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たくあん、地獄の一丁目へ

たくあんの大冒険、冥界篇はっじまるよ~♪

 「冥府」もしくは「冥界」。死後の世界と言われている場所。大きく別けて「天国」と「地獄」の二種類が存在し、前者には善人が逝き、後者には悪人が落ちるとされている。

 たくあんたちが下ろうとしているのは、「地獄」に相当する世界である。

 旅路のお供はピグミーのソドムとゴモラ、それから出会ったばかりの魔女――――――サイカ・エウリノームだ。ファミリーネームからも分かる通り、死の女神「エウリノーム」と契約を交わした、由緒正しき大魔女の家系である。


「まぁ、母上曰く「殺して奪った(はなしあいをした)」らしいけどね」

『ぶっそうだねぇ~』

「欧州列強なんて、そんな物だよ」

『ぬ~ん……』


 サイカの身の上話に、たくあんがぬ~んと答える。元は捕食動物である彼女だが、育った環境故に理解し難いのかもしれない。そりゃあ、何時でも新鮮な剥き海老食べ放題で天敵も居ないとなればねぇ……。


『それにしても、おもったよりきれいだね~』


 ふと周りを見ながら、たくあんがポツリと呟く。

 入口こそ仰々しい次元の裂け目で、何なら「この門を潜る者は一切の希望を捨てよ」などと描かれていたものの、入ってみればあらまビックリ、宝石のような木々が繁茂する美しき大地が広がり、神聖で荘厳な大河がコロッセオの如くすり鉢状に流れ、思わず見とれてしまう程の星空が天蓋となっている、とても綺麗な場所だった。初見でここが地獄だと分かる者は居ないだろう。


《あれは死者の大河「アケローン」ですね!》《水先案内人「カロン」が支配する領域で、渡し賃無しに川を渡ろうとすると、死すら許されない永遠の闇へ引きずり込まれると言われています!》

『ここもぶっそうだった~』


 だが、そこは腐っても地獄、普通に危険区域だった。落ちたら奈落の闇に葬られる川がそこらじゅうを流れている優しい世界です。怖過ぎる。


「……やっぱり、大分変わってるわね」

『そんなにちがうのぉ~?』

「ええ、全然違うわ」


 一方、以前の地獄を知っているサイカとしては、あまりの様変わりっぷりに戸惑いを隠せないようだ。


「前の「辺獄(リンボ)」はアミューズメントパークだったからね」

『あ、だーくなふんいきではないのね』

「そりゃあ、未熟児が生まれ変わるまでに設けられた場所だからね。子供の遊び場だよ」


 どんな場所だよ。大人の遊び場にされても困るけども。


「だけど、今は「煉獄」と合わさって、永遠の絶望を与える場所になっている。見なよ、あれを」

『………………!』《《うわぁ……》》


 サイカが指差す先に居るのは、夢も希望も失くした、生きる屍のような子供たち。涎を垂らし、明後日の方を見ながら、路傍の石よりも惨めに転がっている様は、文字通りの「亡者」である。

 死んでいるのに活き活きしているのも変な話だが、少なくともサイカの知る辺獄の子供たちは楽しそうだった。今世では駄目だったけど、次の人生を夢見て前向きに暮らしていた。

 しかし、今の子供たちは、来世処か存在意義すら見出させず、終わらぬ虚無感に囚われている。一体何がどうして、これ程までに変わってしまったのかは、言うまでもない。地獄の主がすげ変わってしまったからだ。


『……どうすればいいの?』

「主導権を取り戻すしかないね。今は世界のルールが書き換わっちゃってるから――――――」


 と、その時。


「あごげぇっ!」「うぐぅっ……!」「ぐべぁっ!」


 突如、目の前で三人の子供が粗挽き肉になった。絶望の淵でも死の苦痛からは逃れられないのか、生々しい断末魔をたくあんたちの耳朶に遺す。聞いていて気分の良い物では無いが、そんな事を言っている場合では無い。


『ギャヴォゥ! ガヴガヴッ!』


 この惨劇を引き起こした犯人が、次の獲物とばかりに、大口を広げているのだから。

 大雑把なシルエットは双頭を持つ巨大な犬なのだが、尻尾の先端が何処ぞの英国紳士の身体が小さく見える程のビックサーベルとなっており、よく見ると首筋同士の間に第三の口があるなど、奇妙奇天烈な姿をしている。子供たちの粗挽き肉(キッズ・ハンバーグ)を首元へ運んでいる辺り、本当の口として機能しているのは第三の口のみで、双頭の口は飾りなのであろう。犬だけど犬じゃなかった。

 この化け物は何者だろうか?


《《「オルトロス」ですね!》》

『おるとろす?』

《見ての通り、双頭の魔犬です!》


 「オルトロス」とは双頭を持つ魔犬である。

 ヒュドラやキマイラと同じく、テュポーンとエキドナの生み出した怪物の一体であり、ゲリュオンの飼う摩訶不思議な牛の番が役割であったが、後にヘラクレスに打倒されたと言われている。


『……いぬ?』

「まぁ、言いたい事は分かる」


 だが、ストレートな魔犬とは言い難い姿をしているのも事実。意★味☆不★明☆だぜ!


「おそらくは元・節足動物だろうが……」

『じゃあ、「きょうかくるい」だろうね~。あしがにほんひとくみでいっぽんのよんほんあしだし』

「双頭の部分は?」

『それこそ、きょうかくなんじゃない? もしくはさそりのはさみみたいなものでしょ、たぶん」


 結局は正体不明のままであるが、そもそも頭を魔改造して螳螂みたいになったコロギスが居るような世界だし、まだ狭角類と分かるだけマシなのかもしれない。どんなに掛け離れた姿をしていようと、“名残り”という物はそう簡単には消えないのだから。


『ギャォオオン!』

「来るぞ!」

『そどむくんとごもらくんは、ほかのこどもたちをつれてさがってて~』

《《激しく了解!》》


 そして、地獄で最初の戦いが今、始まる。



◆『分類及び種族名称:魔犬超獣=オルトロス』

◆『弱点:口』

◆オルトロス


 「双頭の魔獣」と称される魔犬で、その名は「素早い」「真っ直ぐな」という意味を持っており、獲物目掛けて猪突猛進する馬鹿犬でもある。元々はヒュドラたちと同じく、テュポーンとエキドナの間に生まれた怪物であり、ゲリュオンの飼う摩訶不思議な牛の番犬を担っていたが、通りすがりの英雄ヘラクロスに「何か邪魔だった」ので殺された。可哀想に……。

 正体はサソリモドキ(蠍に非ず)。元々長かった尾節を大剣のように魔改造していて、これを文字通り剣の如く振るう。

 ちなみに、混同されがちなケルベロスと違って、地獄に棲んでいない処かロクな能力を持っておらず、主人の命令通りに突っ込む事しか出来ない、本当の意味での”猪野郎”だったりする。だから棍棒なんぞで撲殺されるんだぞ。

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