天空の城塞
蛸より烏賊が好き♪
「カリュブディス」。
嵐と渦潮を巻き起こす怪物であり、かつては絶世の美女だったという。
だが、見た目に反して凄まじい大食らいであり、巨人「ゲリュオン」が管理する、「ゼウス」の私物である“聖なる牛”まで盗み食いした為、怪物の姿に変えられたと伝えられている。
さらに、似たような境遇と姿の「スキュラ」と共に、根城の海峡で船を見境なく沈めて、船乗りたちを食い殺す、とんでもない罠モンスターみたいな輩になってしまった。人間側としては、実にいい迷惑である。
……でも、だからってさぁ、
「『『タコになるのはおかしくない?』』」
宙に浮かぶ、巨大な蛸に総ツッコミを入れる三人。肺魚が浮かんでいるのも充分おかしいと思うのだが……。
『フルォオオオォ……!』
角笛を吹かすような唸り声を上げるカリュブディス。やはり、何処からどう見ても蛸だ。種類で言えば「メンダコ」に近い。
しかし、頭頂部に海藻や珊瑚が繁茂しており、体内に溜まったガスでプカプカと漂い浮かぶ様は、まるで天空の城である。恐るべき科学力で天空にあり、地上を支配するつもりなのだろうか?
まぁ、吸引力の変わらないダイ○ンみたいな習性を持つコイツに、そんな知性が残っているかは不明だけれど。
(なるほど、こいつの接近に気付いたから、セイレーンたちは逃げ出したのか)
海鳥の化け物と神話級の怪物では勝負にならない。空を飛ぼうが水に潜ろうが、カリュブディスが巻き起こす嵐と渦潮の前では無力な物だ。それはセイレーンに限った話ではないが。
――――――ゴォォォオオオオオオッ!
「『『うわぁあああああああぉっ!?』』」
《《ヤバいヤバいヤバいヤバぁ~い!》》
『スップリ~ン!』
と、カリュブディスが大きく息を吸い込み始めた。パラシュートのような足の下にある、カラストンビが今か今かとカチカチ音を鳴らしながら、海水ごとたくあんたちを引き寄せる。あそこにボッシュートしてしまえば、二度と日の目は拝めないであろう。
『【οξυγόνο】【ατμός】【ανάφλεξη】!』
たくあんが矢継ぎ早に呪文を唱える。
――――――ゴバァアアアアンッ!
『ブフルヴォァッ!?』
すると、カリュブディスの口元で水蒸気爆発が起こり、吸引が中断された。
「ナイスだ、たくあん! 浮かせてくれ!」
『【πλέω】!』
「だりゃあああああっ!」
そして、怒って触手を振り回すカリュブディスを、ポダルが魔法剣で迎撃していく。あまりにも図太いので切断するには至らないが、高熱により焼き切る事で傷だらけには出来た。
《さっさと走りなさいよ!》
《マジで仕事しろコラァ!》
『スププププププププッ!』
その隙にスプリガンは体勢を立て直し、陸を目指してグングン進む。
『フォアアアアアッ!』
と、触手まで傷物にされたカリュブディスが、憤怒で頭から蒸気を上げながら、猛烈な息を吐き出した。逆巻くブレスはあっという間に無数の竜巻となり、海上を蹂躙する。
しかも、スプリガンが必死に竜巻や荒波を乗り切ったと見るや否や、今度はハリケーンを横倒しにしたような、とんでもない溜め息を吐いてきた。
『あんなの食らったら終わりですよ~!』
『【πυροτέχνημα】!』
それに対して、たくあんは今まで聞いた事の無い呪文を唱える。
『プ、プリ~ン!?』
《《スプリガンが飛んだ!?》》
すると、スプリガンの舵に空気が圧縮しながら集まり、やがて爆発、その反動でミサイルの如く空を飛んだ。
「|πυροτέχνημα《ピロテーフニマ》」とは「打ち上げ花火」の事。文字通り対象を花火の如く打ち上げているだけなので、短時間かつ制御が効かないのが難点だが、背に腹は代えられない。カリュブディスの竜巻旋風ブレスを抜け出すには、ミサイルになるしかなかったのである。
『【σωρειτομελανίας】!』
さらに、雲の近くまで行ったのを利用して、たくあんが一部を操作、積乱雲を生み出し、
『【κεραυνός】!』
『フルヴォォォンン!? ブヴォルァアアアッ!』
稲妻を発生させ、カリュブディスの右目に直撃させた。流石の生ける空中要塞も堪らず逃げ出し、天候も回復する。
《《ぶ、ぶつかるぅうううううっ!》》
『……スップリィイイイイン!』
だが、一度発射されたミサイルは止まらず、一行は目指していた陸地の手前にある島に激突した。スプリガンがプリンに戻り、衝撃を殆ど吸収してくれたおかげで事無きを得たものの、
『ぱたんきゅ~……』
「『た、たくぁあああああん!』」
敵の生み出した物を利用したとは言え、天候に影響を与える魔法は多大な負担となり、たくあんは完全に昏睡してしまった。一体どうなってしまうんだ、たくあん!?
◆カリュブディス
英雄「オデュッセウス」の冒険譚「オデュッセイア」に登場する海の魔物。一日に三度波を吸い込んでは吐き出し、巨大な渦潮を幾つも生み出すと言われている。元は大海神「ポセイドン」と大地の女神「ガイア」の娘であり容姿端麗の美人という才色兼備の女神だったのだが、その見た目に反してカ○ゴンも絶句する程の悪食かつ大喰らいで、ある時「ゼウス」の可愛がっていた聖なる牛を盗み食いしてしまい、罰として怪物に変えられてしまったらしい。その後はメッシーナ海峡を根城に船乗りを船ごと平らげる、クラーケンみたいな悪行を繰り返すようになってしまった。
正体は馬鹿デカい頭足類。普段は海底に潜んでいるが、体内に溜め込んだ腐敗ガスで一気に急浮上し、更には宙に浮かんで、変わらない吸引力によって何もかも呑み干してしまう。背中に生えた鉱石や体内に溜まった腐敗ガスは、全て食い殺した獲物を由来としている。




