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森のぬこたん

新年明けましておめでとぉ~♪

「さて、先ずはこの森を抜けないとね」

『むしろ、なんでこんなところでじきゅうじそく?』

「ほっとけ」


 穴居式のボロ屋を後にして、いよいよ冒険の旅に出るたくあんとポダルだったが、先ずは小手調べとばかりに深い森が立ち塞がった。面積にして、東京都三個分は下らないだろう。


「ちなみに、ここには魔物が出るからね」

『え~』


 その上、この森には魔物が出るらしい。見たまんまと言えばそれまでだが。


「まぁ、私に掛かれば一発よ♪」

『そ~なのか~』


 信用ならない。口では何とでも言えるし……。

 ともかく人里へ行くには、この深い深い森の中を通り抜けるしかないのであれば、進むしかなかろう。流石に足を踏み入れた瞬間に襲われる、なんて事は、


『グゥゥゥゥッ!』

「『いちゃった』」


 ……あった。

 人の顔にネコ科の猛獣の胴体、蠍のような尻尾を持つ怪物――――――「マンティコア」である。


『きゃわきゃわきゃわっ!』

「『きゃわいいねぇ~♪』」


 だが子供だ。大きさも体格も顔立ちも子猫のそれである。


『きゅぅ~ん……』


 しかも、怪我をして弱っているらしく、威嚇するだけで精一杯のようだ。フ~ラフラのユ~ラユラで足取りも覚束ない。瞳が虚ろで虫の息なの見るに、出血多量で死に掛けているのであろう。何かに襲われたのだろうか?

 これは……助けるしかない! 何故なら、可愛いから! メカクレ幼女顔のにゃんこを見捨てるなんて、絶対にあり得ないでしょう!?


「くっ……だけど、これは……」


 しかし、応急処置でどうにかなる範囲を遥かに超えていた。魔法がからきしのポダルの手には負えない。


『【παυσιπονον(パウシポノン)】【αποσ(アポス)τείρωση(ティロシ)】【θεραπεία(セラピア)】【αναψυκτικό(アナプシキティコ)】~♪』

『はにゃぅ……zzzZZZ』


 だからこそのたくあんである。鎮痛・消毒・治癒・強壮の四連コンボにより、死ぬ一歩手前のマンティコアがみるみる内に回復し、体力回復の為に深い眠りに着く。たくあんたちの目前で。


「『きゃわいい~♪』」


 助かって良かったねぇ~♪


『ふぅふぅ……ちょっとつかれたから、みずがめにはいらせて~』

「あ、やっぱり疲れるのね」


 だが、尽きる寸前だった命に再び火を灯すには、膨大な魔力が必要なので、たくあんは浮遊と保湿が維持出来なくなり、用意しておいた水入りの瓶に避難する。


「こりゃあ、森の踏破は明日以降だな。今日は近くで野宿しよう」


 こんな有様で魑魅魍魎が跋扈する魔境を越えるのは不可能だ。森の入り口で野宿して体力の回復を図る方が利口だろう。眠るたくあんとマンティコアを脇目に、ポダルはテキパキと野営の準備を進める。

 その後、日が傾く頃にはガッチガチのキャンプが完成した。テントこそ簡易的だが、周囲に張り巡らされたブービートラップはそう簡単に越えられる物ではない。踏んだら火虫が四方八方から炸裂する、地獄のトラップである。


「……凄いなぁ、この子は」


 焚火で干し肉を戻しながら、ポダルが呟く。自分では手も足も出ない分野を、ちょちょいのちょいでやってのけるたくあんは、彼女にとって羨望の的であり、同時に嫉妬の対象でもあった。好き過ぎて嫌いみたいな感じ。


『ぬ~ん……ぬ~ん……ぬ~ん』

「寝息も「ぬ~ん」なのか……」

『すぅすぅ……きゃわ……』

「君もきゃわいいねぇ~♪」


 愛い奴らめ~♪


「ほら、そろそろ起きなよ君たち!」

『ふぁ~ん?』『きゃわぁ~んっ!?』


 ポダルが声を掛けると、たくあんはのったりと、マンティコアはドッキリと起きた。


『ヴゥ~ッ!』


 出遭った時と同じく威嚇するマンティコア。まぁ無理もないが……。


『だいじょうぶなのぉ~?』


 しかし、たくあんは全く動じる事無く安否を気遣う。彼女は生前、沢山のアクアリウム仲間たちに恵まれていた為、人見知りをしない優しい子に育ったので、これくらいどうという事もない。


『いっしょにごはんたべよぉ~?』

『……キミが、ボクを助けてくれたの?』


 すると、マンティコアが多少警戒を解いた。まさかのボクっ娘だった。


「そうだよ。……この飯は、私が用意した物だがね」


 たくあんの代わりに、ポダルが答えた。先ずは同じ釜の飯を食おうという魂胆だ。


『……じゅるり』


 マンティコアはチョロい子であった。


『ほら、いっしょにたべてようよぉ~♪』

『……がうがう♪』

「良い食べっぷりだ事」


 流石は“人食い”マンティコア。バリバリの肉食である。あっという間に戻し肉を平らげてしまった。もちろん、ポダルやたくあんも食べたが、明らかにマンティコアが一番喰っている。


『――――――色々と助けてくれてありがとう!』


 そして、満腹になる頃には、すっかり胸襟を開いていた。やっぱりチョロいなこの子。


「それ程でも。……そんで君、名前は?」

『「ラゴス※」だよ』

「そうなの、良い名前ね」


 ※λαγός(ラゴス)=野兎


「それはそうと、君はどうして傷だらけだったの?」

『なにかにおそわれたのぉ~?』


 と、ここで本題に入る。ラゴスは何故あんなに傷だらけで彷徨っていたのだろうか?

 ラゴスは暫し言い淀んだ後、苦々しい顔で答えた。


『……「キマイラ」に、襲われたんだ』

◆コカトリス


 雄の鶏が産んだ卵を蟇蛙が温めると発生すると言われている、伝説の魔獣。鶏の頭、竜の翼、蛇の尾、黄色い羽毛を持ち、石化の魔眼と猛毒の息を吐いて周囲の生き物を殺し尽くしてしまう。雄の鶏を弱点とするバジリスクが自己進化した姿ともされており、毒の威力も遥かに優れているらしい。ただし、こんな形して草食性なんだとか。

 正体はテリジノサウルスのような進化を遂げた雉の仲間。ようするにデカい鶏である。尻尾や爪、牙の根元に毒腺があり、食らった獲物は強いバビンスキー反射で全身が硬直して死に至る。

 ちなみに、この世界ではバジリスクの進化系ではなく托卵相手である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] それでこそのたくあん(╹▽╹)寝息も…かわいいが渋滞し始めましたが苦情〇件は当然です! [気になる点] 続き… [一言] また読みに伺います
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