ラビット・フロッグ
う~さ~ぎ~お~いしい♪
『ギュヴォオオオォン!』
「危なっ!?」『ズワォ!?』
バクラージュの剛腕が空を切る。かなり大振りの為、避け易いと言えば避け易いが、純粋にスピードとパワーが込められているので、食らう方は堪った物ではない。
『キュミャーッ!』『キュェーイ!』『キャミーン!』
しかも、四方八方からアルミラージが突進してくる為、非常に鬱陶しく、普通に危ない。これはバクラージュよりも先に、取り巻きのアルミラージたちを退治した方が良さそうである。
「耳塞げ! ……ギヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
『『『ピョゲーッ!?』』』『バヴォァッ!?』
という事で、先ずはポダルが轟咆哮を上げて、相手を怯ませる。兎は耳が良過ぎるので、急に大きな音を立てられると身体が硬直してしまうのだ。ポダルの雄叫びは、そういう次元の話じゃない気もするが……。
ともかく、これである程度の隙を生み出せた。
《投網じゃ投網!》《今度こそ一網打尽ですよ~!》『痺れろぉ!』
『シッ! シッ! ハァアアアッ!』
ラゴスとピグミーたちの電気投網がアルミラージたちを包み込み、捕らえ損ねた奴らはクリスの毒矢が射抜く。ディオメデスとケリュネイアの機動力のおかげで楽に事が進められた。最早モブ退治は彼女らにお任せである。
『ギャヴォオオオオン!』
だが、やっぱり大型モンスター相手には若干の力不足だ。毛皮で矢を弾き、投網を爪で引き裂いたバクラージュが、物凄い勢いで逆襲してきた。狙いは声を武器に出来るポダルと、ついでにたくあん。剛腕を振るい、大地を抉る。偶々近くを泳いでいた錦鯉が一匹撥ね飛ばされた。
――――――ズザァアアアアアアアッ!
さらに、躱されたと見るや否や、まるでボブスレーが如く突進してくる。腹の甲羅をソリ代わりにしているのだろう。兎の跳躍力と巨体に見合う質量が合わさった、破壊力抜群の攻撃である。
しかし、それらの必殺技も、当たらなければ意味が無い。フィジカルに優れるポダルや魔法で飛べるたくあん、変幻自在のスプリガンには掠りもしなかった。言うまでも無く、さっきまで相手にしていたケートスの方がよっぽど厄介だ。
「どりゃあっ!」
『ギェエエッ!?』
ポダルの魔法剣がバクラージュの角を部位破壊し、
『プリ~ン!』
『バヴォッ!?』
スプリガンがバクラージュの足を掬って、
『【κεραυνός】!』
『ギャビャアッ!』
たくあんの雷撃魔法が止めを刺した。
『キェエエエッ!?』『ヒョェエエエッ!』『ピィピィィイイ!』
ボスが殺られては襲う気も失せたのか、麻痺を脱したアルミラージたちが一斉に逃げ出す。流石に多過ぎると判断したラゴスとピグミーたちが、恐慌状態に陥った彼らを見て、わざと網を解放したのである。バクラージュ一頭とアルミラージ数匹、巻き添えを食った錦鯉が居れば、戦利品としては充分だろう。後で素材を売り物にしても良いかもしれない。
「さ~て、それじゃあ……」
『調理開始と行きますか!』
そして、待ちに待ったクッキングタイムが始まった。獲れたて爽やかなお肉たちの血抜きを済ませ、手早く解体していく。取り除いた鮮血や内臓は纏めて煮込み、ブラッドソーセージにして無駄なく活用する。その辺の野草や果実も利用して、かなりワイルドな料理を作り上げた。
今回のメニューはフレンチがメインであり、「アルミラージのオニオン(のような)スープ」「野草の煮込みサラダ」「錦鯉のブイヤベース」「アルミラージのコンフィ」「バクラージュのグリル」「バクラージュのロースト」「バクラージュのステーキ」「何かの果実のジュレ」と、かなり肉は多めだが、どれも美味しそうな物ばかり。これは頬張らずにはいられないでしょう。
「『お待ちどうさん!』」
『『いただきま~す』』《《ゴチになりマま~す♪》》『プティング~♪』『ヒヒ~ン♪』『キョンキョン♪』
皆で揃って、いただきま~す♪
◆バクラージュ
アルミラージの別名、もしくは亜種のような存在。こちらの方が大柄で凶暴な模様。もちろん肉食の強い雑食。悪食とも言う。
余談だが、アルミラージ種の角や歯は粘液を結晶化させた物なので、幾らでも再生する。ついでに体毛は過剰に摂取したカルシウムが皮膚外で固まった物なので、毛触りは最悪である。




