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悪魔たちの遊び(真面目)

エ○ァの会議シーンみたいなアレ(笑)。

 ここではない何処か、世界の狭間のような何か。無数の数字が奔る空間に、七体の悪魔が居た。

 蝙蝠の翼と山羊の角が生えた色黒のワイルドなイケメン、青白い天使を思わせる美男子、アンシンメトリーな色白のピエロ、烏頭の幻魔紳士、可愛らしいクジラの着ぐるみに身を包んだ子供、艶めかしい恰好をした淫魔の女王、どう見てもエルフとしか思えない妙齢の妖精……と、七者七様の姿をした彼らは、西洋の地獄を支配する魔王たち。即ち「憤怒(サタン)」「傲慢(ルシファー)」「暴食(ベルゼブブ)」「強欲(マモン)」「嫉妬(レヴィアタン)」「色欲(アスモデウス)」「怠惰(ベルフェゴール)」から成る“七つの大罪(七大魔王)”だ。亡者たちを平和に管理し、破滅の光(カミノグンゼイ)から世界を守る、正しき闇の化身である。

 そんな七大魔王共が、こんな所で何をしているかと言えば、エレボスに奪われた地獄を取り戻す為だ。

 尤も、神との戦いに敗れ冥界を上書きする形で乗っ取ったのは地獄の方なので、“鎬を削る”と言った方が正しいのかもしれないが。

 誰かの幸せは誰かの不幸によって成り立っている。犠牲無くして得られる平和は無い。この世もあの世も神も悪魔も、結局は弱肉強食の掟からは逃れられないのだから。


『ぶるぁあああああっ! 面倒臭ェぁっ!』


 突然、サタンが雄叫びを上げた。「憤怒」を司る悪魔なだけに、割とキレ易いのである。


『煩いですよ、兄弟』

『何だとゥあ!?』

『面倒なのは私も同じなので、きちんと手伝って欲しいのですがね』


 単純作業に苛々するサタンに、ルシファーが顔も見ずに塩対応する。この双子は基本的に大喧嘩はしないのだが、こういう小競り合いは普通にする。仲が良い証拠だ。


『だったらこいつはどうなんだよォ!?』

『……アタシは動力源だから良いの~』


 そこでサタンは寝そべったまま微動だにしないベルフェゴールを指差すが、当の彼女は気にも留めていなかった。実際、「怠惰」の化身であるベルフェゴールに頼った所でロクな結果にならない事は目に見えているので、こうしてハッキングする為の電源になっている方が安全であろう。変なコマンド打ち込みかねないし。


『あいつも遊んでるしィ!』

『……ボクはバグ取りだよ』

『ぬゥうううううううう!』


 続いてレヴィアタンに矛先が向かいそうになるものの、こちらは見た目がそう見えるだけで真面目にクラッキングしている為、サタンは何も言えない。

 それにしても、セキュリティソフトをバグ呼ばわりとは、こいつこそ傲慢の化身なのかも。そもそも、「嫉妬」の化身なのに真面目とは、これ如何に。


『皆様、楽しそうで何よりデス』

『適当な事言ってんじゃねぇよ』

『適当ぐらいで丁度良いと思うけどねぇ、こんな作業~』


 一方、「暴食」のベルゼブブ、「強欲」のマモン、「色欲」のアスモデウスは、我関せずと言った感じで、雑談混じりに作業をしていた。ベルゼブブは排除したデータを文字通り暴食し、マモンはお得意の情報収集、アスモデウスは冥府に囚われた魂(・・・・・・・・)から“良い男”を見繕うなど、各々の趣味嗜好を楽しんでいる為、喧嘩のしようが無いのだろう。


『……おっ、また反撃だ。無駄無駄無駄~♪』


 と、レヴィアタンがセキュリティの攻勢データにかち合い、難なく排除してみせた。それをベルゼブブが食らい、マモンが解析して、アスモデウスが“解放”、その後サタンとルシフェルが攻撃を仕掛ける、という流れが延々と続いている。


『……あーあ、これだからレトロゲームは退屈なんだ』

『ボヤくなよ。デパートで幻のポ○モン釣り上げたと思えば、ちょっと得した気分になるだろ?』

『……こんなイ○ベーダーゲーム擬きと、かの大作を一緒にするなよ、鳥頭』

『烏頭だ。間違えるな着ぐるみ未満が』

『……むかー、このオールドタイプめ』


 それでも何だかんだで飽きが生じてきたレヴィアタンに、マモンがカァカァと煽った。平和な光景である。


『それはそうと、オマエはこの戦い、どう思うよ? サイカは別として、使えるのかねぇ、現地の連中は?』

『……案外上手くやるんじゃない? 魚介類も居るし』

『何だ、その独特の価値基準』


 とは言え、面倒臭いのはマモンも同じなので、話題を変えて雑談し始める。内容は今後の行く末だ。


『その通りかもしれませンヨ?』


 すると、排除されたデータの塊をジャグリングしながら食べつつ、ベルゼブブが参加してきた。取り込んだデータの中に、正真正銘のバグを見付けたらしい。


『……これはウイルス(・・・・)? データ名は【TYPE:H 「PLC(シーケンサー)」】……なるほどね、確かに面白い』


 見せられたレヴィアタンも、中身を確認して納得した。とっても悪い笑みを浮かべて。


『手が止まってるんじゃな~い?』

『オマエにだけは言われたくない』


 ベルフェゴールは怒られていい。


『不本意だが、そいつの言う通りだァ! 手を動かせ、手をゥ!』

『うるせぇぞ、単細胞。サイカが乗り気だからってイキイキしてんじゃねえよ、このロリコン』

『誰がロリコンだァ!?』

『前に本気で告白して見事に振られたの、何処の誰でしたっけ?』

『死ねェえええええい!』

『二人共やめてくれません? 唯でさえ面倒臭いので……』


 子供の喧嘩を始めたサタンとマモンに、ルシファーが何処までも冷たく対応する。自分こそが一番真面で優れていると思っているからこそのクールさ、なのかもしれない。


『……あ、ヤバいミスった』


 と、レヴィアタンが珍しく操作ミスをやらかしたようだ。周りが小五月蠅くて集中力が乱れたのであろう。何してんだ貴様ら。


『おいおい、何のボタンを押しちまったんだよ?』

『割と冗談ではナク、ヤバいかもしれませンネ~』


 では、彼のミスによって解放され、矛先が冥府に向かってしまったシステムとは、一体何なのか?




《システムに重大なエラーを検知しました。「キュクロプス」を解放します》

◆七大魔王


 「サタン」を筆頭にした、“七つの大罪”を司る七柱の魔王たち。それぞれ「憤怒=サタン」「傲慢=ルシファー」「暴食=ベルゼブブ」「強欲=マモン」「嫉妬=レヴィアタン」「色欲=アスモデウス」「怠惰=ベルフェゴール」を司っている。元は絶対神「ヤハウェ」率いる“神の軍勢”と敵対し、闇黒世界へ逃れた敗北者、つまりは堕天使たちである。

 ちなみに、この闇黒世界に相当する存在こそ、ギリシャ神話で「冥府」及び「奈落」と呼ばれていた場所であり、今回は“仕返し”をされている状態にある。とは言え、一度は滅んだ筈の冥界が復活したのには、何か理由があるようだが……?

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