表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/92

合成魔獣

まぜっこまぜっこモンスタ~♪

「それにしても、生きたマンティコアをまじまじと見る機会なんて、そうそう無いよなぁ……」


 深い深い森の中を、たくあんの魔法でふよふよと移動している最中、隣を行くラゴスを触りながら呟いた。


「この尻尾って、蠍っぽいけど、体節な訳じゃないんだね」

『うん。これは分泌液と体毛が混ざり合ってケラチン化した物だよ。だから、甲殻の下は普通に獣の尻尾があるのさ』

『へぇ~』


 マンティコアの尻尾は蠍そっくりではあるが、その正体は犀の角と同質の物であり、例え何かの理由で甲殻が砕けても、芯が無事なら何れは再生する。猛毒に関しても、甲殻形成に必要な分泌液が関係している。何にしろ便利な尻尾だ。


『ピグミ~ピグミ~ピグミンミン♪』

「おっ、ピグミーだ」

『なんかげ~むでみたことあるきがする』


 と、徘徊中のピグミーたちに遭遇した。貴方だけに付いて行きそうな見た目をしている。


『でもこいつら、外来種※なんだよね~』

「そうなんだ」

『うん。元々は南方の出身なんだよ』

「やっぱり物流が盛んだからかねぇ……」


  ※Πυγμαῖοι(ピュグマイオイ)=異国の小人


『他にも「ケルピー」が定着してたり、「ゴブリン」や「スプリガン」が徘徊してたり、北方からの移入種も沢山居るよ』

「ふむふむ。なら、色々と気を付けないとだな~」

『ものしりだね~』

『それ程でも……って、ほら、あそこに「スプリガン」が居るよ』


 ラゴスが指差す方を見てみれば、水辺で「スプリガン」が休んでいた。容姿だけなら、完全に動くプッ○ンプリンである。頭に飾りが無いので、まだ若い個体と思われる。


『おいしそ~♪』

『駄目だよ、たくあんちゃん。スプリガンは他の妖精の護衛役(ボディーガード)。手を出すと袋叩きにされちゃうからね』

『ひゃ~!』


 見た目は甘いが、生態は甘くない。それがスプリガンだ。周りにピグミーが群がっている辺り、彼らの護衛役なのだろう。


『プリャーッ!』


 突如、スプリガンが飛び起き、みるみる間に巨大化した。これがスプリガンの能力。周囲の土壌を吸収して体積を増やし、戦闘態勢に入るのである。

 だが、問題はバトルモードになった事ではなく、スプリガンが(・・・・・・)何に対して(・・・・・)敵意を向けて(・・・・・・)いるかだ(・・・・)

 少なくとも、ポダルたちを警戒している訳では無さそうだが……?



 ――――――ゴゴゴゴゴゴゴッ!



 突然、森が騒めきだした。鳥や虫が飛び立ち、獣の悲鳴が木霊する。


『ガァァヴォオオオオオォッ!』


 すると、木々を薙ぎ倒し、巨大な羽虫が現れた。

 頑強な顎と牙を持ち、全身がネコ科動物を思わせる体毛で覆われている。顔立ちも獅子に近いが、目は複眼、耳は触角である。蛇や竜のような尻尾が生えているものの、体節が見られる事から、おそらくは腹部であろう。翼は前脚部と融合し、ドラゴンの羽を思わせる構造になっている。

 何と言うか、脊椎動物と昆虫の合成生物といった感じの見た目だ。


『キマイラだ!』


 そんな合成生物を目の当たりにしたラゴスが、焦ったように叫ぶ。今頃、彼女の脳内には襲われた時のトラウマが蘇っているに違いない。突然の大嵐(スーパーセル)で故郷を追われ、家族を失い、傷付き逃れた先でも地獄が待っていた、あの辛く苦しい日々を……。


『「ウスバカゲロウ」じゃん』


 キマイラの姿を見たたくあんが、率直な感想を述べた。

 そう、キマイラは哺乳類ベースではなく、節足動物から進化した怪物なのである。

 むろん、巨体を支える為に独自の内骨格を形成している為、厳密には節足動物の定義には当て嵌まらないのだが、脈翅目から派生したのは間違いなかろう。

 つまり、キマイラはミルメコレオの成虫なのだ。中々姿を見せないのは、羽化するのに時間が掛かるからだと思われる。蛹を経る完全変態は、幼虫から成虫に変化する際に、内部がドロドロに溶けて一から作り直している。キマイラの場合は骨格の変形も必要なので、より一層時間が掛かるに違いない。

 ……成虫の数が少ないのは、幼虫時代が阿保過ぎるからだろう。

 しかし、眼前の個体は、しっかりと成熟している。侮って良い相手ではない。



◆『分類及び種族名称:合成魔獣=キマイラ』

◆『弱点:尾部(腹部)』



『プリァアアアアッ!』

『ガヴォァアアアッ!』


 先ずはスプリガンに襲い掛かるキマイラ。見るからに厄介そうな奴から片付けるつもりなのであろう。キマイラの煽動を伴うテールスイングがスプリガンの身体を薙ぎ払った。

 だが、相手は半流動体のゲル状物質。切っても殴っても寄り集まってくっ付いてしまうので、物理攻撃は意味を成さない。

 その事に一早く気付いたキマイラは、スプリガンのプリンパンチを飛翔して躱し、そのまま凄まじい風圧とソニックブームで動きを封じて、口から爆炎を吐いて火炙りにした。これにはスプリガンも堪らず焼け焦げ、香ばしい焼きプリンとなる。深部は無事のようだが、暫くは行動不能だろう。

 もちろん、次の狙いは食い甲斐がありそうな連中――――――たくあんたちである。


『ガヴォグォオオッ!』


 そして、運動後の空腹を満たさんと、キマイラが襲い掛かってきたッ!

◆キマイラ


 半人半蛇の女神「エキドナ」が生み出したと言われている怪物の一角。雄ライオンをベースに山羊(悪魔)やドラゴンの要素を混合した姿をしているとされるが、実は雌である。巨体から繰り出されるパワー、それに見合わない俊足、火炎放射などの特殊能力を持ち合わせた強敵。

 正体はミルメコレオの成虫形態。磁力光線に加えて磁気嵐の砂地獄や火炎放射など、非常に強力な魔物。頭もかなり良くなっている。偉いねェ~。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 幻想と幻獣世界にたくあんさんが…想像しただけで面白可愛いです。次話もプリャー(お気に入り)と楽しみです! [気になる点] 気になるものばっか… [一言] また読みに伺います
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ