第一話 Trap on Encounter
いやぁ、流れで書いてしまいましたね第一話。
ぶっちゃけどうにでもなっちゃえって気持ちで書いてるのが半分でした。
自分が楽しければいいや!。
と思って書いてたら本当にあっという間でしたw(これあとがきで書く内容じゃね?)
ってのは自分でも思ってるんですがね......。w
ともあれリグレッション第一話!どうぞご堪能ください!!。
第一話 Trap on Encounter
広い道路を歩き始めて一時間ほどが経過しようとしていた。
幸運な事にここまでの道のりで徘徊者、ワンダラーと鉢合わせることは一度もなかった。
順調に歩みを進めることができたため街まではおよそあと20分ほどというところだ。
俺は正直、ここまで順調に来られたことが逆に不気味に思えたが、やはりいつ襲われてもおかしくないという恐怖のほうが勝ったため、引き続き警戒心を強め、そんな思いを頭の隅に追いやった。
街に近づくにつれ、放置されている車やバイクなどの数が目に見えて増えてきている。
それは、当時逃げようとした人々が渋滞になってしまい、少しでも早く逃げるために乗り物を捨ててでも走って逃げたのであろうことが如実にうかがえる。
それほどの大事件。
いや、事件で済むほどの問題じゃない事が起こっていたのだろう。
当時居合わせた人達はどんな心境だったのだろうか、恐怖、不安、心配、それよりもまず襲ってきたのは何故こんな事になっているのだろうという疑問だろう。
そんな想像が頭を過りながら俺は車と車の間を縫うように隙間を見つけて抜けてゆく。
そのまましばらく進むと先のほうで朽ち果てた車の陰を何かが横切った。
俺は咄嗟に姿勢を低くしゆっくりと横切ったモノを確認するために車の陰伝いに近づいた。
車の窓越しに覗くとそこには若干のスペースが空いた車と車の間で右往左往としている6体のワンダラーがいた。
6体のワンダラーはどいつも村を出て最初に見つけたヤツと同様の姿をしており、低く呻き声を上げながらその場をウロウロしている。
俺はまたも足がすくむような感覚に陥るがなんとか頭を冷静に保ち何か利用できる物はないかと辺りを見渡し考えた。
すると視界に他の車よりも劣化や風化が比較的進んでいない車両を見つけた。
どうやら荷物を運ぶために使われていたトラックのようだ。
辺りの一般的な車両と比べてもランプなどの特徴から年式が古いのが窺える。
物音を立てないようにその車に近づき、ドアレバーに指をかけゆっくりと引くとやはり鍵はロックされていなかった。
自分の命がかかっている状況で、急いで逃げなきゃいけないのに律義にロックをする人などまぁいるはずもない。
ゆっくりとドアを開け車内を見渡すとほこりや塵で一面が白みがかっていた。
何か使える物はないかと助手席のグローブボックスを開けると中に幅の細いロープが入っていた。
「ついてるな。」
俺はそのロープを取り出すと、車のハンドルに何重にも巻き付けそのまま車外に出て、およそ安全だろうと思われる距離までロープを伸ばしながら離れた。
あとは鳴ってくれることを祈るのみ。
俺は目を閉じ一呼吸してからロープをめいっぱいの力で引っ張った。
プァーーッ!!。
耳を劈きそうな甲高い音が車から発せられた。
予想通り、あの年式ならクラクションは電気ではなく空気の力で音が鳴る。
俺は急いで中腰になりワンダラー達の居た方に眼を向けた。
予想通りにワンダラー達はバタバタとその身を辺りの車にぶつけながらバタバタとクラクションの鳴った車の方へと走って来ていた。
ワンダラー達はすぐにその車を取り囲み車体にかじりついたりバンバンと叩いたりと野蛮な動きで車を滅多打ちにし始めた。
「(よし。)」
俺は心の中でガッツポーズをしていそいそとその場から迂回しつつ進むべき方向に足を動かした。
必死に足を回転させ車をバンバンと叩く音が聞こえなくなる距離まで来ると少し先にはもう街の入口が見えていた。
俺はひとまずだが胸を撫で下ろした。
だが本当に危険なのはここからだ。
街には数えきれないほどのワンダラーがいるし、ましてや物資を漁るとなると視界の悪い中何かにぶつかりうっかり大きな音を立ててしまうことだって考えられる。
そうなればおそらく助かる道はないだろう。
そして何より危険なのは自分と同じ生存者で物資を求めてやってきた者やおそらくいないとは思うが街の中で防衛網を敷いている者、物資を求めてやってきた人間から略奪を目的とする賊などの人間だ。
今までこの街で出くわしたことなどないが念のためそういう者にも気を付けなくてはならない。
俺は今まで以上に気を引き締めて街への入口へと向かった。
街の入口に着き網状に貼られたバリケードの外から一度足を止め周囲を見回す。
街は前に来た時となんら変わりない様子で全体が寂びれており、何かのお店だったであろう建物の看板は剥がれかけ、今は無き活気を賑わせていたはずのショッピングモールは外壁が崩れ落ちていた。
奥に見える高いビルの窓は全て割れていて人が住めるような環境ではないことが一目でわかる。
もちろんワンダラーの姿もちらほらと見られる。
ひとしきり見回し覚悟を決め俺は以前侵入するために開けた人一人が這えば通れるくらいのバリケードの穴をくぐり街の中に入った。
この辺りの建物は何度か前に来た時にあらかた調べたため今回は少し離れたところまで調べにいかなければならない。
わかっていたことだがいつ来ても本当に心が滅入りそうになる。
俺はひとまず視界に写っている奴らを避けるために、人気の無い左手側のバリケード沿いに移動することにした。
こっちのほうはどうやら奴らの姿は見えない。
慎重に歩みを進めて3ブロックほど過ぎたところで大きなドラッグストアを発見した。
外観はやはりボロボロだが調べてみる価値はありそうだった。
自動ドアの傍までいくと自動ドアは完全に歪み壊れていて容易に中に入ることができた。
足音を立てないように移動し、何か使えそうな物はないか目を凝らす。
商品が置いてあったであろう棚にはいくつか物が残っているがどれも劣化していて使い物にはならなさそうだ。
少し奥のほうに行くと日用品の置いてある棚を見つけた。
まだ使えそうなプラスチック製のコップや皿などがあったためそれをゆっくりリュックにしまってゆく。
日用品売り場を過ぎると食品棚を見つけた。
もうほとんど何もないかと思ったが下の棚の奥のほうにまだいくつか食べられそうな缶詰を見つけた。
「やった。」
思わず喜びを声に出してしまった。
「(待てよ、もしかすると......)。」
俺はその缶詰を全てリュックに入れ店の奥へと足を進めた。
スタッフ用の入口を通り更に奥へ進む。
「あった。」
そこは店の在庫置き場だった。
そっと扉を押すと扉は簡単に開いた。
中は既に荒らされた形跡があったがやはりわずかに商品が残っていた。
それぞれ物を手にしながら食べられそうなものはリュックにしまってゆく。
「ふぅ。」
ここだけでリュックの半分が埋まってしまった。
予想外の手ごたえに俺は今日は早く帰れるかもしれないという期待が湧いてきた。
俺は物色をし終えてそのドラッグストアを出た。
ドラッグストアを出て1ブロックほど進むと今度はホームセンターを見つけた。
金物や金属製品は貴重なのでできれば調べていきたいが、駐車場に2体のワンダラーがいるため侵入するにはリスクが高すぎる。
仕方がないので腰のマルチポーチを開ける。
手持ちのルアーは3個、今ここで一つ使えば2つしかなくなってしまう。
数秒悩んだが俺は村のみんなの顔が脳によぎりルアーを一つ取り出した。
スイッチを入れホームセンターの入口よりももっと奥の方に狙いを定める。
ブンッ。
投げたルアーは思っていた通りの弧を描き狙っていた場所に落ちた。
「ピリリッピリリッ。」
着地と同時に地面に落ちたルアーは規則的な音を出しているがその動きはネズミのように不規則にその場を走り回っている。
駐車場の2体のワンダラーを引き付けることに成功し、その隙に俺はなんとか移動しホームセンターに入ることができた。
中は窓もなく明かりも点いていないためかなり薄暗い。
日の光こそは多少あるがそれでもシャッターが下りているため視界は良いとは言えない。
ましてや室内に進入したために発生した塵で少し見づらいまである。
「(こういう時のための......)。」
俺は腕時計の側面に付いているボタンを押した。
すると腕時計からは眩しいほどの光が発せられ、緊急時のライトが点灯した。
前におっちゃんが腕時計に無理やり外付けで付けてくれた機能だ。
おかげで無駄にゴツくなりコード等が飛び出しているが今ではこうして役に立っている。
俺はライトで辺りを照らしながら慎重に歩みを進め中を物色する。
やはりここもかなり荒らされているがいくつか残り物はある。
目につく使えそうな物を手早くリュックに取り込んでいく。
少しずつ店の奥へ進みながら棚を眺めていると店の一番奥の棚にバイク用のフルフェイスヘルメットが置いてあるのを発見した。
どうやら誰も触れていない箱に入ったままの新品未使用の物のようだった。
「やった!。」
中々お目にかかれないお宝を発見して俺は気分が高揚した。
デザインも中々よく俺は一目でそれを気に入ってしまった。
それを腰のベルトに留め具で留めて俺はホームセンターを後にすることにした。
既にリュックの中は一杯になってしまっていたためこれ以上何かを持つことはできなくなってしまった。
ホームセンターを出ると先ほどのワンダラー達はまだルアーに反応してルアーを追いかけているのか、それともルアーに追い掛け回されているのかパっと見ではよくわからない少しシュールな状況になってた。
そのまま隙を狙って移動し閑散としている道路に出た。
まだ昼食も食べていないので少し休みたかった俺は近くの見晴らしがよく安全そうな小さなビルを見つけその外にあるコンクリートでできた非常階段を登り二階の踊り場に腰を降ろした。
「ハアァー......。」
疲れた。
足も少し熱を持っているようでジンジンと脈を打っているのが伝わってくる。
腕時計を見ると午後4時を回ったところだった。
ひとまずしばらく何も物を入れていない胃袋に何か入れようと隣に置いたリュックから適当な缶詰を1個取り出した。
商品名のラベルのところは汚れていて中身がなんなのかはわからなかったがひとまず開けてみることにした。
プルタブを引っ張りフタを取ると魚だかもしくはそれ以外かは分からないがどうやら煮込んだ肉のようだった。
それを缶ごと口につけ流し込むように口の中に運んだ。
「うん、うまい。」
肉自体を食べたのが久々だったのでそれも嬉しかったが、なにより味付けの甘辛いタレが肉のうまさを引き立てていて思わず声が出てしまった。
そして何よりこれは鶏肉!貴重なタンパク源を補給できることに感動と感謝の気持ちが芽生える。
あっという間にそれを流しこんでしまい口直しに水筒の水を飲んだ。
「ふぅ......。」
少し階段によりかかり体重を完全に預け横になると開放的な気分になった。
夕時の少し冷たい風が階段を吹き抜けていき心地が良い。
本当ならこんな風にリラックスできる場所ではないことはわかっている.
だがここまでずっと気を張り詰めていたために一度緩ませるとある程度まで回復させずにはいられなかった。
胃袋が満たされたためにただならぬ睡魔にも襲われた。
「.......。」
意識が途切れそうになるのを何度も防ごうとはしたが俺はその場で完全に寝込んでしまった。
寒い。
「ん?......、!!!。」
ハッとして飛び起きると既に外は真っ暗だった。
時計を確認すると午後の九時を過ぎたところだった。
まずい......早く帰るつもりだったのに。
急いで荷物をまとめてリュックを背負う。
しかし、階段を降り切った時俺は目の前の光景に言葉を、いや、声を失った。
来た時はあまり姿を見せていなかったはずのワンダラーがそこかしこにいる。
ワンダラーは夜に活動する傾向が多いというのは聞いていたがここまでの数は見たことが無かった。
そもそもこんな夜にこんな危険な街の中にいることがありえないので俺は完全にパニックになってしまった。
まずい、完全に囲まれている。
俺は一度今降りてきた階段を後ろ向きで、まるでビデオの逆再生かのように登って戻ることにした。
先ほどの踊り場まで戻り手すりから階下を見下ろすと視界に写っている奴らだけでおそらくざっと二十強。
このまま朝までここで静かに身を潜めるという手段もなくはない。
しかしこんなところで火を起こそうとすれば、その音で奴らに気付かれるためこの時期の夜の寒さを凌ぐ術がない。
なんとかしてこの状況を打破するしかないか。
外の様子を見まわし策を練っていると少し遠いが向かいの元アパートのような建物の窓ガラスが以外にも数枚割れていないことに気づいた。
俺は足元を見てちょうどいい石などがないか探すと少し大きいが剥がれたコンクリート壁の一部が落ちていた。
「(これしかない)。」
俺はそれを拾いよく狙いを定める。
頼む当たってくれ!。
ブンッ。
祈るような思いでそれを踊り場から助走をつけ、勢いよく投げるとコンクリート壁の一部は見事に窓ガラスにヒットした。
ガッシャーン。
大きな音を立てて窓ガラスは粉々に砕け散る。
その音にワンダラー達はすぐさま反応し昼間の時の車同様ドタドタと音の元へと走り出した。
俺は急いで階段を降り元来た道を戻るために小走りで移動した。
しかしドラッグストアの辺りまで戻ってくるとまたしてもワンダラー達が道を塞いでいた。
こちらに反応される前に俺はポーチからルアーを取り出しスイッチをオンにして建物の壁に向かって投げた。
徘徊者ワンダラー達は規則的な音を出し続けるルアーの元へと走っていき道路の半分がなんとか通れるようになった。
道路半分...距離にしておよそ3メートル。
ここまで奴らとの距離が近いと、張り裂けそうに脈打っている心臓の音も聞かれるのではないかとビクビクしながら空いた道をこそこそ移動する。
なんとかバリケードのところまで戻ってくることができた。
しかし今度はバリケードの外に奴らの姿が見える。
『ここまで来ると彼の判断力は完全に鈍っており帰路のための残りのルアーなど気にしている余裕は無かった。
それほどまでに疲労と混乱と恐怖が現状の打破だけを脳が支配していた。』
ブンッ。
最後のルアーを投げバリケードの向こう側にいるワンダラー達を追い払う。
しかし手前の二体はルアーに反応を示さなかった。
「(しまった!焦りで遠くに投げ過ぎた!)。」
ルアーは本来周囲のワンダラーを釘付けにするよう作られているため発生される音はそこまで大きくはない。
やむを得ず音を出さないように來るときに入ってきたバリケードの穴をゆっくりと慎重にくぐる。
ガシャンッ!。
え!?。
俺は焦りと目の前の二体のワンダラーに気を取られて腰につけていたヘルメットの存在を忘れバリケードに引っ掛けぶつけてしまった。
「アアアァァア~~ッ!!。」
目の前のワンダラー達はその音に反応しこちらに向かって走りだしてきた。
俺は急いでバリケードから出しかけていた上半身を中へと引っ込める。
焦りで勢いがついてしまい上半身を戻しきった時尻もちをついてしまった。
二体のワンダラーは声を上げながらバリケードの網をガシャガシャと叩き続けている。
完全に退路を断たれた。
俺はその目の前の絶望に心が折れそうになった。
俺が青ざめているとバリケードを叩く音に反応した街の中のワンダラー達がこちらに走って来ていた。
俺はパニック状態に更に追い打ちをかけられもう完全な意味で冷静な判断が出来なくなっていた。
急いで立ち上がりその場から離れようと猛ダッシュで駆け出した。
しかしそれだけ動けば足音も強まりリュックの中身が揺れ周囲に自身の発する音が巻き散る。
必然的に俺を追うワンダラーも芋づる式に増えもう足を止めることができないことに気づいた。
ルアーもない、逃げ道もない、隠れようにももう手遅れ。
必死に走りながら俺は無意識に村長から借りた胸のホルスターに収まっている銃を抜いていた。
「うわああああぁぁぁぁーーー!!!。」
バンッバンッバンッバンッ。
狙いなどつけず立て続けに四発放ち追って來るワンダラーのうちの二体が崩れ後方から迫るワンダラーの足蹴にされていった。
しかしこの行為に意味など全くない。
むしろ発砲音により追って來るワンダラーの数は当然増えた。
それでも俺は諦められなかった。
俺の脳は、本能は生きたいと訴え続けた。
だから足を動かすしかなかった。
例えこれが自分の人生の最期の瞬間でも。
『彼が涙を流し目を食いしばりながらそう考えた瞬間だった、走馬灯、と呼ぶにはあまりにも生々しいほどの映像を彼は見た。』
『その映像には彼の父が身体中血みどろになり奴らに囲まれながらも、遠い切り立った崖の向こうで彼に笑顔で手を振っている瞬間のほんのわずかな映像だった。』
『しかし現状の彼にはこの映像などもはやなんの役にも立たなかった。』
『なぜなら彼自身が今まさに映像の中の父同様の目に会っているのだから。』
必死に走り続け公園の跡地のような場所に入った。
周りには背の高い木々が鬱蒼と不気味に生えている。
後方からは変わらず奴らのうめきごえと足音が絶え間なく聞こえる。
クソッ!クソッ!クソッ!。
焦燥と、恐怖と、憤怒の心が胸の辺りをグルグルと回りとうとう俺はその感情を声に出し吠えた。
「なんでいつも俺ばっかり!!。」
そう声を張り上げた瞬間だった。
前へと進ませようとする右足の脛辺りに何かがひっかかりわずかな力で押し戻そうとする抵抗を感じた。
その次の瞬間右足は勢いよくワイヤーで巻き取られ俺はそのまま地上から3メートルほどの高さに逆さに吊り上げられた。
「うおあああああぁぁぁぁーー!!。」
トラップ自体の物凄い勢いとパワーに反射的に俺は驚き大声で叫んでしまった。
「トラップ!?まずいなんとかしないと!。」
逆さ吊りの状態で状況を整理しようとした時だった。
「うるさいなぁもぉ。」
トラップを仕掛けた本人のものとおぼしき声が聞こえた。
しかし声のした方を見ても俺の眼には誰も見えなかった。
確かに声は俺のすぐ横辺りから聞こえたんだが......。
ワケが分からずあちこちをグルグルと首を動かして見ていると。
「あぁ、クロークしたままだったっけ。」
声の主がそう言ったので俺は再び声のした方向に首を動かした。
すると声の主の姿が頭頂部から徐々に見え始めすぐに明らかになった。
そこにはゴツくてメカメカしいヘルメットを被り首から下は真っ黒い外套で全身を覆ってる人物が吊り上げられた俺のすぐ隣で太い木の枝に腰かけていた。
俺は驚きのあまり声が出なかったがその姿を見た時、昔村長から聞いた話を思い出した。
世界がこんな風になってしまってすぐ、状況を危険視した国々が莫大な金額を掛け共同で、対徘徊者ワンダラー兼対暴徒用にとあるスーツが作られたと。
結果的にそのスーツを完成させるには数年がかかってしまった。
しかしそのスーツを着る者はまるで忍者のようにあっという間に姿と音を自在に消すことができ、着用者を支える人工筋肉は人間本来とはかけ離れた爆発的なパワーを発揮させることができる、その気になれば国の一つや二つ無かったことにだって......と。
退行し荒廃し行く世界の中で人類が作り上げた進化の象徴。
こればっかりは本当におとぎ話程度にしか思っていなかったが、今実際に目の前で起こった現象......本当に実在したとは。
「(あれ?......でもそのヘルメットどこかで......)。」
「はぁ......ホントツイてないなぁ。」
ヘルメットの人物は肩をすくませ首を横に振りながらそうつぶやいた。
「なぁラター、こんなボウズさっさと落としちまおうぜ。」
今度はヘルメットの相手とは反対側、俺を挟むような位置から機械音声のような喋り声が聞こえた。
驚いて振り向くとそこには全身機械のフクロウのような姿をしたロボットが翼を振り飛んでいた。
あまりの展開と状況に俺はますます混乱した。
「ダメだよ、ちゃんとこれも記録されてるんだから。」
ヘルメットの人物はそう言うと木の下でわんさかと集っているワンダラーを見下ろしピョンッと飛び降りた。
「あぁ~ヤダヤダ、なんで俺様が愚かな人間のエゴに付き合わないといけないんだか。」
俺の隣で飛んでいるフクロウのようなロボットは飽き飽きだという調子で喋っている。
一方俺は本当に何が起きているのかさっぱりでずっと逆さになり混乱した頭で状況を見ているしか出来なかった。
ヘルメットの人物が着地するとワンダラー達は一斉にヘルメットの人物に長く生えた体毛で覆われた生々しい腕を伸ばし襲い掛かった。
刹那、ヘルメットの人物は外套の中からワンダラーとは対照的な鎧のように覆われた両手で銃を抜いた。
何発もの発砲音が鳴り響き、銃口からの光で周囲は激しく明滅する。
数えるのも嫌になるほどのワンダラー達をヘルメットの人物は躊躇うことなく二丁のハンドガンで撃ち殺した。
本当に一瞬の出来事で俺は完全に呆気に取られていた。
銃を外套の中に戻すとヘルメットの人物は今度は大きなナイフを取り出し木の幹に巻き付いているワイヤーに突き刺した。
それは俺の右足に巻き付いているワイヤーに繋がっており、俺はトラップの根元を切られたため今度は重力に引っ張られそのまま地面に落ちた。
「ゲホッゲホッいってぇ。」
背中から落下しモロに身体を地面に打ち付けた俺は衝撃でその場でうずくまることしかできなかった。
ヘルメットの人物はナイフを外套の中にしまい、うずくまって見上げている俺の事を見下すような目つきで見下ろした。
立ち上がり礼を言わなければと思った俺は地面に手をつき立ち上がろうとしたが、度重なる身体の酷使によりうまくコントロールが出来ない。
その時だった、ヘルメットの人物が信じられないことに俺の見たことのない機構で、指一つ動かすことなくヘルメットを外套の中に折り畳み格納した。
それ自体にもこんなテクノジーがあるのかと驚きを隠せなかったが、それ以上に遥かにヘルメットを格納した本人の顔を見たとき、俺はヘルメットを脱いだその人物に対して驚愕し目を離すことが出来なかった。
そこには信じられないことに自分と恐らくそれほど差のない年齢と思える女の子が俺を上から見下ろしていた。
その女の子は肩ほどまでの綺麗な銀色の髪を整えるように首を左右に振ると顔の右半分は髪で隠れてしまったが左半分からのぞくその大きく無機質な瞳で俺を見つめていた。
書いていてやっぱ難しい!。
自分の中で映像化してる作品と読んで頂いている作品じゃあやっぱり全然違うよなぁと思いながら全般的に共通イメージしやすい感じに書いてみました!。
お見苦しいかもしれませんがどうかお楽しみ下さい。w