現れたモノ
怒涛過ぎて胃持たれする~
「走れ、跳べ! 音も無く!」
《《無茶振りにも程がある!》》
『ヒヒーン!』『キュアンキュアン!』
地の底へ向かって、ポダルたちが行く。馬や鹿と違い、上下の移動にも強いディオメデスとケリュネイアを足に使った強行軍である。本当に無茶振りにも程がある。
だが、それもこれもたくあんたちを救出に向かう為だ。しゃーないしゃーない。
(……待ってろよ、たくあん!)
そうして、ほぼ垂直の断崖絶壁を勢い良く降りて行くポダルたち。
『キケェアアアッ!』『カホホホホッ!』『シャガァッ!』
「こいつらは……!」
《“悪霊軍団”……》《ミュルミドンですよ!》
途中、横穴からミュルミドンが何体か飛び出してきたが、
「フン! ハッ! ドラァッ!」
所詮は数だけが頼りの蟻人間。巣の上層部に居る老齢個体など、相手になる筈も無かった。
しかし、深みに嵌まれば嵌まる程に数は増え、年齢層もドンドン若返っていく為、苦戦を強いられる事となる。蟻の巣は下層に行けば行く程、強く若い個体が多くなるのである。相対的に戦闘経験が減っていくとは言え、単純にフィジカルが高いので殺すのに手間取ってしまい、結果的に取り囲まれる可能性が高まっていくのだ。
そんな感じで、少しずつ少しずつ削られ、下降も遅々として進まなくなってきた頃、
――――――ォォォオオオオオッ!
「な、何だ!?」
《《うひゃあああ!?》》
突然、穴の奥から猛烈な上昇気流と、風鳴とも唸り声とも取れる音が響いた。
『キェエエッ!?』『ギャヒャァッ!』『キキィィィッ!?』
さらに、さっきまで邪魔立てしていたミュルミドンたちが、急にどよめき始め、剰え逃げ出してしまった。一体この先に、何が待ち構えているというのか……?
◆◆◆◆◆◆
殆ど同時刻、地下洞窟内部。
『キシャアアアッ!』『クケェエエエッ!』『クキィィィッ!』
『じゃまじゃま~!』『プリ~ン!』
『くっ、しつこい!』『ウザ~イ!』
巣穴への侵入者を血祭りに上げようとするミュルミドンと、暗黒世界からの脱出を図るたくあんたちの、死に物狂いの鬼ごっこを繰り広げていた。地の利で圧倒的に負けているたくあんらが袋小路に追い込まれていないのは、偏にたくあんとクリスのおかげだろう。彼女らが居なければ、とっくの昔に寄って集られて、貪り食われていたに違いない。
『カホハハハハッ!』
『ぬぅん!?』
だが、やはりここはミュルミドンのホームグラウンド。一部の者たちが先回りをしてスクラムを組み、まるで巨大な籠のように行く手を阻んできた。女王の居ないアミメアリみたいな生態を持っている癖に、やってる事はグンタイアリである。たくあんも魔法で突破を試みるが、次から次へと網目を修復してしまう為、これは流石に無理かもしれない。
――――――ギゴヴァヴヴヴヴヴゥゥゥッ!
しかし、チェックメイトかに思われた瞬間、何処からともなくナニカの唸り声が響いた。
『キェエエッ!』『ヒギィィィッ!』『ケァアアアッ!』
すると、あれだけ殺気立っていたミュルミドンたちが、見る影も無い程に怯えた声を上げながら、蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出していく。
もちろん、ミュルミドンらが居なくなったからと言って、事態が解決した訳では無い。唸り声が聞こえた方に目を向けると、真っ暗な闇の中に赫々とした焔が浮かび上がっていた。
そして、
『ゴヴォルァアアアォォオオオッ!』
炎の渦を巻き起こしながら、巨大な怪物が現れた。
蜻蛉と地龍を組み合わせたような姿をしており、ドラゴンの頭を思わせる物体が尻尾に生えている。顎が二重構造になっていて、全開にするとかなり伸長するようだ。
このグロテスクな化け物は一体何者なのか?
《《“百頭竜”……「ラドン」!?》》
ピグミーたちの言葉が、全ての答えであった。
◆『分類及び種族名称:顫動超獣=ラドン』
◆『弱点:第二の口』
◆ラドン
百の頭を持つと言われる魔竜。「ヒュドラ」や「キマイラ」と同じく、半人半蛇の怪物「エキドナ」の生み出した魔物の一体で、「ヘスペリデスの園」に生える黄金の林檎を守護する役割があるという。後にヘラクレスの手で退治された。それも弟であるヒュドラの猛毒を用いられて。
正体は馬鹿デカいヤゴの化け物。地熱を利用して成長する為、地底の奥深くに潜んでいる。
ヤゴの怪物という事は、つまり……。




