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地獄と冥府

馬に蹴られなくても地獄に落ちる奴は普通に居る。

「凄いな、アンタたち」「うん……うん……」


 と、たくあんたちに掛かる声が。振り返れば、そこには小さな子供が二人居た。髪と瞳が、それぞれ黒と青、白と赤という事以外は、そっくりな姿をしている。さっき避難させた子供たちだろう。面を上げると、こんな顔をしていたのか。


『きみたち、だぁ~れぇ~?』

「俺はプル」「僕はクロ」


 黒髪の少年が「プル」と名乗り、白髪の少年は「クロ」と答えた。ややこしいねん。


「さっきまでとはえらい違いだな。絶望感は何処行った?」

「煉獄に旅行中だよ」

辺獄(ここ)も似たような物だろうに……」


 サイカの冗談にジョークで返せる辺り、この子たちは絶望感から解放されたらしい。やはり物理的な状況ではなく、やはりパワースポットのように概念的な影響を受けていたのだ。それもデバフ系統の。


「――――――向こうで見てたけど、アンタら強いな。そこで頼みなんだが……ちょいと魔王気取りのエレボスとかいう奴を倒して、辺獄(ここ)を元通りにしてくれよ。たぶんだけど、その為に来たんだろ?」


 と、立て続けに言葉を繋げるプル。結構気が強いタイプらしい。

 逆にクロは自己紹介以来一切口を開かず、プルの陰に隠れている事を鑑みるに、人見知りで引っ込み思案な性格のようである。

 何とも対照的な二人だった。


『そうだよぉ~♪』

「馬鹿、そんなにホイホイ自分たちの事情を話すな」

『え~? なんでぇ~? こまってるひとはたすけなきゃだめだよぉ~?』

「そりゃまぁ、そうなんだけど……」


 サイカが不用心なたくあんを嗜めるも、全く伝わっていない模様。たくあんだからね、仕方ないね。


『ぬ~ん?』


 だが、こんな顔を見せられてしまえば、何も言えなくなる。


「可愛い……」

「そうか?」

「うん、とっても……撫でてみたい……」


 早速クロには刺さったようだ。こういう「ぬぼー」っとしたゆるキャラが好きなのかもしれない。


『いいよ~♪』

「……じ、じゃあ、遠慮なく……」

『ぬんぬ~ん♪』

「スベスベしてる……! 気持ち良い……!」


 もちろん、たくあんは何時でもお触りOKだ。鰻のようなヌルヌルでも、渓流魚のようなザラザラでもない、不思議な感触がクロの掌に伝わる。控えめに言っても最高である。これで女の子というのも素晴らしい。


《まぁ、ここに居ても仕方ないし、移動しません?》《そうそう、ボクらの目的地は、もっと先ですからね~》


 すると、いい加減にして欲しいのか、ソドムとゴモラが皆をせっつく。


『そういえば、ぼくたちってどこにいけばいいの?』

「知らなかったんかい!」

『だって、ぼくじごくのかってなんてしらないし……』


 しかし、たくあんはよく分かっていなかった。というか何故道すがらに説明しなかったし。


「まぁ、入って早々オルトロスとケルベロスに襲われたからね。なら、一度しか言わないから、よ~く聞くように!」

『はい、せんせ~』

「何だかなぁ……」


 今始まる、サイカ先生の地獄講座。


「「地獄」と言っても、古今東西で様々な呼び名や形がある。私の世界では「地獄」と書いて「Hel(ヘル)」」と読む」

『いたいねぇ~』

「喧しいわ。誰が厨二病だ」


 そこまでは言ってない。


「対してこの世界では、「冥府」と書いて「Ἅιδης(ハデス)」と読む。かつて統治者として君臨した冥王「ハデス」が名前の由来だ」

『あ、じんめいなんだ』

「正しくは“神の名”だけどね。そもそも、「Hel」だって元々は別世界の「死の女神」を参考にしてるんだよ」

『へぇ~』

「大雑把に纏めるなら、“神に見放された罪人が堕とされる牢獄”ってのが共通点だな。底に行けば行く程、重く苦しい罰が与えられる点も同じだね」


 多少ニュアンスの違いはあれど、どの世界線でも“地下世界”であり“神の意にそぐわぬ者(罪人)が堕ちる場所”という点は共通している。「上にへつらい下にきつく当たる」という感覚は、人間の本能なのだろう。


「――――――そして、「奈落」には「底」がある。「地獄(ヘル)」の最下層は「Sheol(シェオル)」と呼ばれているが……「冥府(ハデス)」の「底」は「Τάρταρος(タルタロス)」という。その「奈落の底(タルタロス)」の支配者こそが、「エレボス」なのさ」


 言い換えれば、エレボスこそが冥府の根幹を担う中枢なのである。


「つまり、僕たちは冥府の最下層へ向かい、エレボスを斃して地獄を解放し、元に戻すのが任務なんだ」

『そうなのか~』

「そうなのだ~」


 軽いなぁ。


『でも、それじゃあポダルちゃんたちはたすけられなくない? だってしんでることにかわりないし』

「そこは七大魔王に功績として頼めば何とかなるよ。自分で決めたルールであれば、どうとでもなるのが世の中だしね。その為にも世界の主導権を握らないと」

『なるほどね~』


 社長が代われば社員の処遇も変わる。死者に肉体を与えて、生前と変わらぬ輪廻転生をさせるなど、お手の物なのだろう。


『じゃあ、どんどんいこう!』

「まぁ、ここはまだ表層なんだけどな」

『そんなぁ……』


 表層でこれとか、終わっているにも程がある。たくあんの冒険や如何に……。

◆地獄


 宗教によって解釈に多少の差はあるが、基本的に「罪人が堕ちる裁きの地下世界」という点は大体同じ。細分化され過ぎて意味不明な罪状があったり、割と理不尽なルールで堕とされたりするのは内緒。

 ギリシャ神話においては「冥府(もしくは冥界)」と呼ばれ、その奥底に存在する“神の反逆者たちの牢獄”こそが「タルタロス」であり、そこに通じる廻廊にして支配者として君臨するのが、原初神の一柱「エレボス」である。

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