良くある話。
──淡い黄金を見た。
いつもの君と二人きりの帰り道。
いつもの様にくだらない話をしていた時だった。
いつもは建ち並ぶビルで見えない空が、
一つのビルが立て壊されて見えるようになっていた。
だけれど見えたのは青空などではなく、
暗い雲の群れだった。
君は「……ん、珍しい」
そんな事を呟いていた。
たしかに珍しいけれど、
全然見ないという程ではなかった。
……筈だ。
私は「……さて、問題。ででん。あの雲の名前は?」
いつもの調子で奇襲をかける。
常套句だ。
「さぁ?」いつもの様に君も返す。
本当に…いつもと変わらない。
だからかちょっとだけ変わった事がしたくなった。
足を止めて「問題。じゃらん。自分は自分を好き?」
そう問うた。
「さぁ?」と口元も動かさず肩をすくめる君。
君をじっと見つめ只々真意を覗こうとする。
「……ふむ」と思案する顔はいつもの通りに、
右手の親指に顎を乗せて、
人差し指は鼻の頭を行ったり来たり。
「ん?」と答えを促すと君は少し歩を進めて、
振り返った。
君は「さぁてね?知らないなー?」
……といつもと違って少し声を弾ませてそう返す。
後ろから陽を浴びて神々しい黄色に染まる雲が見えた。
それに照らされた君の顔は、
どこか不思議な笑みを浮かべていて。
淡い黄金を見た様な気がした。
思い出した体験。きっと、それだけ。