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第五転

謎の真っ白空間で、姉は悲劇のヒロインぶって泣き喚いていた。


もうホントあいつ無理。死ね。

たぶん死んだからここにいるんだろうけど、もう一度死ね。何度でも死ね。


……なんて生前に言っておくべきだったよなぁと後悔してももう遅い。

どうせ本人の前じゃなんも言えないチキンですよ私は。



兄とは昔よく一緒にアニメとか観てたし、

おそらく一番仲が良かったのは私のはずだ。

アニメ禁止になった後は私が漫画に内容まとめて、

それを毎回楽しみにしてくれてたっけ。


あん時ゃ棒人間しか描けなかったけど、

今はもっと上手く描けるよ。

もう見せられないのが残念で仕方ない。



弟は相変わらずクールだった。

姉とタクシー呼ぶ呼ばないで揉めてた時、

私がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかったよね。

……って言ったら「気にすんな」ってさあ。


もう本当に弟には頭が上がらない。

本当にごめん。勝手にBL本作成の参考資料にしてごめん。



せめて妹だけでも生き残ってもらいたかったけど、

こうなったらもうしょうがない。

私が知る限りの転生モノ知識を叩き込んで……って、

うちの妹は一度泣き出したら長いんだよなぁ……。



そんなこんなで家族の様子を観察していると、

魂の番人が急に異世界への転送を開始しやがった。

どうも姉を私たちの代表として認識し、

彼女の意見を優先したようだ。


どうやら同じ世界へ送られるということなので

待ち合わせ方法とか色々決めたかったのに、あの女……。






姉、兄、弟、妹の転生を見届け、私は待った。


次は私の番だ。


……。


私の番のはずだ。


…………。


「おい」


私は魂の番人に話しかけた。

しかし()()は私のことなど眼中に無いようで、何も反応しなかった。


「私の番まだですかねー!?

 そんなにタメなくていいから、

 さっさと送っちゃあくれませんかねー!?」


しかし無反応。


「もうホント、鑑定とか地味なスキルでいいんで

 転生特典とか悩まなくていいですよー!?」


打算だ。

転生モノで“鑑定”は、実は強いやつだ。


『──ますか?』


「んっ?」


『聞こえますか?』


「あ、聞こえます聞こえます」


どうやら無視していたわけではないようだ。

これが兄から聞いた“意識に直接語りかけてくる感覚”か。

テレパシーってやつだよなぁ。

エッチな妄想とかしたら相手にも伝わってしまうのだろうか。


『はい、伝わってしまいます』


うわ、やっべえ。

考えるな考えるな……って思うほど湧いてくるビジョン!

しかも今まで考えつかなかった斬新なシチュエーション!


『それはさておき、あなたには転生の資格がありません』


「……えっ?」


『結論から言いますと、あなたはまだ生きてます

 重傷を負ってはいますが、峠は越しました

 つい百年前なら助からないレベルの大怪我でしたが、

 現代医療の進歩ってすごいですね』


「やっ……えっ、待って!?

 崖下に真っ逆さまだよ!?

 しかも爆発したんだよ!?

 百年後だって助からないと思うけど!?」


『その光景を()()()()のでしょう?

 理由は知りませんが、あなたは車の外にいたようです』


「なんで私だけ外に…………あっ」


私は妹を危険な席に座らせまいと場所を交換した。

シートベルトが壊れていたからだ。


ガードレールにぶつかった衝撃で私は車外に放り出された。

私も崖下へと転落したが、爆発には巻き込まれなかった。


そんな奇跡は妹か弟にくれてやりたかった。

兄も善人だが、まあ歳上だし我慢してくれ。


『いずれにせよ、せっかく生き残ったのですから

 亡くなったご家族の分まで生きてみてはいかかでしょう?

 くれぐれも後追い自殺など考えないようにしてください

 その場合は“非業の死”ではなくなりますので、

 生き直す機会を与えることはできません』


私からすれば姉も自殺したようなものだが、

どうやらこの上位存在の基準では違うようだ。

本人に死にたい願望があったかどうかが関わるのかもしれない。

そこらへんを聞いてみたかったが、時間切れになってしまった。






事故から一ヶ月後、私は病院のベッドから動けない状態だった。


よその親がどうかは知らないが、

うちの親はだいぶ頭がおかしい。


「どうしてあんなに良い子が死んでこんな……

 なんの取り柄も無い奴が生き残ったんだ……!」


父の言う“良い子”とは、邪悪な姉のことだ。


「あの子の代わりにあんたが死ねばよかったのに……!」


母も狂っている。

両親揃ってこんなだから嫌になる。

毎日毎日、警備員に追い出されて懲りない連中だ。


奴らの認識では“長女とそれ以外”が私たちであり、

全てが完璧な長女は容姿端麗で頭脳明晰、

インターネットができて、音楽の才能があって、

ランドセルを傷付けられても泣かない偉い子らしい。


心底気持ち悪い。


こんな奴らの結婚記念日を祝うために姉の車に乗せられ、

大事な家族が巻き添えで死んだのかと思うと虚しくなる。


本当になんで私なんかが生き残ってしまったのだろう。

あの時、座席を交換しなければ妹は死ななかったはずだ。

もし過去に戻れるなら自分も姉もぶっ飛ばしてやりたい。


警察の調査で、姉の危険運転が引き起こした事故という

真実が確定しているのだが、姉信者の両親は受け入れず、

生き残った私に罪を被せようとして弁護士を探している。


反吐が出る。






もしあの謎の真っ白空間が幻ではなかったとしたら、

今頃みんなは異世界でチート無双とかしているのだろうか。

今までその手の作品の主人公は好きじゃなかったけど、

うちの家族は特別であってほしいよ。


もちろん姉以外ね。











謎の空間にて、4人の子供たちが目を覚ました。


「あなたは神様ですか……?」


『いいえ、私は魂の番人

 若くして非業の死を遂げた者たちの魂を管理する者です

 ……ダイアナ、よく最期まで耐えましたね

 さぞかし怖かったでしょう もう泣いてもいいのですよ』


そう言われ、ダイアナはたまらず大声で泣き叫んだ。


「お、おい大丈夫かよ……

 何があったんだお前……」


『……マイルス、あなたもよく頑張りました

 あなたはもう孤独ではありません 私がそうはさせません』


言われた意味はわからないが、マイルスはなぜだか少し安心した。


「僕たちはこれからどうなるんですか……?」


『……ネイサン、心配する必要はありません

 あなたたちはこれから平和な世界で生き直せることになりました

 全く安全というわけでもないのですが、少なくとも魔物は存在しません』


それを聞いてネイサンは少しがっかりしたが、

キノコ1匹に殺されたことを思い出して気持ちを入れ替えた。


「元の世界で生き返ることはできないのですか?

 わたくしは家の者や学友の方々が心配です……」


『……アニエス、それはできません

 もしできたとしても、あなたは生き返らない方がいいでしょう』


魂の番人はそれ以降アニエスの質問には答えなかった。




『──さて、あなたたちはこれからある夫婦の子として

 新たな生を授かることになります

 ……あなたたちの母親になる女性は今から10年前、

 不慮の事故により家族4人を同時に失いました

 それから精神を病んだりと色々苦労したのですが、

 理解のある伴侶が支えてくれたおかげで立ち直り、

 つい先日、四つ子を身籠ったことが発覚したのです』


「まあ……! それは素敵ですね!」

「僕ん家8人兄弟だけど大変だったよ?」

「理解してる人間と結婚するのって当たり前じゃね?」

「あんたわかってないね〜 これだから男の子って……」


『何はともあれ、裕福で愛情深い両親の元に生まれ変わるのです

 これまでの記憶は失われますが、全く問題ないでしょう

 あなたたちの準備がよければいつでも転送できます

 どうせ忘れますが、確認したいことがあるなら今のうちですよ』


彼らは顔を見合わせ、頷いた。

もう心は決まっていた。


元の世界では生き方も死に方も違ったけれど、

この4人ならきっと新しい世界で仲良くやっていける。

そんな直感があった。


そして、その魂たちは異世界へと転送された──。

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