淵源の主
「ケートス」とは、その昔「エチオピア王国」で大暴れした魔獣だ。
正確には海神「ポセイドン」の使いなので神獣なのだが、その巨体とパワーは悪魔と呼ぶに相応しい物である。
……後に「メデューサの首」という特級呪物で雑に処理されるのだが。“柔よく剛を制す”。脳筋は搦め手に弱いという事か。
余談であるが、ケートスとは鯨や海豹などの、ざっくばらんとした「海洋哺乳類」を意味する言葉だ。
『フゥァアアアアアアアン!』
まぁ、実際のケートスは錦鯉の進化形なのだが。その出世振りは中々どうして、大胆である。骨格レベルでの変化に加え、上鰓器官による空気呼吸も可能としているらしく、陸揚げされてからも一向に弱る様子は無い。麻痺が効いている辺り、状態異常の類は通じるようだけど。
しかし、どうした物か。体長はまだ四メートルに達していない若い個体のようだが、このまま水揚げしていては、雄を呼ばれてしまう可能性がある。
というか、さっきから高周波の鳴き声を上げているような……。
――――――ザボァアアアアッ!
『フォグヴヴヴヴヴヴゥン!』
すると、程無くして湖面を割り、巨大なドラゴンが姿を現した。鰭が変化したであろう羽や脚を持ち、まさしく竜という面構えをしている。若干鯱に似ているかもしれない。
◆『分類及び種族名称:淵源龍=ケートス』
◆『弱点:逆鱗』
『う~わ~!』
その衝撃で、たくあんが池ポチャならぬ湖ドボンした。
「た、たくあ~ん!」
『ワタシが行くっ!』
クリスが飛び込み、救出へ向かう。
『くっ、早く雌個体を放してやらないと!』
《無理ですよ、今更返しても!》《夫婦揃って僕らを吹き飛ばすだけです!》
「なら、やるしかないな!」『プリ~ン!』
その間の引き付け役は、ポダルたちだ。ワイバーンに化けたスプリガンにポダルが跨り、ラゴスはケリュネイア、ピグミーたちはディオメデスに騎乗して散開する。
『ファヴヴヴォ……ガヴォオオオッ!』
「魚が火を吹くな!」『ギュルァッ!』
と、ケートスが口から蒼い炎を吐いてきた。炎は青い程温度が高い為、ケートスの火炎放射は文字通りの灼熱だと思われる。触れてもいないのに、水が蒸発してスチームが掛かった。
『ファグヴォオオオオッ!』
さらに、巨体を物ともしない力強い羽ばたきで、空中へと舞い上がる。流石は伝説の神獣。陸空海の全てに対応出来るとは、生物としてバグってる。
《《的がデカいんだよ!》》『そ~れっ!』
『ファヴォオオオッ!?』
だが、ワイバーン程の機動力は無いし、何より身体がデカ過ぎる。これでは動く的だろう。弓矢や銃弾なら問題無かろうが、帯電したネットランチャーを躱すのは無理だったようである。
『ファァグヴォァアアアアアッ!』
『《《わひゃ~っ!?》》』
とは言え、そこは神獣様。まだ若い雌個体と違いスタンは入らず、力尽くで投網を引き千切り、暴れ出した。しかも、牙を白熱化させて噛みつくオマケ付き。こいつの身体はどうなってるんだ!?
『フォヴヴヴヴッ!』
『ギュルァアアッ!?』
その上、長い尻尾で空中のスプリガンを鞭打つように叩き落す。射程がおかしい。部位破壊しなくちゃ!
「……この野郎!」
『バァヴォオオオオッ!?』
しかし、巻き込まれる寸前で飛び降りていたポダルの爆裂パンチが、ケートスの逆立って角のようになった鱗の塊にヒット。ケートスはもんどり打って引っ繰り返った。
「今だ! 雌を逃がせ!」
『《《てぇ~い!》》』
『フォァァァヴン!』
そして、雄のケートスが怯んでいる隙に、雌のケートスも放してやる。ブチ切れ状態ならまだしも、大ダメージを受けている状態ならば、生存を優先する筈である。
「たくあんは……」
一瞬、たくあんの落ちた方を見たポダルだったが、まだ上がってくる様子は無い。
「離れるぞ!」
『た、たくあんはどうするんですか!?』
「ここに居ても共倒れになるだけだ!」
仕方無しに、ポダルたちはケートスたちから距離を取る事を優先した。果たして、たくあんは一体どうなってしまうのか……?
◆逆鱗
モ○ハンでレア素材になりがちなアイテム。身体の何処か一ヶ所にだけある龍の急所みたいな物で、一度触れてしまえば、どんな温厚な龍も怒り狂って大暴れするという。人間で言えば、剥がれ掛けの爪をタッチされるようなものかもしれない。そりゃ痛いよ。




