港湾都市「ダトゥム」
まさかの大雪~♪
「さて、「ダトゥム」に着いたぞ」
クリュセ島の対岸、港湾都市「ダトゥム」。
黄金郷と直に取引しているだけあって発展しており、島ではなく陸地という事を活かして、大規模な建造物が立ち並んでいる。金ピカキンだったクリュセと違い、こちらは特殊なセラミックを建材としている為、何処か無機質な印象を受ける。
しかし、温かみが無いかと言われるとそうでもなく、大通りには商店街が居を構え、街道の至る所に露店や屋台が立ち並んでいる。商業と観光の街、と表現するのが一番正しいか。
『ここではなにするの~?』
「一先ず、休憩じゃね? シャナとかいうアスラ神族のせいで結構疲れたし。それに準備も無しに街を出るのは自殺行為だからな」
……結構疲れたで済むのだろうか?
『そうですよ、たくあん。この辺の平原には、“人食い馬”が出るんですから!』
『……うまってにくしょくだっけ?』
たくあんの記憶が正しければ、馬は完全な草食の筈だが――――――馬に似た肉食性の怪物、という事だろうか?
『「ディオメデス」っていう種族で、「ポダルゴス」「ラムポーン」「クサントス」「ディーノス」の四亜種からなる怪物です。生まれながらに雌しか居なくて、人間の男を好んで襲うんだとか』
「何か別の意味に聞こえて来るんだが」
《《気にしたら負けですよ~》》
ちなみに、「ディオメデス」とは元々は人名である。古代トラキア王国の指導者で、かの英雄「ヘラクレス」によって斃されたとされている。人食い馬たちはディオメデスが飼育していた怪物の事だ。時代と共に主人の名前を引き継ぐという経緯は、フランケンシュタインの怪物に近い。
ともかく、そんなヤバい輩がうろついているのなら、食料を買うなり体力を回復するなり、相応の準備をしてから行こう、という話である。
『それじゃあ、なにかたべようよ~♪ ぼく、おなかすいちゃった~♪』
「可愛いなぁ……」
そういう事になった。
『ぬ~んぬ~んぬ~ん♪』
肺魚、魔女、怪物、小人、妖精という、濃ゆい面子が街を練り歩く。様々な種族が行き交うダトゥムの中でも、これ程まで目立つ珍道中も居ないだろう。
『は~い、そこの不思議なお魚ちゃん♪』
『ぬ~ん?』
早速、露天のお姉さんに声を掛けられた。容姿は人間の女性だが、角や尻尾が生えているので、確実に人ではない。
『なぁ~に、おねいさん?』
『いや~、お腹空いてるって言ってたから、折角ならウチで食べてかないと思ってさ~♪』
『きゃくびきだね~』
『見た目に寄らず頭は良いのね』
「そりゃそうだろ。こいつ、こう見えて魔法を使えるんだからな」
『そいつはビックリ! 凄いね、お客さん!』
会話に割って入ってきたポダルの台詞に、露天のお姉さんがビックリ仰天する。魚が魔法を使うというのだから、それは驚くだろう。喋る時点でおかしな話だが、相手も人外なので言いっ子無しだ。ファンタジーと言えばそれまでだし。
『――――――なら、尚更寄って行かない? 旅の話とかしてくれたら、色々とサービスしちゃうわよん♪』
『そうなんだ~♪ よってこうよ~♪』
「疑う事を知らんのかお前は。……まぁ、良いけどさ」
そんな感じで、たくあん一行は露店で食事を摂る流れとなった。
『とりあえず自己紹介♪ アタシは「カリカンジャロス」の「クリス」よ♪ 宜しくね~♪』
露天のお姉さん――――――「クリス」が料理をしながら自己紹介する。
「カリカンジャロス」とは小鬼や小悪魔のような姿をした魔物であり、悪戯好きで暗がりを好むなど、「ゴブリン」に近い特徴を有している。起源は別なので、収斂進化の一種なのかもしれない。
一説によるとカリカンジャロスは「3」を数えられないらしいが、あくまでそれはキリスト教由来の話である。オリジナルのカリカンジャロスは普通に数を言えるし、当然クリスも問題無く勘定出来る。商売が成り立たないからね。
『はい、お待ちどうさん♪』
「おお~♪」
『これは凄い!』
《《滅茶苦茶美味しそうですね!》》
『プリンプリン♪』
そして、あっという間に運ばれてくる料理の数々。港湾都市というだけあって魚料理がメインだが、他にも「小烏賊の唐揚げ」や「鱈子入りポテトサラダ」など、お酒が進みそうなメニューもある。これだけの量をささっと作れる辺り、クリスは相当な腕の持ち主なのであろう。
『お魚ちゃんには新鮮な所をサービスサービス♪』
『わ~い、えびだ~♪』
さらに、たくあんには何とオマール海老の剥き身やソフトシェルクラブ、ムール貝などの新鮮な魚介類の盛り合わせが出される。西洋にしては珍しい生食だが、たくあんにとっては嬉しいサービスだ。
『もぐもぐもぐ……あむあむあむあむあむ♪』
もちろん、一つ残らず食べまくった。その気持ちの良い食べっぷりに促され、ポダルたちも料理を平らげる。
『さ~て、それじゃあ、お話聞かせて貰おうかしらね~?』
すると、クリスが同じ席に座って、聞く姿勢を取った。マジで旅の話を肴とお代にするつもりらしい。
『う~んとねぇ~……』
そして、たくあんの、たくあんによる、たくあんの為の冒険譚が語られるのであった。
◆カリカンジャロス
毎年冬になると木の根っこを切ろうとする、まるで根切り虫みたいな事を行う、ゴブリンに似た種族。ブルガリアにも似たような輩が居る。キリスト教における神聖な数字である「3」を数えられないらしいが、発祥がギリシャなのでたぶん気のせい。
正体はヨトウガの仲間。幼虫時代は地下で暮らすが、羽化して人型に変異すると、人間の異性と交尾をして増殖する。夜行性ではあるが、ドヴェルグと違って日光が嫌いなだけで弱いという訳ではない。




