6話 緑の王子と赤の魔王
煉獄国ファイアルビィは大鬼族や赤子鬼族そして自我を持ったサラマンダーが人化した赤竜人がいてプラティーナ、ブラックフェザーと肩を並べる軍事国家です。ルージュルファーとノワルサタンは互いにライバル同士でありずっと軍事力の高さを競って来ました。
「ニックじゃん、傲慢の赤が私たちに何の用?」
『傲慢だったのはもう随分昔だよ、今は傲慢の赤は称号に過ぎねーな。用っていうのは他でもない俺もエメラルシアと国交を結びたいんだよ』
「えーーー!」
イエロッタとアクーアはびっくりしています。それもそのはずイエロッタとアクーアは今までヴォルガニックに良い印象を持っていなかったからです。
「なんで!?あんた、今まで他の国と付き合うなんて嫌だって言ってたのに!」
『確かに、前までの俺なら馴れ合いなんて考えもしなかっただろうな。ただ単に精霊龍が守護するエメラルシアに擦り寄ってるだけじゃねぇ。俺はグリンに命を救ってくれた恩があるんだよ。」
「命を救ってくれた恩?」
イエロッタは疑問に思っているとヴォルガニックはある話をし始めました。それは、グリンとヴォルガニックが初めて出会った日のことです。
10年前、5歳だったグリンは母であるリーフリアと共に旅行先としてファイアルビィを訪れました。ですが父のリフリオの愚行を知っているファイアルビィは2人が訪れたことを快く思っていませんでした。ましてヴォルガニックはきつい目をしていた程です。しかし滞在2日目にファイアルビィで大変な事が起きました。ファイアルビィの近くの森で「魔石獣」が現れたと言うのです。魔石獣とは森などにいる魔獣が魔物の命の根源「ダークジュエルギー」と魔法の力の根源「エレメント」を無意識のうちに取り込んでしまい突然変異を起こして生まれる危険な生物です。「エレメント」を注ぎ込んで作った「魔導石」を色んな有機物や無機物に埋め込んで生み出す魔導兵器の「ゴーレム」とは違い魔石獣はエレメントがダークジュエルギーによって石になった「魔石」がコアになります。しかも魔石獣はゴーレムとは違い「創造者」がいなく魔獣としての意識があるので周囲に甚大な被害出すくらい暴れ回るのです。エレメントには種類があり「火」、「水」、「自然」、「光」、「命」の5つです。ファイアルビィの周囲は火のエレメントが多いので「赤蟻獣」や「赤竜」などの火の力を持つ魔獣が多く今回は赤蟻獣の魔石獣「炎蟻獣」です。
「くそ、なんてパワーだ。魔石獣がこんなに強いなんて。」
火のエレメントを大量に取り込んでしまっているせいで火の力が強まっていてさすがのヴォルガニックも太刀打ち出来ません。
〈俺はこんな所で死んでしまうのか?俺が死んだら国は、民はどうなる?俺は国を守れないのか!?〉
ヴォルガニックが心の中でそう思ったその時、緑の光線が炎蟻獣に直撃しました。炎蟻獣はよろけて倒れてしまいました。
「今の攻撃は?」
「何とか間に合った!」
声の方を見るとグリンが立っていました。今の攻撃はグリンだったのです。
「お前!何でここに!」
「大丈夫!?ひどい怪我!すぐに助ける!」
そう言うとグリンは倒れているヴォルガニックやファイアルビィの兵士達に向かって手を伸ばすと。
「ヒールウェーブ!」
広範囲回復魔法を使いました。するとヴォルガニックや兵士達の傷が一瞬で塞がってしまいました。
〈嘘だろ!上級広範囲回復魔法って!しかも深かった傷がまるで何もなかったかの如く完全に塞がってる!〉
範囲回復魔法は広い範囲に使うと範囲が遠くなるにつれて魔法の効力が薄くなりますがグリンの場合、広範囲でも効力はそのままなのです。倒れていた炎蟻獣は立ち上がるとグリンに向かって突進して来ました。
「未来の友達になんて事するんだ!絶対許さない!」
グリンは怒った声でそう言うと詠唱破棄で浮遊魔法を起動させると炎蟻獣に向かって行きました。
〈未来の友達、あいつ俺の事そう思って・・、〉
ヴォルガニックは心の中でグリンの事を敬う様になっていました。
グリンは炎蟻獣の前に立つと炎蟻獣は炎を出して攻撃して来ました。グリンはそれをかわすと無数の緑色のエネルギー弾を出しました。
「グリーンバレット!」
無数のエネルギー弾は炎蟻獣に何発も当たりますが炎蟻獣は倒れません。
〈どうすれば、このまま炎を撃たれ続けられたら後ろにいるニック達に当たってしまう〉
グリンは悩んでいると後ろからヴォルガニックが声を上げます。
「グリン!頭の魔石を狙え!コアの魔石を壊せば魔石獣は消える!」
ヴォルガニックに言われてそういう事かという様に頷くと炎蟻獣に向き直ると緑色の光の弓を生み出すと
「グリーンアロー!」
緑色の光の矢を放ちました。グリンが放った光の矢は見事コアの魔石に命中しました。光の矢が当たった魔石は壊れ炎蟻獣は赤い光となって消えてしまいました。
「グリン、お前すげーよ!あんなに強かった魔石獣を倒しちまうなんてなぁ!」
「ニックが心配になって来てみたの。やっぱり来て正解だったよ!」
「なぁ、グリンのその力、並大抵の物じゃない、ヴェールフェゴールは確かこの世界で唯一命のエレメントを使えるけど今までの緑の魔王でもこんなに力が出るやついなかった。お前の力、もしかしたら精霊龍に姿を変えた初代緑の魔王のリフリアナを超えるかもしれないぞ。」
「えっ!まさかそんな」
「なぁ、お前さっき俺の事未来の友達って言ったよな?」
「うん、君が何だか寂しそうだったから」
「なっ!何で俺の心が分かるんだよ!」
「顔を見れば分かるよ」
「マジか、そうだよ。俺、自分で傲慢になったのになりきれなかった。俺やっぱり誰かに支えてもらわなきゃダメだったんだなって思った」
ルージュルファーが傲慢の赤と言われる様になった理由、それは人間への憎しみだった。人間に復讐する為に傲慢な態度で力で国民に軍事力開発を強制していたのだ。
「グリン、俺もう一度人間と仲良くしたい。お前なら俺を変えてくれるかもしれない。お前の友達にならせてくれないか?」
「うん!僕、君に笑顔になって欲しい!それに昔の事で人間と魔物の間に溝があるなんて嫌だもん」
「そうだな。あっそうだ、助けてくれてありがとよ!」
『って言うことがあったんだよ』
と昔の話を聞かせると
「へぇー、そんな事があったんだ。」
『だから、俺だってグリンに協力したいんだ!』
「まぁそんなこと言われたら嬉しくなっちゃうよね」
『それに、グリンの国は他に比べて軍事力が小さいんだからなぁ。もし他の国から攻められたら一発で制圧されるよ。まぁ理由はそれだけじゃないけどな』
「まぁ、それだったら私たちに文句はないよ。グリンは?」
「僕も大歓迎だよ!」
『あっはっは!そりゃよかった。じゃあノワルサタンとも国交結ぶんだな?』
「うん、ニックが話をつけてくれるの?」
『いや、あいつグリンが魔王になったら一番乗りで国交を結ぼうとしてやがった。まぁ話はつけとくさ』
「ありがとう!」
こうしてエメラルシアはファイアルビィと国交を結びました。
『なぁ、グリン。そういや聞いたぜ』
「何を?」
『フロン・セレスティアルから亡命して来た人間を受け入れてるって』
グリンはその話を振られてここに来る前の事を話しました。