恐れ見よ、猛き神々の死兆星
戦争に必要なのは大義名分という名の難癖。
――――――ズダダダダダダダダッ!
コウノトリ艦隊が、一斉に機銃を掃射する。岩より硬い木の実を弾丸にしており、当たればモンスターの甲殻すら貫く威力を持つ。
……もちろん、当たればの話だが。
『ギャヴォオオオス!』
「F-22」もビックリな機動力を誇るグリフォンには掠りもせず、逆に晒してしまった腹側を下から撃ち抜かれ、もう一羽のコウノトリが撃墜された。完璧に頭数を覆す程の実力差がある。このままでは確実に全滅するだろう。
『スップリーン! ……ギュァアアアアッ!』
すると、別の船に乗っていたスプリガンがワイバーンに変身して、グリフォン及び乗り手のアスラ神族の邀撃に出る。「変身出来るなら同じ物に化けろよ」と言いたくなるが、スプリガンはあくまで粘土細工の要領で外見を似せているだけなので、内部の複雑過ぎる機構や、完全に初見の物はコピー出来ない。
しかし、簡単な魔法の類は使えるし、ワイバーンも充分に素早い為、選択肢としては悪くないだろう。相手がグリフォンでなければ。
『キェエエエン!』
『………………!』
《クソッ、二番艦も殺られた! スプリガンは何をしてるんだ!?》
ワイバーンの執拗な追撃に晒されながらも、グリフォンがまた一羽コウノトリを爆殺した。やはり羽ばたきとジェット噴射では機動力に差があり過ぎる。
だが、何時までも負けてばかりのワイバーンではない。火炎魔法で火球を生み出し連続で放つ。本物さながらのフャイヤーボールだ。これにはグリフォンも回避に徹せざるを得ない――――――、
『……ギャヴォオオオオス!』
と思いきや、多少の被弾を覚悟した、かなり無理な機動を取ってまで、艦隊への攻撃を仕掛けてきた。余程の恨みがあるのだろう。アスラ神族の銃口が、たくあんたちの乗るコウノトリを正面からロックオンする。
『だめ~! 【|ψευδαισθήσεις《プセヴデスシシス》】!』
『キェアッ!?』『何ッ!?』
しかし、撃たれる直前にたくあんが発動した幻覚魔法によって、恐ろしい化け物が襲い掛かるイメージを脳裏に叩き付けられ、アスラ神族は思わず体勢を崩し、攻撃を中断した。目の良さと、狙い過ぎたのが仇となった。
――――――ドン! ドォン! ドギャアアアン!
『ギャヴォォォォ……!』『くっ……!』
そして、怯んだ隙をワイバーンに突かれ、火球の三連弾がグリフォンの弱点である胸部にクリーンヒット。熱機関が暴走し、爆発・炎上する。
これでグリフォンの死亡とアスラ神族の墜落は確定した訳だが、彼らの往生際は悪かった。
『道連れだ!』
『キェアヴォオオオッ!』
アスラ神族の指示でグリフォンが両翼の矛を前方へ向け、身体が燃え上がる程の吸引とエネルギーの圧縮を行い、タイミング良く放出、野太い熱光線として発射した。この不意打ちによってたくあんたちの乗るコウノトリは胸を撃ち抜かれて死亡し、アスラ神族たちも反動で一気に落下速度を上げて森の中へ消えて行った。
「くっ、落ちるぞ!」
『うそ~ん!』
『うわぁああああ!?』
これはもう、さっさと脱出して、浮遊魔法で減速しつつ森へ不時着するしかない。
「残っているのは!?」
《我々だけですぅ!》
《他は流れ弾で殺られました~!》
『……ぼくらだけだって』
「そうか……」
『たくあん……』
メンバーはたくあん、ポダル、ラゴス、それから盗人ピグミー二人組のみ。この頭数なら範囲漏れは無さそうである。
「籠は私が破壊する! それを合図に脱出するぞ! よーい……だりゃああああっ!」
ポダルの爆裂パンチで籠に風穴が空き、一行は急いで脱出した。同時にたくあんが浮遊魔法を唱え、ある程度の減速を行い、森の中へ緊急着陸する。その際、たくあんにダメージが行かないようポダルがギュッと抱き締めたのだが、だからどうした。
《うへぇ~、大分進みはしたけど、森を抜けきれなかったか~》
《こりゃあ厄介な事になっちゃったなぁ~。スプリガンの役立たずめ~!》
不時着位置は、大体森の東側。出口には近いが、乗り越える事は出来なかった。
『みんな、しんじゃったのぉ~?』
「……ああ」
『そっかぁ……ぬぅ~ん……』
とりあえず一段落付いた所で、たくあんが目に見えてしょんぼりする。異世界の厳しさを目の当たりにした事がショックだったのだろう。
だが、あれだけの戦場では生き延びられただけでも充分だ。それ以上など贅沢でしかない。
「あんたは良くやったよ。頑張った。……だから、気に病むな。それは私も同じだから」
『そうだよ、たくあん。アスラ神族とグリフォンを相手に、よく生き延びれたよ』
『みんなぁ~』
まぁ、それをたくあんに言っても仕方ないで、ポダルは優しく頭を撫で、ラゴスは頬擦りした。たくあんは泣きたくなったが、涙腺とかは無いので気分だけ味わっておく。
《何か僕ら、お邪魔虫みたいだねぇ~》
《どっちかって言うと雑草じゃない?》
《もっと嫌だよ、その表現》
ピグミーたちが、ちょっとだけ疎外感を抱いていたのは内緒。
◆グリフォン
ペルシャ神話やギリシャ神話に登場する、上半身が猛禽類で下半身が猛獣という幻獣。生息域により特徴や名前が異なるが、概ね鳥と獣の合成生物である事に変わりはない。高い知性を持つが非常に獰猛で、光物に目が無いという、まるで鴉みたいな習性を持つ。好物は馬肉。神々や英雄の馬車馬として扱き使われる伝承が多いものの、懐かせるには相応の実力が必要である。
正体はスズメガ科の蛾。進化の過程で内骨格や肺を獲得しており、それまでの気門は鳥類でいう気嚢のような物に変化し、高い酸素変換能力を持つ。背中の翼は前足と翅が融合した物で、気門から繋がる気管によりジェットエンジンのようになっており、変形して攻撃に使う事も出来る。




