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蜘蛛を掴むような話

わきわき♪

 湿原のど真ん中で一晩中飲み明かし、ハティと一時の別れをした、朝食後。


『それじゃあ、いこっか~♪』


 たくあんたちは、遥か向こう……巨大都市「サロニカ」を目指して出発した。たくあんをクリスとポダルが交代で抱きかかえ、その三人とラゴスをスプリガンが運び、残るピグミーたちは何故か仲間に加わったディオメデスに跨る形である。まるでガンダーラを目指す三蔵法師一行みたいだ。


「ドラーマよりはマシだな」

『そりゃあ、遺跡平原ですからね。足場はしっかりしてますよ』


 プロティス平原は過去に国が滅んで出来た荒れ地であり、草や苔が生い茂ってはいるものの、泥沼同然だったドラーマ平原よりは歩き易い。ついでに遺跡巡りも出来る利点もある(笑)。


《だけど、油断は大敵ですよ~》

《そうそう。こういう遺跡群には、何かしらの亜人種が住み着いている物ですからね~》


 だが、容易に通り抜けられるかと言うとそうでも無く、人の暮らした後を利用する生物が跋扈している危険地帯でもある。


『まぁ、ヒュドラの大移動のせいであんまり居ないでしょうけどね』

「だろうな」


 そういう意味では、ヒュドラの暴走は有り難くもあった。ほんの少しだけだけど。


『あ、しかさんだ♪』


 と、たくあんが遺跡の一角を指(鰭?)差した。そこには黄金の毛並みを持つトナカイのような生き物がおり、静かに草を食んでいる。


「ありゃあ、「ケリュネイア」だな」

『けりゅねいあ?』

『黄金の毛並みを持つ、聖なる鹿ですよ』


 「ケリュネイア(正しくは「ケリュネイアの鹿」)」とは、月の女神「アルテミス」の戦車を引く聖獣とされているトナカイの事である。異常なまでに足が速く、風さえ置き去りにしてしまうという。

 余談だが、トナカイがこんな緯度の低い場所に居る訳が無いので、実は外来種だったりする。何なら正体はクワガタムシなので、哺乳類ですらない。


(それにしても、あんな南方の生き物が北に進出しているとはな……)


 本来ケリュネイアは「アルゴス」に近い地域に棲んでいる。こいつもまたプロティス平原に居る筈の無い生き物だ。それだけヒュドラの移動が与えた影響は大きかったのだろう。



 ――――――ドシュッ!



『キヒィン!?』


 ふと、何処からともなく白い投網が飛んできて、ケリュネイアを地面に縫い付けた。網は非常に頑丈な上に粘り気もあるらしく、絡め取られたケリュネイアは、すっかり身動きが取れなくなっている。


『ギキュゥッ!』


 さらに、崩れた遺跡の中から、不思議な姿をした怪物が現れた。一見すると螳螂の成虫に見えるのだが、鎌以外の脚が六本あり、奇怪な蜘蛛のようにも思える。少なくとも、投網の根元が怪物の口に繋がっているので、こいつが吐き出した物に間違いない。

 この怪物は一体何だろう?


『「アラクネ」だわね。蜘蛛の化け物よ』


 怪物を見たクリスが、そう断ずる。

 「アラクネ」とは、女の上半身に蜘蛛の下半身を持つと言われる化け物で、元は地方で染織業を営む町娘だったが、芸術の女神「アテナ」に喧嘩を売った為、ボコられた末に姿を変えられてしまったと言われている。

 つまり、目の前の怪物は元人間かつ蜘蛛のモンスターである筈なのだが、螳螂要素が強い気がしないでもない。


『くもじゃなくてころぎすだよ~』


 すると、たくあんがとんでもない事を言い出した。


「「コロギス」!? あれの何処が!?」


 ポダルが目ん玉が飛び出るくらいに驚いた。無理もなかろう。「コロギス」とはバッタの仲間なのだから。


『たくあんちゃん、流石にそれは……』

『でもさ、くもってくちからいとださないよね?』

「『あ』」


 しかし、全く突拍子も無い話でもないらしい。

 そう、蜘蛛は尻から糸を出し、コロギスは口から糸を吐く。よく見ると一番後ろの脚がバッタのそれだし、羽根の形状もキリギリス系統に似ている。


『え、じゃあ、あの螳螂っぽい部分は?』

『たぶん、あたまがへんかしたんじゃないかな~』

『なら、あの鎌って元は大顎なんだ……』


 ようするに、アラクネは“頭が螳螂の上胸部みたいに変形したコロギス”という事なのだろう。ビックリ仰天である。


『キギャァッ!』

「――――――って、のんびり見ている場合じゃなかった!」


 そして、食いしん坊なアラクネは、目の前のご馳走の山に襲い掛かるのであった。やっぱりこうなるのね……。


◆『分類及び種族名称:放糸超獣=アラクネ』

◆『弱点:首の付け根』

◆アラクネ


 半人半怪という異形の蜘蛛女。元々は人間であり、一地方で染織業を営む単なる町娘だったのだが、手芸技術が神業レベルであり、本人もその事を鼻に掛けて「私はあのアテナ(手芸の女神様)をも超える天才だ!」と高飛車に語る、今で言うDQNみたいな奴だった。案の定、周囲の忠告も聞かず、アテナ本人が出張る程に話が大きくなり、しかも「互いの技術を生かしたタペストリー制作対決」でよりにもよって「ギリシャ神話の浮気現場」を作り上げてしまった為、神の拳で撲殺された。一応、アテナもやり過ぎたと思ってアラクネを今の姿で蘇生させたらしいが、それって罰ゲームでは?

 正体はコロギスの仲間で、頭部を螳螂のように変化させている。本来、コロギスの糸は粘り気が無いのだが、捕食に活かす為に蜘蛛のような粘性を持たせた。ちなみに粘り気の正体は彼女の唾液。

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