森の終わり
ようやく一息……?
《さぁさ、こっちですよ~》
《迷いたくなければ、しっかり付いてきて下さいね~》
暫しの休憩後、たくあん一行は森を抜け出す為、さっさと歩き出した。ピグミーの棲み処と違い地面が乾燥しているので少しは進み易いが、足元にはミルメコレオが無数に蟻地獄を掘っくり返している為、油断せずに行こう。
『【αιώρηση】【πλέω】』
「いや~、有難いね」
『というか世話になりっぱなしでは?』
「喧しいでございますわよ?」
と言うか、普通にたくあんに浮かせて貰って進むのが一番安全だ。むろん、戦闘面になればポダルが大活躍するので、お互いにwin-winではある。
「くっそ~、高が森を抜けるだけなのに、何でこんなにも足止めを食らうんだ!」
ミルメコレオ、キマイラ、グリフォン、アスラ神族。この森は本当に邪魔者ばっかりである。
「……つーか、何でアスラ神族が私たちを襲ってきた訳?」
《貴女方というより、我々を狙った感じですね。ゾロアスター派の残党がテロリズムに走ってるんですよ。“裏切者”を狩る為にね》
《我々の祖先たるピュグマイオイは元々向こう側の勢力。ディーヴァ神族に組みしたピグミーが売国奴に見えるんでしょ》
『どうきょうのてろりすとにねらわれてるんだって』
「そういう事は早く言って欲しかったなぁ……」
要するに、先祖の因縁に端を発する内輪揉めに巻き込まれた、という事らしい。
《まぁまぁ、流石にアスラ神族と言えど、あんな高所から高速で墜落すれば死にますよ》
《それにしても、本当に役に立ちませんでしたねぇ、スプリガン。共生関係を結んでるんだから、もうちょっと活躍して欲しかったですよ!》
そんなの知った事じゃねぇとばかりに、ピグミーたちが不満を漏らす。確かに、あのスプリガンは見せ場が殆ど無かった気がする。と言うより、何処へ行ってしまったんだろうか?
一応、撃墜はされていなかった筈だが――――――、
『ギュルァアアアアアァッ!』
《あ、噂をすれば何とやら!》
《今更なんだよ、早く来い!》
文句を言っていたら、ワイバーンに変身したスプリガンが現れ、こちらに向かってくる。
『ギャルォオオオォッ!』
《!《ち、違ったぁっ!?》》
「『『ダメじゃん!』』」
と思いきや、本物のワイバーンだった。有隣目から派生した“第二の翼竜”とでも言うべき存在で、蝙蝠のような複数の指で皮膜を繋げた翼を持っており、過去の翼竜よりも高い飛行能力を有している他、変温から恒温への半化によって二次的に獲得した廃熱気管を利用した、火球攻撃を可能としている。まさしくドラゴン擬きの生物だ。
というかこの森、ワイバーンも巣食っているのか……。
「――――――ったく、道理でスプリガンがワイバーンに変身出来ると思ったよ!」
『外来種が居過ぎでしょ、この森!』
『わきゃ~! おたすけぇ~!』
ワイバーンの襲撃に際し、戦闘態勢に入るポダルたち。
「嵌まったぁ!」
『馬鹿でしょ!?』
「喧しいーっ!」
そして、またしてもポダルはミルメコレオの蟻地獄を踏み抜いた。いい加減に学習しろ。
……否、逆に考えるんだ。嵌まっちゃっても良いや、ってね。蟻地獄に掛ったという事は、落ち切る前に脱出すれば、誘い出されたミルメコレオをワイバーンにぶつけられる。生贄となれ、ポンコツ!
『【πλέω】』
「たくあん、あんたまさか……あああああっ!?」
『ギカァアアヴォッ!』
『ギュルァッ!?』
たくあんとポダルの見事な連携によってミルメコレオが姿を現し、予測通り一番デカくて美味しそうなワイバーンへ襲い掛かった。後は若い二匹に任せるとしよう。
「『『アラホラサッサ~♪』』」
《!《いや、それ悪役の台詞……》》
馬鹿みたいに争うモンスターたちを尻目に、コソコソと逃げるたくあんたち。こんな脳筋連中、相手にしてられない。
『ギュル……プリ~ン!』
《こ、今度こそ本物だ!》
《この馬鹿野郎ぉーっ!》
『ス、スップリ~ンッ!?』
その後、暫く進んでいると本物のスプリガンが現れたのだが、当然ながら理不尽な罵声を浴びる破目になった。可哀想に……。
「しかも、森を抜けられましたが……」
《!《このダボがぁーっ!》》
『プリプリ~!?』
さらに、合流してから割と直ぐに森を抜けられた為、更なる罵倒を食らう事と相成った。諸行無常なり。
『あんまりせめないであげてぇ~』
『プリ~ン♪』
優しいたくあんが甘やかすと、スプリガンはすっかり彼女に懐いてしまった。分かり易い奴である。
「――――――喧嘩はそれぐらいにしときなよ。森を抜けたからって終わりじゃないからね」
すると、ポダルが皆を宥め、前を見るよう促した。眼前に広がるは、蒼い大海原。水平線の向こうには小さな島があり、その後ろに薄っすらとだが陸地らしき物が見える。
そう、たくあんたちが居た場所は、単なる離島に過ぎなかったのだ。世界は広く、本土が遠い……。
「距離はそこまでじゃないけど、岩礁が多い上に、「セイレーン」の棲み処にもなっている。油断してると、簡単に持って行かれるよ」
『それ自分に言ってる?』
「お黙りやがりなさい!」
ポダルとラゴスはすっかり仲良しこよしだった。
『「せいれーん」ってなに?』
「岩礁を棲み処にする、鳥と人魚が混じり合った姿をした怪物さ。海の「ハーピィ」族とでも言えば良いかな? 歌声で人を惑わし、船を沈めて食っちまうんだと」
『こわ~い』
「……あんたと話してると力が抜けるなぁ」
可愛い証拠である。
《さぁ、今度こそ役に立って下さいよ!》
《さっさと船になりなさい!》
『プリリ~ン!』
帆船風のクルーザーに変身するスプリガン。今回は彼に乗って行くらしい。
《出航ですよーっ!》
『れっつだごぉ~♪』
そして、本土を目指すたくあんたちの船旅が始まる。どうなる事やら……。
◆ワイバーン
ドラゴンの一種で、前足が翼になっている翼竜タイプの魔物。一般的にドラゴンよりもランクが低く扱われがち。そもそも伝承や神話から生まれた存在では無く、英国の王室がドラゴンを紋章にしていた為、それに対抗(というか嫉妬)して騎士たちが生み出した紋章が発祥となっている。
正体は有隣目の一部から派生した、“第二の翼竜”。化石生物の翼竜と違い、翼が蝙蝠に近い形になっており、滑空ではなく明確な飛翔を可能としている。空へ進出した関係上、変温動物から恒温動物に変化し、蓄積した熱を老廃物と共に「火球」として排出する能力を二次的に獲得した。




