表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/92

蟻獅子

昔、蟻食べた事ある人~!

 「キマイラ」。

 合成獣の代表格とも言える魔獣で、獅子と山羊と蛇を組み合わせた姿をしているとされており、強靭な肉体と火炎放射能力で暴れ回るという。オリジナルは魔神「テュポーン」と蛇神「エキドナ」との間に生まれた、由緒正しき幻獣だったりする。

 一方の「マンティコア」は出自不明の人面獣であり、身体能力こそ割かし優れているものの、魔物のランクとしてはそこまで高くない。言ってしまえば超肉体派の人面犬みたいな物である。一応“尻尾に毒を持つ”と言われているが個体差が激しく、場合によっては本当に“ちょっと凶暴で貪欲な小賢しい猛獣”程度に収まってしまう。

 ようするに、両者には明確な力の差があるという事だ。正面切って戦った場合、例え成体同士であっても、勝敗は最初から決まっている。

 そんな化け物相手に、重体ながらも生き延びたラゴスは大層幸運な個体と言える。


「……しっかし、キマイラなんて私も初めて遭うぞ?」


 だが、そもそもキマイラと遭遇する事自体が珍しく、一生お目に掛かれない事もザラである。そういう意味では、ポダルは運が悪いのかもしれない。


「「ミルメコレオ」だったらいっぱい居るんだがな」

『みるめこれおってなに~?』


 ポダルの呟きに、たくあんが首(?)を傾げる。


「ミルメコレオってのは……蟻みたいな、ライオンみたいな……よく分からん化け物さ」


 ポダルが一番よく分かってなかった。駄目じゃねぇか。


『ミルメコレオって言うのは、別名「アントライオン」とも呼ばれるように、ライオンと蟻の合成獣だよ。上半身が獅子で、下半身が蟻なんだ。昔は上と下で食性が違うから“長生き出来ない種族”とされてきたけど、最近は認識を改められて、完全な肉食とされているね』


 代わりにラゴスが説明する。流石はマンティコア、喋れるし頭も良い。自然界では、この知力を活かして生き延びているのだ。人間程度を獲物と定めている生態的な弱者であるマンティコアにとって、地頭の良さは死活問題なのであろう。


『そんなへんないきものが、ここにはいっぱいいるのか~』


 昨日入り損ねた森を見て、たくあんが呟いた。時は早朝。ミルメコレオが昼行性なのか夜行性なのかは不明だが、森の化け物である事に違いは無い。油断せずに進もう。


「そうそう。ミルメコレオは落とし穴を掘る事で有名だから、足元に気を付けてぇええええええっ!?」


 言っている傍から、ポダルが穴に落ちた。地表ギリギリまで掘り進む事で、踏むだけで底が抜けてしまう、分かり易い落とし穴である。

 さらに、落ちた振動をきっかけに穴の周囲がすり鉢状に陥没し、天然の蟻地獄となった。この場合の獲物はポダルだが。


『……こうやって、木の根元とかに穴を掘ってるから、気を付けないとね』

『そ~なのか~』

「――――――って、お前ら助けろよ!?」


 呆れ顔で青空教室を続けるラゴスとたくあんに、ポダルが怒りのツッコミを入れた。どうにか魔法の杖をアンカーとして粘っているが、何れは耐え切れなくなる可能性が高い。杖やポダルではなく、土台である斜面の方がだ。



 ――――――ジャッ! ジャッ! ドシャァッ!



 その上、穴の底から何者かが砂礫をぶつけて落そうとしてくる。犯人は十中八九でミルメコレオだろう。


『たのしい?』

「楽しい訳ないだろ!」


 酷い煽りを見た(笑)。たくあん、意外と良い性格をしている。


『【πλέω(プレーオ)】♪』


 仕方がないので、たくあんは「他人を浮遊させる魔法」でポダルを掬い上げた。


『ギカァアアッ! ギカァアアヴォッ!』


 すると、食事を邪魔されたミルメコレオが、怒って蟻地獄の底から飛び出してきた。

 しかし、その姿は蟻にもライオンにも似ておらず、どちらかと言うと鬣の生えたアリジゴクである。「アントライオン」ってアリジゴクの事だしね。



◆『分類及び種族名称:磁力超獣=ミルメコレオ』

◆『弱点:腹』



『カァアアアッ!』


 と、ミルメコレオが凶悪な大顎の間から、虹色の怪光線を照射する。


「うわぉっ!?」


 すると、宙に浮かんでいたポダルが、ミルメコレオの方に引き寄せられ始めた。どうやら、血中の鉄分が反応する程の強力な磁力が放たれているようだ。砂礫をぶつける暇があるなら、最初からこれを使えとか言ってはいけない。仕方ないのだ、ミルメコレオはマンティコアと違って頭が悪いから。

 そして、今更発動しても、まるで意味がない。


「……たくあん、魔法を解除しろ!」

『ほ~い』


 何故なら本体が姿を現したのであれば、直接叩けば良いのだから。


「死ねよやぁあああっ!」

『ギギェアアアアォッ!?』


 引き寄せられている最中に浮遊魔法が解かれた為、物凄い勢いで接近したポダルが、ミルメコレオの大顎を切り裂き、腹を串刺しにした。アリジゴクは攻撃性と引き換えに防御力が皆無に等しいので、本来なら穴に潜んで出て来てはいけないのだが、この個体は相当お頭が弱かったようである。


「ふぅ……こりゃあ、浮かびながら行った方が良いかもね」

『そうだね。ポダル、おちちゃうもんね』

『確かに……』

「ほっとけ」


 そういう事になった。

◆ミルメコレオ


 別名「アントライオン」。誤訳のせいで「雄獅子」から「蟻獅子」にされ、上半身がライオンで下半身が蟻であるが故に様々な機能障害を背負わされてしまった、滅茶苦茶可哀想な子。上と下で身体が違う故に消化機能に重大な欠陥があり、そもそも土中で誕生する為、殆どは窒息死してしまう。ミルメコレオが何をした。

 正体はアリジゴクの化け物。進化の過程で骨格レベルで変異しており、羆を超える巨体を誇る。武器は血中の鉄分すら引き寄せる強力な磁力光線。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「……しっかし、キマイラなんて私も初めて遭うぞ?」たくあんさんも私にとって初めて会う…です(≧▽≦)続きが楽しみですm(_ _)m [気になる点] 続き!続き! [一言] また読みに伺いま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ