パーリィーナイト
こんなカード、オレは三十六枚も持って無いよ……
『おぉぉぉぉ……』
ナニカが藻掻く。誰かを求めるように。仄暗い水底から、地上を目指して浮上してくる。
さぁ、“狩り”の始まりだ。
◆◆◆◆◆◆
『ぬ~んぬ~ん♪』
ベッドの上で、たくあんがピョンピョン跳ねる。可愛い。肉体的には成体だが、心は何時までも少女のままのようである。思わず撫でくり回したくなるけれど、やり過ぎると嫌われちゃうので止めておこう。
『たくあ~ん♪』
『ぬにゅ~ん!?』
駄目だクリス、早く何とかしないと。
「こらこら、そんなに締め付けたらたくあんが可哀想だろ」
『とか言って、実はあなたもやりたいんでしょ? 素直じゃないわね~♪』
「おう、やるかコラ?」
ポダルの嫌みも何処吹く風だ。ガッシリと抱き付いて、存分にナデナデしまくっている。それでも怒らないたくあんは良い子。
『ぬ~ん!』
『ああっ!?』
と思いきや、鰻の如くぬる~んと抜け出し、ポダルの方へ飛んでいく。流石に嫌だったか……。
「ほら見ろ。……ベッドでゆっくり休みな、たくあん」
『ぬぬぬ~ん♪ ……ぬ~ん、ぬ~ん……』
その後、解放されたたくあんは、ベッドに乗るなり、ぬ~んと眠り始めた。滅茶苦茶に可愛い。何時もご苦労様♪
「……寝ちゃったか」
『そうね。なら、ここからは大人の時間と行きましょうか♪』
※ポダルの見た目はちんちくりんだけど、一応は成人しています。
「………………」
すると、タイミング良くルームサービスが訪れる。ノックはしても「失礼します」は言わない辺り、本当に愛想の無い子である。頼んでおいたのは、リキュールの一種「ウーゾ」だ。酒のつまみまで用意している事を鑑みるに、朝まで飲み明かすつもりだろう。まさに大人の時間である。
「『ふぅ~』」
氷で割ったウーゾの一杯をクイッと行く、ポダルとクリス。ほんのり紅潮した頬と湿り気の多い溜め息が妙に色っぽい。
「おっ、良いね、これ」
『酒のつまみと言えばこれよね~』
さらに、サーモンや蛸の入ったマリネや薄切りのサラミなど、酒の進む小料理を堪能しつつ、ドンドンと出来上がっていく。
「おまえ~、たくあんにてをだしすぎなんだよぉ~」
『だってかわいいんだも~ん♪ うへへへ~へん♪』
こうして、二人の夜は更けていくのであった。
◆◆◆◆◆◆
「………………」
『あ、ありがとう……』
《《ご苦労様です~》》
『プティング~♪』
一方、ラゴスとピグミーたちとスプリガンのマスコット組もまた、楽しい夜を過ごしていた。無口なルームサービスから受け取ったシーフードピザと炭酸ジュースで乾杯だ。まさに子供の時間である。ノリで言えばパジャマパーティーであろうか?
《折角だから、ちょっとゲームでもしません?》《丁度フロントで対戦式のカードが売ってたんですよ~》
『へぇ、構築済みか。ルールも簡単そうだし、頭数も揃ってるから、タッグバトルでもする?』『プリン』
そして、パジャマパーティーと言えば、皆で遊べるゲームだ。オーナーの趣味なのか、海の向こうで流行っている「ジュエル・マイスターズ」というカードゲームが置いてあったので、早速タッグバトルを開始した。
ルールとしては、
・デッキは四十枚~六十枚
・初期手札は七枚
・ライフポイントは「7000」
・「ジュエル」というカウンターを二十二点持っており、これをコストにカードを使う
・カードはモンスター、スペル、スキルの三種類
・ライフかジュエルを全て失うか、デッキからカードがドロー出来なくなったら負け
という感じ。
売られていたのは所謂「構築済みデッキ」なので、そこまで強くは無いが、ある程度は楽しめるだろう。
『ボクの先攻、ドロー! ジュエルを二点消費して、「アドバンス・レディバグ」を召喚! さらにスペルカードの「アドバンス・チャージ」を発動! 「アドバンス・レディバグ」を墓地に送り、ジュエルを四点回復して、カードを二枚ドロー! 更にカードを一枚セットして、ターン終了!』
流れとしては、このように、
・最初にデッキからカードを一枚引く
・ジュエルを消費してモンスターを召喚する(基本的に一ターンに一度)
・スペルカード(一ターンに一枚しか使えないが強力)やスキルカード(ターンに何枚でも使えるがそこまで強くない)を使ってジュエルを回復しつつ効果を使う
という感覚でターンが進んで行く。最初の一ターン目は誰もモンスターで攻撃出来ない為、準備期間の意味合いが強い。本番は二ターン目からである。
《僕のターン、ドロー! ジュエルを三点消費して「フェアリアル・マカロン」を召喚して、フィールドスペル「フェアリアル・ファクトリー」を発動! 手札を三枚捨て、その分だけジュエルを回復する! その後、回復した数値分のジュエルを消費して墓地の「フェアリアル・プティング」を蘇生! 更にカードを伏せてターン終了!》
『マッカロ~ン!』『プティ~ング!』
続くピグミーの片割れは二体のお菓子モンスターを召喚し、
『プリン、プリン、プププ~ン!』
『………………』
プリンそのものなスプリガンはジュエルと手札を大きく消費して「ナイトメサイア・アロスタシス」なる大型モンスターを場に出して、
《僕のターン、ドロー! ジュエルを二点消費して「フォレートス・ラビット」を召喚して、効果発動! 更にジュエルを四点消費して、「フォレートス・フォックス」を召喚! そして、永続スペルカード「森緑の砦」を発動し、カードを二枚伏せてターン終了!》
残りのピグミーは森の仲間たちで盤面を整え、全員が一ターン目を終了した。
「………………」
だが、ここからが本番という所で、無口な少女は部屋を後にした。興味が無いのであろう。
「………………?」
そんな彼女の目に、不思議な物が映った。お化けが見えるなど日常茶飯事だが、
『ぬ~ん……ぬ~ん……』
夢遊病の肺魚は初めて見た。しかも、ナニカに誘われるように一人でホテルを出て行ってしまう。
「………………!」
少女は急いでたくあんの後を追い掛けるのであった。
◆ジュエル・マイスターズ
日本が発祥のオリジナルカードゲーム。美麗なイラストと消費と回復のバランスを考えた戦略が人気を博し、グローバル化している。漫画にもなっていて、主人公のエースカード「アドバンス・マジシャン」、ライバルの切り札「ブルーブラッツ・ホログラム・ドラゴン」は、カードに興味の無い子供にも認知される程に有名である。




