三位一体
『たくあんの所に降ろして』
『………………』
アルゴ・ヒュドラが全ての元凶へ復讐戦を挑もうとしている最中、ハティたちはたくあんの居る場所へ向かっていた。あの傷の深さと弱り様では最早助からないだろうが、それはポダルも同じ事。死に目くらい大切な仲間の下で眠りたいのかもしれない。
『………………』
案の定、たくあんは息を引き取っていた。肉身の新鮮さから先程までは生きていたようだが、どちらにしろ意識は無かったから、末期の言葉を交わす事は叶わなかったであろう。
「………………」
しかも、何故かアイギスがたくあんを抱き上げて立っていた。
いや、表情から察するに今はノアの方だろうか?
『……気にせず行って』
『あ、ああ……』
警戒するハティに、ポダルが進むよう促す。ノアが味方なのを知っているのもあるだろうが、何より残された時間が少ない。些細な事に構っている暇は無かった。
「………………」
『たくあん……』
ポダルはヨロヨロとたくあんを受け取り……そのまま斃れた。まるで家族が添い寝をするような、互いにボロボロの状態とは思えない、穏やかな死に様であった。
『――――――で、オマエは何しに来たんだ?』
ハティが黙って見守り続けるノアに問い掛ける。誰の死に目にも間に合わず、本当に立っているだけの彼女に憤りすら覚えていた。本当に何をしに来たのだろう。
『“意志”を託しに来たのさ。わたしは所詮、ただのシステム、エネルギーの塊だからね。生きたいと願う命ある者に力を貸す事しか出来ないんだよ』
『回りくどい事言ってないで、分かり易く説明しろ』
『聞くより見る方が早いよ。……この身体を頼むよ』
その上、急にフッと意識を失くし、たくあんたちと揃って川の字になってしまった。
『……貧乏くじが過ぎるぜ、クソが』
そして――――――、
◆◆◆◆◆◆
『ギィヴァアアアヴゥッ!』
アルゴ・ヒュドラが再び回転する円盤となって体当たりをかます。触腕の口から毒々しいエネルギーを吐きながらアタックしている為、見た目以上のダメージとなる。
《ヴァアアアアアアォッ!》
しかし、ヘラは大して怯む事も無く、力尽くで殴り飛ばした。雷神拳を放っている事から、それなりには本気なのだろうが、それでも単純なフィジカルではヘラの方が強いらしい。
《ギャヴォオオオオオッ!》
さらに、台風の気○斬を投げ付け、アルゴ・ヒュドラを切り刻む。実に呆気無い終わりである。
《《チェンジ「フェンリル」!》》『………………』
――――――なぁんて訳も無く、実際は切られる前に三つに分離していただけであり、今度は狼染みた四足動物形態に変形合体。ヘラの帰還雷撃やスーパーセルのバーゲンセールを素早い身の熟しで躱し懐に潜り込むと、一時的に狼男のような二足歩行となって、両前足による反撃の毒牙を連続で叩き込む。
《グルヴォァアアアアッ!》
《《ぐぅっ!?》》『チッ!』
だが、ヘラも負けていなかった。隙間が見えない程の落雷の雨に、プラズマ大火球の連打という夫の株を奪う攻撃を仕掛け、アルゴ・ヒュドラを怯ませる事に成功する。
《ヴァォオオオオオオッ!》
そして、祈りを込めた超電磁トルネードで拘束、そのまま破滅的な突進をかます。ポダルに致命傷を与えた大技だ。食らえば塵も残らないであろう。
《《チェンジ「ヘル」!》》『フン……!』
しかし、当たるか当たらないかというタイミングで分離、その勢いで拘束を解き、今度は人型決戦兵器を思わせる形態に変形合体。
《《「極光線」!》》『死ねぇっ!』
『ギィガァヴヴヴヴヴッ!』
――――――GABBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!
レンズフレアが後光のように差す程の究極光線を放った。サロニカ全土が目を焼き尽くす威力の眩い閃光に包まれる。……やったか?
《ヴヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!》
《《嘘でしょ!?》》『この悪魔が!』『グルルルル……!』
もちろん、やってなかった。ギリシャ神話の女神は化け物か。否、理不尽を体現した、本当の悪魔である。戦いはまだまだこれからだ。
◆三位一体
“「父(神)」「子(神の子)」「霊(聖霊)」は「一体(唯一神)」である”というキリスト教の考えであり、ようするに「唯一神は三つの顔(姿)を持つ」という意味。様々な要素をバラバラに考えるのではなく、大元が持つ幾つかの側面と捉える考え方である。
まぁ、近年の創作では専ら「三つの心を一つにすれば百万パワー」みたいな扱いをされているが……。




