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考える葦

「ちく、しょう……!」


 目の前で起こった絶望的な数々の出来事に、ポダルは歯軋りして涙を流す。

 ディオメデスとケリュネイアが消し炭にされた。

 ピグミーたちとスプリガンは吹き飛ばされた。

 ラゴスが半分になった。

 クリスは粉微塵となった。

 生き残っているのは、自分とたくあんのみ。

 現状、戦えるのは怒り狂って巨大化したたくあんだけ。己では手を貸す処か、足手纏いにすらなれない。炉端の石ころよりも価値が無い、本当の塵芥だ。

 さっき攻撃してみて分かった。アルゴスはイリスなどとは比べ物にならない、正真正銘の化け物だと。大きさも然る事ながら、エネルギーが桁違い過ぎる。一発一発がソーラーレイも同然なのに無限大に発射してくるビーム攻撃に、いとも容易く山を削り抉る程の巨体とパワー。万が一も勝ち目が無かった。

 ラゴスの家族も、ピグミーたちの友人も、道すがらに遭った数々の魔物たちも……顔すら知らないハルピュイアの姉妹たちも、この圧倒的な力で絶滅させられてきたのであろう。こんな理不尽があって良いのだろうか。答えは出ない。そんな暇も無い。

 何せ、神の御前なのだから。


『ぬぅぅぅぅん!』

《フヴォオオオ!》


 たくあんの攻撃を残像(ゴースト)が見える程の動きで躱し、アルゴスが死角から反撃する。セフィロトの翼から放たれる灼熱の太陽は、たくあんのプラズマ弾とは比較にならない程の熱量を持ち、魔法障壁すら容易に貫通する。それを意識外から、連続で叩き込まれるのだから、戦いは殆ど一方的である。


《ヴァヴォオオッ!》

『ぬぅぅ……んっ!』


 さらに、光熱を纏ったアルゴスの爪撃が、たくあんの胴体を抉り、中身を露出させる。完全に致命傷だ。文字通りの圧倒。これぞ「神の悪ふざけデウス・エクス・マキナ」である。

 どうやら、ちっぽけな命に噛み付かれた事に怒るあまり、彼の頭からは“たくあんとポダルの生け捕り”という目的意識がすっぽ抜けてしまったようだ。


《オォォォ……!》


 そして、止めを刺さんと、アルゴスが太陽(プラズマ)陽光(ビーム)を同時に放とうと構える。


「止めろぉおおおおおおっ!」



 ――――――ドギュルアァアアアアアアアアアッ!



 すると、空の彼方から幾つもの破壊光線が飛んできた。


「……アスラ神族! シャナか!?」


 それはシャナを筆頭にした、アスラ神族の航空師団。グリフォンに跨った破壊と殺戮の神々である。


《ファヴォンッ!》

『この化け物め!』


 だが、まるで歯が立っていない。ギガンテスの鎧はグリフォンのビーム攻撃など簡単に弾き返し、アスラ神族たちの魔法攻撃すら掠り傷を付けられなかった。しかも、反撃を食らって多くの戦士が殉職し、生き残った者たちも回避で手一杯である。

 これが世界で最も傲慢で暴力的なギリシャ神の力。戦闘民族よりも話が通じず、慈悲も容赦も遠慮も無い。


『ぬぅ~ん……』

「たくあん……」


 みるみる内に縮んでいき、虫の息となるたくあん。これはもう長くないだろう。これでポダルは、本当に独りぼっちだ。絶望しかない。


『くっ……!』

「シャナ……」


 と、上からシャナが目の前に落っこちてきた。どうも騎乗していたグリフォンが殺られてしまったらしい。乗り慣れない借り物では、こんな物であろう。


『いよいよ本命が動き出したから、どうしているのかと思えば、何を呆けてるんだ、お前は。簡単に絶望しちまいやがって。それでも私に勝った女かよ、弱虫め』


 さらに、瀕死のたくあんを見て、しけた面したポダルに無遠慮な罵倒を浴びせる。


「急に落っこちて来て、何なんだよ、お前は!」

『……これでも(・・・・)こいつとは(・・・・・)長い付き合い(・・・・・・)なんでね(・・・・)まさか後から(・・・・・・)こっちに来る(・・・・・・)とは思わなかったよ(・・・・・・・・・)


 その上、よく分からんオマケ付き。何だ、たくあんと前世で知り合いだったのか?


『まったく、つまらないね。私は私なりに()らせて貰うさ。私は生きてる奴が大嫌いなんでね。お前はそこで無様に這いつくばってろ、この出目金野郎(・・・・・・・)


 しかし、明確な答えは示さずに、シャナはアルゴスへ向かって行ってしまった。再び取り残されるポダル。


「考えろ!」


 ただし、うじうじと打ちひしがれて腐っている彼女は、もう何処にも居なかった。自分一人しか残っていないのだから、しっかりせねば。しゃがみ込んで指を咥えている暇があったら、もっと頭を使うべきだろう。


「私は人間……だけど、普通じゃない」


 ポダルはハルピュイア四姉妹の末妹「ポダルゲー」の一人娘にして、ハルピュイアの感染者。謂わば(・・・)ウイルスに(・・・・・)適合した(・・・・)キャリアーである(・・・・・・・)

 ならば、自分にしか出来ない事がある筈だ。


「よし、やるぞ……!」


 そして、ポダルは動き出した。僅かに残った、仲間たちの亡骸を見詰めながら……。

◆バキュン・Z・キューン


 たくあんの前世でアクアリウム仲間だった黒出目金。金魚掬い出身の個体であり、「はんにんさん」に救い上げられて犯人宅へやって来た。非常に気性が荒く、「自分以外の生物の存在を認めない」と言わんばかりに水槽の同居人を鏖殺してしまう為、終生まで単独飼育となっている。エビやタニシならまだしも、和金まで嬲り殺しにするなと言いたい。ベタの雄かお前は。

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