21.
俺は借り物のダッジ・チャージャーを桟橋の駐車場に止めた。
黒髪のメイドが運転しているのを見て、罪悪感を覚えたので、運転を変わってもらったのだ。
ダッジ・チャージャーはアメリカのクライスラーが生産した4ドアセダンだ。
5.7リットルのV8ヘミエンジンを搭載した、マッスルモデルも存在する大柄な車だった。
だが、その大きな車を、子どもに運転させているような感覚がぬぐえなかった。
「そろそろ名前を教えてはくれないか」
「私はユーリ」
と、黒髪のメイド。
「私はエマ」
と、銀髪のメイド。
ユーリとエマ、か。
「ユーリさん」
「ユーリでいい。どうせ、違和感を感じているのだろう」
「まあ……な」
「我々もリョーマと呼ぶ。気にするな」
「あいよ」
どうも調子が狂う。
桟橋にたどり着くと、トランクから装備を引っ張り出す。
俺は僧衣の下に防弾ベストを着こみ、無線機用のイヤホンマイクを耳にはめる。
そして、タクティカルベルトを用意し、MK3手榴弾を二つと弾倉の入ったケースを腰に巻く。
メインアームは、結社の用意したものの中からSIG551を選んだ。
P210と同じく、スイスのSIG社が開発した自動小銃SG550のコンパクトバージョンだった。
そう言えば、バチカンも、SIG550を使っていたな、とふと皮肉を感じる。
「これをつけておけ」
ユーリが一組の籠手を差し出してきた。
鈍い赤色をした金属でできた籠手だった。
「5.56mmくらいなら止められるし、日本刀の一振りも止める」
「ありがとう。もらっておくよ。これはセラミック?」
見たことのない質感の素材に疑問を持って尋ねた。
「言わぬが花だな」
ふむ。何か神秘の産物ということか。
そう言う、ユーリとエマは、メイド服の上からチェストリグ、要は予備弾倉やら何やらを装備するためのベルトだが、それを装備していた。
メインアームは、オーストリア製の自動小銃ステアーAUG。
ブルパップと呼ばれる、トリガーの後方に機関部と弾倉を配置することで、全体のコンパクト化を狙ったものだ。次世代の主流と考えられ、70年代に各社が様々なモデルを開発したが、その中でもっとも成功したモデルと言える。
とは言え、現代の主流はコンサバティブなAR15系とカラシニコフ系である。
時代の流れというものは残酷なものだ。
フォアグリップ周りに、いくつかのアクセサリが取り付けられているが、二人の間で、、仕様が微妙に違っていた。
エマの方が長銃身で、M203グレネードランチャーが装備されている。
一方ユーリの持つステアーAUGは、切り詰めた短銃身にフラッシュライトなどだ。
そしてもう一つ、目立つのはユーリが持っている盾だ。
俺がもらった、籠手と同じ材質なのだろうか。
一部、透明な素材で視界を確保している。
おそらくは、ユーリがタンク役、敵を引きつける役で、殲滅するのが、エマなのだろう。
とはいえ、潜入ミッションでタンクというのも考えものだが……。
それと、サブアームは愛用品なのであろう、先ほどから使っているグロック19。また、ユーリだけは渡りが30cmくらいありそうな長めのタクティカルナイフを装備している。
装備一式から連想するのは、SWATのような警察特殊部隊だ。
それでいて、頭にメイドプリムをつけているあたり、本当にわからない。
全身タクティカルスーツでもおかしくないレベルの装備に関わらず、秋葉原のメイドそのものの恰好だ。
「なあ、あんた達、どこで訓練受けた? 警察か」
「私は自衛隊とPMC。エマは故郷の軍隊で徴兵」
「え?」
「この盾かい? まあ、暴動鎮圧用に見えるな」
そう言って笑った。
「我々の仕事はあくまで、陽動だ。せいぜい派手にやらせてもらう」
「格好も派手だしな」
「まあ、これは制服だからな」
制服って……。
「誰の趣味なんだ?」
「神様だよ」
神様……、か?
不信心者の集まりだと思ってたんだかな。




