7.
俺たちは急がず慌てずで立ち上がる。
おしゃべりしながら屋上駐車場へ向かう、そんな風情。
カソックの男が動き出した。
改めて周囲を境界をはる。
相手が一人ということはあるまい。
ツーマンセルか、もしくはスリーマンセルか。
それとも、もっといるのか。
すると、同じ動き出しがもう一人。
十メートルほど前方。
修道服の女性。
あ、丸わかりである。
十字教会の連中は、身を隠すということを知らないらしい。
なぜか、肩からギターケースを提げている。
ギターケースの中身がただのギターということはあるまい。
長物の銃器。アサルトライフルかサブマシンガンあたりが隠してあるのだろう。
だとしたら、ちょっと厄介だ。
車で逃げだしても、狙撃される可能性が出てくる。
厄介だな。
小声で麻耶に指示を出す。
「麻耶。もう一人いる。前方の修道服。右の階段から上がるぞ」
「うん。わかっ……、えっ?」
ん? えっ、て何だ。
「あ、あ」
「あ?」
「あたしのギター――――!!」
麻耶が叫んで走り出した。
「こんのやろー」
修道服の女性がぎょっとして見ていた。
まさか、追っている標的が、自分に駆け寄ってくる想定はなかったのだろう。
「ちっ」
舌打ちして俺も走り出す。
背後のカソックの男も走り出すのがわかる。
すべての予定というか、組み立てが、麻耶の衝動的な行動で崩れていく。
あれが、麻耶のギター? どういうことだ?
「返して!」
駆け寄った麻耶が、ギターケースのショルダーベルトを掴むと女は、それを一瞬拒んで抵抗する。
だが、それも束の間、あっさりと手を離した。
少し距離を開けて、ポケットから左手を出すと、その手の中にはベレッタナノ。
イタリア製の小型拳銃。
小さなハンドバッグにも入るサイズにも関わらず、9ミリパラベラムを六発撃つことができる凶器。
くそっ。
視線が麻耶にあるうちに懐に入り込み、ナノを持った手を掴む。
その手を引きながら、そのまま足払いを入れて、女の姿勢を崩す。
「きゃ」
簡単に転がった。
そして、手が離れたベレッタナノを取り上げる。
そのまま、背後に迫るカソックの男に放り投げた。
想定外だったのか、足が止まり、それを受け取る。
荒事に慣れていればいるほど、銃撃されることは想定していても、放り投げられることは想定していまい。
ついでに、「この日本での銃撃戦」という目立つ状況は避けたいだろう、とも考え、男がきちんと受け取るだろうことも、こちらの想定のうちだ。
そのタイミングで麻耶の腕をつかむ。
「行くぞっ」
そうして、改めて走り出した。