たくあん、新たな旅へ
乾杯~♪
それからそれから。
『それじゃあ、みんなかんぱ~い♪』
「乾杯~♪」『乾杯!』《《イェ~イ!》》『プリノスケ~♪』『最高!』『テンション高いなオマエら』
湿原のど真ん中に聳える馬鹿デカい岩の上で、たくあんたちは乾杯をしていた。虹天使イリスの討伐を祝しての酒盛りである。と言っても、お子ちゃま組はジュースだけど(笑)。
野外でパーリィータイムとは良い度胸だが、それだけの激戦を制したのだから、これくらいは許されて然るべきだろう。そもそも天使をぶち殺すような連中に喧嘩を売るような輩はそうそう居ないであろうが。
『おいしそうだねぇ~♪』
『喜んで貰えて何よりだわ、たくあんちゃん♪』
『オレも作ったからな?』
ちなみに、料理担当はクリスとハティ。
二人共腕は保証付きなので、用意された料理も「蒸かし芋のホワイトソース掛け」「|豚肉の塩漬け入りピリ辛トマトパスタ《アマトリチャーナ》」「漁師風パスタ」「ナポリ風ピッツァ」「牛のハチノス煮込み」「聖なる牛肉の炭火焼」「魚介類の海鮮煮込み」「|野菜のアンチョビソース付け《バーニャカウダ》」「氷菓」「|生クリームのゼラチン固め《パンナコッタ》」と、美味しそうな物ばかりだった。豪華にも程がある。
『もぐもぐもぐもぐもぐもぐ♪』
『えびえびしてるわねぇ~♪』
まぁ、たくあんが一番食い付きが良いのはシンプルな海老なのだが。でも可愛いから許す。
「まさか、あんたが駆け付けて来るとはねぇ……」
林檎酒をカッ食らいながら、ポダルが呟く。
『納品のついでだよ。これが終わったら、また戻らにゃならんしな』
「そりゃそうか」
店を畳んだクリスと違い、ハティは一所に居を構える鍛冶職人。今回は偶々手を貸してくれたが、あくまでこれっ切りだ。宴が終われば、また何時もの日常に戻らねばならない。
『ま、何かあれば手を貸してやるし、クリュセに来れば歓迎してやるさ』
「その時は立ち寄らせて貰うよ」
チンッ、とジョッキを鳴らし合う二人。良い酒を飲めているようである。
『それにしても、今度ばかりは本当に駄目かと思いましたね~』
と、ラゴスが肉を頬張りつつ、ジュースを一気に飲む。腹も心も満たされて一安心、と言った所だろう。
《ディオメデスが集団移動してたのも、イリスに寄生されてたヒュドラのせいだったんですね~》
『ヒヒン!』
《というか、何でお前はまだここに居るだよ?》
ピグミーたちも大満足のようだ。何故か騎乗したディオメデスが馴れ馴れしく食事に参加しているが、気にしたら負け。
『ワタシはたくあんちゃんが無事なら、それで良いわよ~♪』
『ぬぬ~ん? よってるぅ~?』
『そんな事無いよぉ~♪ よ~しよしよし、可愛いねぇ~♪』
『ぬ~ん♪ きもちいい~♪』
クリスに至っては、すっかり出来上がっていた。普通、料理人は遠慮する物だが、折角の祝勝会で言及するのも野暮かもしれない。なでなでし過ぎだけど。
『プリプリプリン♪』
お前は食い過ぎ。
「それはそうと、次は何処に行く気なんだい、たくあん?」
ふと、ポダルがたくあんに話を振った。邪魔者が居なくなっても旅が終わる訳では無いので、当然の疑問であろう。
……とは言え、デメテルの支配するディストピアにもう一度行きたいとは思わないけど。怖いし。
『そうだねぇ~。つぎはゆうえんちにいきたいな~』
「遊園地だぁ?」
『だって、やまもうみもへいちもいったし、みなとまちとかはいったことあるけど、そういうあそびばにはいったことないもん』
「フ~ム……」
実に子供らしい可愛げのある意見だが、こんなファンタジーな異世界に、そんな娯楽施設があるのだろうか?
『なら、「サロニカ」にでも行って来たらどうだ?』
すると、ハティがピッと何かのチケットを差し出してきた。見てみると、“五泊六日「サロニカ」の旅”と書いてある。
「「サロニカ」か……」
「サロニカ」とは、勝利の女神「ニケ」が治める大都市である。野を越え山を越えた先の海沿いにある街で、この世界でも一、二を争う程に発展しており、商業施設はもちろん、様々な娯楽施設や観光施設が建ち並ぶ場所だ。
『おもしろそうだね~♪』
『それなら、「プロティス平原」を抜けていきましょう。セレスの近くを通る事にはなりますが、直で横切るよりは良いでしょう!』
《確かにそうですね~。折角この馬が居る事だし、渡りに船と行きましょう!》
《今なら生態系が一掃されて、ヤバい魔物もいないでしょうしね!》
そういう事になった。
たくあんの旅は、まだまだ続く!
◆サロニカ
この世界でも最大級の都市。様々な地方から影響を受けた事によって様々な文化が入り乱れており、高々度の摩天楼だけでなく歴史的な建造物が見られるなど、観光名所としても盛況である。
まぁ、その分犯罪の数も多かったりするのだが。




