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シ者の叫喚

歩みの鈍い亀などいない!

 ――――――ドゴォッ! ドゴォッ! ドワォッ!



 アケローンが口から巨大な火球を三連発で放ってくる。


「くっ……!」


 サイカは右へ旋回しながら避けたものの、掠めるだけで皮膚が焼かれ、服と癒着してしまう程の熱量だった。あんな物を食らってしまえば、原子レベルで分解されるに違いない。現に着弾点からキノコ雲が立ち込めている。地下でそんな物ぶっ放すな。


「このっ!」


 とは言えサイカもやられっ放しではなく、魔法で反撃するのだが、


『カヴァアアッ!』

「チクショウが!」


 アケローンは円盤の如く大回転、魔法攻撃を弾き飛ばしてしまった。流石にそのまま飛び続けるのは厳しいようで、直ぐに通常飛行へ戻ったものの、



 ――――――ビィイイイイイッ!



 代わりと言わんばかりに、尻尾の先から次々とビームを乱射してきた。火球程の威力は無いが、これだけ撃ちまくられると回避に専念せざるを得ない。


『カォォォ……!』

「……しまった!」


 しかも、気付けば逃げ道を塞がれ、口からの大火球を至近距離で浴びるばかりに追い込まれてしまう。サイカ、絶体絶命のピンチ。


『――――――【神炎皇咆ゴッド・ブレイズ・キャノン】!』


 と、何処からともなく極太の火柱が降り注ぎ、アケローンを吹き飛ばした。もちろん、体勢を崩したのは一瞬なのだが、それでもサイカにとっては九死に一生を得たと言えよう。

 そんなドラマみたいな状況の立役者は一体誰なのかと聞かれれば、


『来たよ、お姉ちゃん!』

「ユダ!」


 サイカの義妹――――――ユーダス・カスパールだった。

 見た目は麗しき黒髪の美女なのだが、実年齢はサイカよりもずっと下であり、“見た目は大人、頭脳は子供”を地で行く女の子である。

 ちなみに、種族はハーフ・デュラハンで、中国妖怪「刑天」と闇の妖精「デュラハン」の合いの子だ。その為、戦闘時は暗黒騎士とスズメバチを混ぜ合わせた意匠の外骨格を身に纏い、両種族の良い所取りなフィジカルと魔力を以て暴れまわる。サイカにとって可愛くも頼りになる、アンデッドな義妹である。

 本来なら彼女もサイカの遠征に付いてくる筈だったのだが、ちょっとした(・・・・・・)野暮用(・・・)を済ます為に遅れて登場と相成った。ここから先は、義姉妹による心温まる感動エピソードになる事間違いない。


『クヴァアアグァアアアッ!』


 だが、アケローンはまだまだ元気いっぱいだ。亀のような見た目は伊達ではないのだろう。


「ユダ、外をお願い(・・・・・)!」

『了解だよ、お姉ちゃん!」


 しかし、そんな事など気にならないくらいに、サイカとユダの呼吸は阿吽である。少ない言葉だけで、お互いがどう動くべきか分かっているのだ。


「【超時空戦闘機(ビック・バイパー)】!」


 先ずはサイカが近未来的な戦闘機のオプションを召喚。


『【巨大化エヴォリューション・バースト】!』


 続いてユダが魔法により巨大化。元々巨神族の一種である刑天の血が混ざっているので、この手の効果と相性が良く、瞬く間に光の国から来た巨人ぐらいの大きさとなった(それでもアケローンよりは小さい)。


『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

『グァアヴッ!?』


 その上、デュラハンとしての特性を乗せた大咆哮(バインド・ボイス)により、一時的にアケローンを硬直させる。


『今だよ、お姉ちゃん!』

了解(ラジャ)了解(ラジャ)!」


 そして、大きく開かれたアケローンの口に、オプション付きのサイカが侵入する。外側が硬過ぎて駄目なら、中から直接心臓部(リアクター)を破壊しようという魂胆だ。


「お届け物でぇす!」


 サイカの危険極まる飛び込み営業(物理)が今始まる……!

◆アケローン


 「嘆きの川」を意味する、ギリシャ神話における「三途の川」。カロンの渡し舟無しでは渡れない程に急流と言われ、現世と冥界の境目とされている。

 正体は海亀……のような姿をしたゲンゴロウ。元々水陸両用で空も飛べる虫であったが、呼吸器官を魔改造する事により、飛行方法を羽ばたきからジェット噴射に変えた。尻尾に見える部分も呼吸管だった物。

 カロンとは共生関係を結んでおり、泳ぎは下手だが陸上適正のある彼に獲物を誘い込んで貰う代わりに、強力な外敵に対する用心棒のような役割を担っている。

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