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2.

 俺は、そのままレクサスを飛ばして、「機関」の事務所に密輸されたアムリタの瓶を届けた。

「機関」は、俺の雇い主。

 その使命は、神秘の秘匿。

 この国の元締めは、宮内庁だ。


 すでに、平安時代のころから宮廷や宗教組織の中に似たようなものは存在していた。

 そして、第一次大戦前後のグローバルの時代になって、似たようなものが、世界各国のあちこちにあることがわかり、互いに連携を始めた。


 その頃から、この組織のことを「機関」と呼ぶようになった。

 政府機関も伝統宗教も、みんな仲良くというわけにはいかないので、俺たちは、互いの足の引っ張り合いみたいなこともしたりする。


 なかなかに複雑なところがあるのが、現実だ。


 俺はその「機関」に属するエージェントの一人だ。

 もっとも、フリーランスに近く、毎日出勤する必要などはない。


 仕事があると、出かけていって片付ける。

 同様のエージェントは何人もいるが、おおむね、みんなフリーランスの日雇い業務だ。


 仕事が仕事なだけに、事務所の方は、おおむね24時間稼働のブラックな組織だが、俺にとっては、雇い主に報告を入れるだけの場所だ。

 まあ、あとは、この国では少し手に入れにくい物を融通してもらう時もある。


 ともあれ、軽く報告をすませた俺は、中央道を西に向かって走る。

 そして、八王子インターチェンジでいったん高速を降りる。


 東の空が白々と明け始めた中、俺は陣馬街道から奥多摩方面へと向かう山あいの道を走らせる。

 そして、いくつかの集落を抜け、しばらく走ったその先。

 森に囲まれた場所にその古寺はひっそりと建っていた。

 真玄宗大龍寺。

 観光資源でも何でもない、ただの古い寺だった。

「涼真和尚」

 地元の檀家の方々は、俺のことをそう呼ぶ。


 涼真空が俺の名前だ。


 俺は、二年ほど前からこの寺の住職として、ここに住んでいた。

 跡継ぎもなく、廃寺寸前のところ、俺が住職を引き受けたことで、存続できることになった。まあ、都心から遠く離れた、この土地は、隠れ家としても非常に都合がよかった。

 特に、俺のような、本業が荒事な坊主にとっては。


 檀家は地域の山中に点々としていて、法要のお布施程度では、とても暮らしてはいけないが、まあ本業が別にあるので、そのあたりは気にしない。

 収入には不自由してない以上、檀家の方々に対する姿勢は、ひたすら献身的なものにはなる。


 まあ、仏門にある以上、人を救うという行為に関して、貴賤はない。

 読経から、電球の交換まで含めて、仏道修行というものだ。


 山門の下に見慣れないバイクが止まっていた。

 ホンダのレブル250。


 普段なら裏から回って、庫裏の脇に車を止めているのだが、少し気になって、山門の下にレクサスを止める。

 持ち主は見当たらない。

 この寺は、ツーリングの目的地になるようなものは何もない。

 ついでに檀家の方々は、ほぼ60代以上の人間しかおらず、こんなバイクに乗るような人間はいない。

 ほぼ全員、スーパーカブか軽トラックだ。


 すると、山門手前の階段の中ほどに人間が一人倒れていた。

 脇にジェットタイプのヘルメットがあった。

 おそらく、レブルの持ち主だ。

 俺は階段を駆け上がって近寄る。

 小柄。女、というよりも子ども。まだ少女と呼ぶべき年齢だ。

 ダブルブレストの革ジャンにブラックジーンズ。そしてエンジニアブーツと、ライダーというよりもロックバンドのメンバーみたいなスタイルだった。


 俺は胸を見て、呼吸の確認をする。

 ゆっくりというか、安定して動いている。

 大丈夫だ死んではいない。


 顔色もおかしなところはない。

 おそらくは、寝ているのだろう。


 俺は抱き起して、ゆすってみた。


 いきなり、目がぱっちりと開いた。


「きゃああああああ」

 叫び声とともに、ヘルメットが俺の顔に炸裂した。


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