを与えるのは難しい。その上、伝承通りであれば再生能力まで持っているので、このまま攻めては何れジリ貧になる。


『どうしよ~?』

『自分で考えろ、私は今忙しい!』

『ジュルァッ!』『ギャヴォオオッ!』『クァアアアッ!』

『わ~お!』


 さらに、ヘリオスに仕向けたのか、アムフィシーンたちが一斉に襲い掛かり、たくあんとシャナの分断を図った。ますます以て不利である。というか数の暴力で負けそう。


「……やったらぁ!」

『アヴォオオン!』『グルゥッ!』『ガヴォオオッ!』


 だが、頭数に関しては直ぐに解決した。ケルベロスたちが加勢してくれたからだ。プルがけし掛けたように見えるが、きっと気のせいである。

 とにかく、これでヘリオスとたくあんとシャナ、一対二の戦いは続行となった。考え無しは拙いが、考え過ぎはもっと良くない。何事も試してみなければ。


『【γλυκό(グリコー) νερό(ネロー)】【πάγος(パゴース)】!』


 たくあんが圧縮した水を氷で覆った砲弾をヘリオスへ撃ち出す。超高温の炎鎧によって氷弾が一瞬にして気化し、水蒸気爆発を引き起こした。


『グヴァゥゥゥ……!』


 しかし、再生される。映像の巻き起こしが如く、傷付いたヘリオスの甲殻が元通りになる。


『ぬぬぬぬぬん!』

『フォオオオオ!』


 しかも、後続の氷弾は煌めく太陽(ゴールデンボール)となり、攻撃そのものを消滅させた。金的が効かないだとォ~っ!?


『コォォォ……ガクァギィィヴヴ!』


 そして、縦横無尽の変化球で虫食いを増やした末に再度展開、戦闘形態(バトルモード)となって二人に襲い掛かる。前足を猫パンチのように振るえば灼熱の火災旋風が巻き起こり、それらを隠れ蓑に放射能の熱線を吐き散らす。余熱だけで環境を破壊し尽くすダメージは、確実にたくあんたちへ蓄積されていった。


『シャナちゃん!』

『……命令すんな、たくあんの分際でぇ!』


 だが、それは二人共織り込み済み。何故なら、絶対無敵などこの世にもあの世にも存在しないし、それは神の見せる(・・・・・)まやかし(・・・・)でしかないのだから。


『攻撃は最大の防御? なるほど、完璧な作戦だ。……不可能だという点に目を瞑ればなァ!』

『ぬぬぬ~んっ!』

『ゴギャヴォッ!?』


 シャナがバリアをソリのようにして熱線を受け流しながら、たくあんを思い切りぶん投げ、次いで彼女の氷結のテールスイングがヘリオスの胴を薙ぎ、爆砕する。予想通り再生能力にかまけている分、神としては防御力が脆弱らしい。もちろん、即座に再生が始まるのだが、


『ぬん、ぬん、ぬぬぬん♪』

『ドラドラドラドラァッ!』

『ガァヴヴヴゥゥゥ……!』


 欠損の大き過ぎる再生中は戻る事に時間が割かれる為、どうしても動きが止まってしまう。その隙に攻撃を加える事で更なる再生が始まり、それが終わる前に削り続ければ、実質フリーズしているも同然の状態だ。

 さらに、神と言えども所詮はモンスター。モンスターであるならば、それ即ち生き物という事。単細胞生物ならまだしも、複雑な構造を復元する場合、相応のバックアップが必要となる。それの在る場所が外部か内部かの違いだけ。ヘリオスが“生態系を自作する生物”であり“自己完結”している以上、中枢(バックアップ)は必然的に内部にしか存在し得ない。


『攻撃は最大の防御? なるほど、完璧な作戦だ。……不可能という点に目を瞑ればなァ!』

『ぬーんっ!』

『ゴギャヴォッ!?』


 そして、たくあんたちの絶え間ない連撃の果てに、ヘリオスの炉心(コア)が露出する。一瞬の出来事だが、それだけで充分である。種が明かされたマジックなど、ショーダウンするに限る。拍手など送ってやらない。シャナの徒手ならくれてやるが。



 ――――――ゴバァアアアアアン!



『何ッ!?』『わ~!』


 しかし、止めの一撃が叩き込まれる前に、ヘリオスが自ら炉心を暴走、爆発させた。


『キィェアアアアアヴォオオオッ!』


 さらに、全身を蒼い炎に変えて飛翔し、核爆発の軌跡を描きながら逆襲してきた。これぞヘリオスの最終形態。己が身を焦がし、敵を焼き尽くす、命を投げ捨てる攻撃である。

 ヘリオスよ、死地より蘇り天獄を舞え……蒼炎を纏いし不死鳥となりて!


『どどど、どうしよう!?』

『相手にするな! 炉心が砕け、自身を燃料にしている以上、何れ燃え尽きる! むしろ、盛大に頭を冷やしてやれ!』


 だが、断る。それがたくあんたちの答えだった。逃げ惑いつつ、氷結魔法を撃ち続ける。ヘリオスも黒紫色の熱線を吐きながら追い縋るが、そもそも真面に相手をされていないのだから、命の燃料を無駄に消費するだけだ。


『グヴゥゥゥ……!』


 やがて炎が燃え尽き、真っ黒なヘリオスが姿を晒す。核分裂にしろ核融合にしろ、熱が無ければ始まらない。燃料を失ったヘリオスの運命は決まっている。


『『てぃっ!』』

『イヴァアアアアアアアクゥッ!』


 そして、弱り切った所にたくあんとシャナの攻撃が入り、ヘリオスは斃れた。不死鳥が聞いて呆れる。原初の神と言うだけあって、小賢しい事は苦手だったようである。


「……終わったのか?」

『ああ』

『つかれた~』


 しかし、頭が単細胞でも力は本物。ヘリオスを斃すまでに多大な魔力を消費した二人は、完全に疲れ切っていた。その上、黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)が出来ないから、回復する手段も無い。


『ぬぅ~ん……』


 こんな調子で、残りの階層を本当にクリア出来るのだろうか……?

◆ティタン神族


 ゼウスを中心とした「オリュンポス十二神」よりも前に天地を統べていた神の一族。全員が巨人の姿をしており、様々な超能力を用いて世界を支配していたが、後にゼウスらに敗れてタルタロスへ幽閉され姿を消した。元を辿れば、全ての始まり「カオス」から生まれた天空神「ウラノス」と地母神「ガイア」の子孫で、神としては(カオスを0として見た場合において)第二世代である。

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