今明かされる衝撃の真実
見せてやろうかぁ!? もっと面白い物をよぉおおおおおっ!
ほんの少し時を遡り、洞穴の外。
『たくあんちゃんたち、本当に大丈夫かしらね?』
「問題無いだろ。油断しないよう伝えておいたし」
クリスとポダルは呑気に待っていた。
《そ~れ、取って来~い!》《キャッチするんだよ~!》
『ヒヒーン!』『キャルンキャルン♪』『プ~ププ~♪』
ピグミーたちはディオメデスとケリュネイアに芸を仕込み、スプリガンはプルプルしている。どいつもこいつも平和なものだ。
「あいつ、何が目的なのかねぇ?」
『さぁ? 大方、殺られる前に殺れとか、そういう勘違いでもしてるんじゃないかしら?』
大方というより、全く以てその通りである。
「それにしても、随分と遠くまで来たなぁ……」
ポツリと、ポダルが呟いた。少し曇り出した空を見上げる顔は、一言では表わせない情を浮かべている。これまでの人生、今までの旅を振り返っているのかもしれない。
『何お婆ちゃんみたいな事言ってんのよ』
「ぶち壊しだよ」
まぁ、たくあんと愉快な仲間たちは、それくらいが丁度良いのかも。
と、その時。
――――――バササササッ!
空から、一羽の亜人が舞い降りた。瞬間、全員が戦闘態勢に入る。流石に踏んできた場数が違う。
『………………』
だが、その半人半鳥の亜人――――――「ハルピュイア」は、敵意がまるで無く、じっと一点を見詰めている。視線を向けているのは、ポダルだ。
「……何だよ。こっち視んな」
『あなたが、「ポダル」ね?』
「だったらどうした? お前みたいな知り合いは居ない筈だがね」
『そう……まぁ、それも仕方ないわね』
その上、何処か寂しそうな、哀しみに満ちた表情を見せてくる。本当に、この非常に美しい容姿のハルピュイアは何者なのだろうか?
すると、ハルピュイアが自身の胸に手を当て、名を名乗る。
『私は「アエル」。「アエロー・ハルピュイア」の「アエル」。……「ポダルゲー・ハルピュイア」、つまりあなたの姉よ、ポダル』
そして、今明かされる衝撃の真実ゥ!
今目の前に居る彼女は、ポダルの姉だったのだ!
「……いや、私に姉妹なんて居ないし、何なら親すら知らないし。そもそも私、人間ですけど?」
『人間が声だけで相手を粉砕出来るかしら?』
「………………」
アエルの発言に、ポダルは二の句が継げなくなった。それを言っちゃあ、お終いよって話である。むしろ、拳で大地を割ったり、蹴りでモンスターを爆砕したりなど、今までの行為を考えれば“実は人間じゃなかったんです”と言われた方が説得力はある。
『――――――いや、急に現れて何なの? いきなりそんな事を言われても、困るだけなんですけど?』
と、押し黙ってしまったポダルを庇うように、クリスが間に割って入る。確かに、こんな寝耳に水を放り込まれても、言われた側は困るだけだ。
『それもそうね。ちょっと長くなるから、座って話さない? ……とは言え、私自身も困惑してるから、あんまり突っ掛からないでね』
そう言って、近くの岩場に腰を下ろすアエル。ハルピュイアと言えば、醜い容姿をした半人半鳥の怪物として有名だが、彼女自体は絶世の美女であり、文句の付けようが無い。
《そう言えば、ハルピュイアって四人だけ美しい容姿を持っているって聞きますね》《もしかして、その一人だったり?》
会話に混じってきたピグミーたちが、そう尋ねた。
『そうよ。「遠距離支援型」「高機動強襲型」「隠密諜報型」「陸戦特化型」。私たち四人は“失敗作の中の成功作”なの。虹天使「イリス」を完成させる為のね』
何処か憂いの混じった顔で返すアエル。
そう、ハルピュイアとは虹の女神「イリス」の姉妹であり、“失敗作”と“成功作”の関係でもある。たった一柱のイリスを完成させる為だけに、何人ものハルピュイアが生み出され、棄てられていった。今も昔も、人も神も変わらない、唯一つの狂気である。
『まぁ、オリジナルを目指して造られた存在だから、どっちにしろ失敗作なのかもしれないけど』
むろん、オリジナルの四姉妹は神話の闇に葬られている。アエルたちはあくまでも“似たような存在”でしかなく、つまりは“模造品の贋作”という事になる。アイデンティティーが迷子になりそう。
『だから、私たちは逃げ出した。あの忌まわしい悪魔から。だけど、幼い私たちでは、お互いを守る事は出来なかった。逃げ惑う内に一人、また一人と逸れ、私は独りぼっちになった。それからは、“奴”の目から隠れ潜みながら、ずっと探し続けていた。唯一の肉親をね』
「………………」
ようするに、ポダルには実親など最初から存在せず、物心が付く前に姉妹と生き別れになってしまったが故に独りぼっちだった、という事だ。あまりに悲し過ぎる。思い出なんて、ある筈も無い。
『――――――あなたの活躍は、風の噂で聞いたわ。だからこそ見付け出せたのだし、嬉しくもあるのだけど……目立ち過ぎるのは危険だわ。今からでも遅くない。私と一緒に逃げましょう。このままだと、完璧に“奴ら”に目を付けられてしまうわ』
突然の出生譚、そして逃避行の誘い。対する、ポダルの答えは……?
◆モルモー
外なる女神「ヘカテー」に仕える三怪の一人。猫耳に猫の手足を持つ女という、「おや?」と思ってしまう容姿が特徴。「エンプーサ」や「ラミア」同様、人食いの怪物ではあるが、他の二種族よりかは大人しく、下手にちょっかいを出さなければ襲ってはこない。元々は食人の巨人「ライストリューゴーン族」の女王だったが、諸事情により怪物となった。
その正体は馬鹿デカいクマムシ。ミイラ化する事で耐久状態になるのは原種と同じだが、人に擬態する過程で何故か猫耳になってしまった。




