このブタ野郎!
※雌個体です
『イノシシィイイイイイイイィッ!』
『そのなきごえはおかしいよぉ~!』
文字通り猪突猛進してくるエリュマントス。巨体に身を任せた単純な体当たりは、目に付く物を悉く破壊していく。体高だけで十メートルは流石におかしい。何を食ったらアフリカゾウの三倍近い大きさになるのか……ああ、何でも食べてるのか。この悪食王が!
『ウォオオオッ!』『シャアアアッ!』『ズワォオオオッ!』
すると、騒ぎを聞き付けたケンタウロスたちが、わざわざ喧嘩を売りにきた。一発で人体を真っ赤な花に変えてしまいそうな剛弓の連打を放ち、エリュマントスを攻撃する。
『ファンゴォオオオオオオオオッ!』
『『『ウマァアアアアアアア!?』』』
食べられた。駄目じゃん。これにはケイローンも草葉の陰でガッカリしてるな……。
それにしても、あんな弩弓を食らって掠り傷一つ無いとは、凄まじい強度の毛皮である。というか、あれは本当に毛皮なのだろうか?
『……あれ、ほんとにいのしし?』
「いや、たぶん甲虫だと思う……」
案の定、甲虫の怪物のようだ。
正確に言うと、コガネムシに近い甲虫から進化した生物で、草も食べるが肉もがっつく、凄まじい雑食……否、悪食である。
だが、今はそんな事はどうでも良かろう。
『ブモァアアアアアッ!』
エリュマントスが絶賛大暴れ中なのだから。ケンタウロスが全滅したのは別に良いけど、山崩しまでされたら堪った物ではない。この巨体なら、局所的な土砂崩れぐらいなら普通に引き起こせる。
しかし、エリュマントスの真なる脅威は、やはり装甲の堅牢さであろう。切っても叩いても効果が無いとあっては、反撃の手段がまるでなかった。
「――――――ギィヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
『ナマニクッ!?』
否、普通にあった。
音波攻撃は鎧を貫通して内部にダメージを与える。ポダルの轟咆哮は、こういう時に便利だ。ついでに衝撃で引っ繰り返って、腹を晒してくれている。
「スゥゥゥ……バァヴォオオオオオオオオッ!」
『ブヒィツ!?』
「ギェアヴォオオオオオオオオオオオオオッ!」
『メスブタァッ!』
君が死ぬまで吠えるのを止めない。
「うるぁあああああああああああああああっ!」
『ハンバァアアアアアアアアアアアアアグッ!』
そして、砕けるまで殴るのも止めない。一発一発が文字通りの爆裂パンチであり、中身がシェイクした状態でボコボコにされたエリュマントスは、二度と起き上がる事は無かった。それでも装甲が砕けない辺り、流石は甲虫種と言うべきだろう。
『びみょ~』「微妙だな」『あんまり美味しくないわね』『新鮮な生ゴミみたいな味がする』《《デカいだけに大味って事ですかね~》》『オプリ~』
ちなみに、肉は大して美味しくなかった。コガネムシ系統の体組織なんて、そんな物である。雑食性のディオメデスですら若干嫌な顔をしている辺り、不味いというよりエグいのかもしれない。
何はともあれ、居るだけで迷惑な害獣は物のついでで退治出来た。問題は、
『きみはだれ~?』
「………………!」
エリュマントスに襲われていた、この女の子は何者だ?
◆コガネムシ科のお味
甲虫類の成虫は基本的に美味しくないが、コガネムシ科の幼虫は見付かる場所の通り、不味い上にエグい。というかミミズ並みに様々な雑菌が蓄積している為、食ったらほぼ確実に腹を壊す。食べるなら木材を餌にしているタマムシやカミキリムシの幼虫にしよう。




