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宝石よりも輝かしい物

飛べ、たくあん!

 万事休すかに思えた、その時。



 ――――――ゴゴゴゴゴゴッ!



 大地を揺らし、ナニカが突き進む。その速度は異常であり、まるでミサイルである。振れ幅から察するに、長細い物体が高速で地下を穿孔しているようだ。


『………………?』


 さらに、そのナニカは何故かイリスの足元でピタリと止まった。辺りが静けさに包まれ、本当に一切動きが無い。一体全体、何なのであろうか。

 不思議に思ったイリスが、牽制の意味も込めて、触手を地面に打ち込もうとした、その瞬間。


『ぬぅううううん!』

『クァォッ!?』


 大地を裂き、魔法で巨大化したたくあんが現れ、間髪入れず口から大火球を放った。浄化と同時にデメテルの加護も受け取っていたようで、たくあんの魔法は色々とパワーアップしているようである。


『キァアアォオオッ!』


 しかし、イリスには間一髪で避けられてしまう。イリスはそのまま舞い上がり、たくあんも飛翔魔法で追い掛ける。今ここに、大X(カイ)獣空中決戦が始まった。


『ぬん! ぬん! ぬぅううん!』


 先ずはたくあんの先制攻撃。大火球を怒涛の三連続でぶっ放した。

 だが、一発目と二発目は避けられ、最後の一発も鱗粉のバリアで相殺されてしまった。


『クゥヴァォオオオオッ!』


 今度はイリスが反撃する。触手や額の単眼から破壊虹光線を乱れ撃ち、たくあんを血祭りに上げようとする。


『ぬんぬぅ~ん!』

『キェアヴォッ!』


 しかし、何度と破壊虹光線を浴びようとも、たくあんは全く止まらずに、そのまま突っ込んで縺れ込み、急速に落下し始める。落ちた先は大きな湖、つまりは水の中だ。空中ならいざ知らず、水中となれば肺魚たるたくあんの方が圧倒的に有利である。


『キァアアアアアアッ!』


 焦りと怒りで破壊虹光線を撃ちまくるイリス。

 だが、憔悴した状態では狙いなど定まる筈も無く、たくあんを傷付ける処か、彼女が絡み付いている自分の脚を破断してしまった。今まで誰一人として与えられなかった痛みが、イリスの本能を襲う。


『ぬぬぬぬーん!』


 イリスが痛みに喘ぐ隙に、たくあんがロケットの如く急上昇した。ついでにぷりっとした物を引っ掛けておく事も忘れない。臭い・柔らかさ共に申し分の無い出来栄えであった。


『ギャヴォオオオオオ!』


 尊厳破壊された怒れるイリスが、彼女の後を追い掛ける。雲を突き抜けスカイ・アウェイからの、オゾンより上でも問題無い。緑溢るる青い星を背に、両者は対峙した。


『キァアアアッ!』


 と、たくあんを串刺しにせんとイリスが触手を一斉に突き出す。怒りが力となっているのか、今まで以上の速度であり、殆ど不可視の攻撃だった。


『ぬぬぬぬぬ……!』


 しかし、驚いた事にたくあんはそれらを一切避けず、全てを受け入れる。

 むろん、そんな真似をすればあっという間に干し魚になってしまう筈なのだが、たくあんの強靭な生命力と全力で描け続けている回復魔法によって、吸引力に対して拮抗していた。やっぱりたくあんは凄い。

 そのご、たくあんは飛行を中断し、星の重力に逆らうのを止めた。イリスの触手を自分に縫い付けたまま。もちろん、イリスはたくあん諸共落下する。大気の厚い壁に向かって。


『ぬぬぬぬぬぬん!』

『ギィアアアアア!』


 もちろん、二人共燃え上がった。ただし、大気圏へ突入する前にたくあんがイリスを盾にしていた為、ダメージの殆どはイリスが背負う形になっていたが。


『ギキィィ……ギィグヴァアアヴォッ! ギカァアアヴォッ! ガァァヴォオオオオオォッ! フォアアアアアッ! ギィグァヴヴヴヴヴッ!』


 死を目前にして、イリスが藻掻き苦しむ。その声は、今までたくあんたちが対峙してきた大型モンスターたちの物と同じだった。

 だが、そんな事をしても無駄無駄無駄。たくあんは絶対に放さないし、イリスが逃れる術は無い。命を弄んで来た者が負うべき報いだ。


『ぬぅぅりゃあああああぁぁぁんっ!』

『ギアゲァ……ッ!』


 そして、たくあんとイリスは赫い彗星となって地に落ち……虹色の花が咲いた。世界で最も美しい散花である。


『ぬぅ~……ぬぅ~……』


 むろん、たくあんも無事では済まず、虫の息となる。


「たくあん!」『たくあん!』『たくあんちゃん!』《《たくあんさ~ん!》》『たくぁああああん!』


 しかし、彼女には仲間が居る。互いに助け合い、支え合える心の友が。まさに見た目だけのイリスには得られない、大切な宝物だ。

◆宝物


 それは鉱物であったり芸術であったり知識であったりと人によって様々だが、たくあんにとっての宝物は、他ならぬ旅の仲間たち(と海老)であろう。

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