17.
目を覚ました。
見たことのない天井。病院?
どうも、生きているらしい。
死んだ、と思っていたが。
俺は起き上がろうとした。
激痛が走った。
右足からだ。
そうだ。
俺の足はたしかに。
痛みがないよう、ゆっくりと身体を起こす。
繋がっているのか……。
44マグナム弾で撃ちぬかれれば、ちぎれて、飛んでしまっていてもおかしくはない。
「目が覚めましたか」
視線の先には、一人の少女。
メイド服を着ている。
メイド服。
ここは、メイド喫茶か何かか。
いわゆる秋葉原にある「日本式メイド」の恰好をしていた。
今どきは、金持ちの連中の家事要員である「本来の」メイドたちはそんな恰好はしていない。
もっと地味な制服を着ている。
「動かないでください。もう一度足を使いたいのなら」
そのメイドはきっぱりと宣言した。
メイド……だよな。看護師とかじゃないんだよな……。
しかも子どもだ。中学生か、せいぜい高校1年くらいにしか見えない。
そして、銀髪赤目に眼鏡をかけた白人。北欧系っぽい雰囲気を持っているが操る日本語は流暢なものだ。
まあ、日本語を話す外国人は、ここ数日珍しいものではないが。
だが、おとなしくはしていられない。
麻耶を助けに行かなくては。
「ここはどこだ。俺はなぜここにいる」
メイドの腕を取ろうとした。
が、いなされた。
一度いなされた手の中に拳銃が現れた。
グロック19。
オーストリアの銃器メーカーであるグロック社が開発した自動拳銃だ。
そのうちのコンパクトタイプ。
登場した当時はフレームをはじめとした各種パーツにプラスチックが使われたことで、大きく話題になった拳銃だ。とある映画では、X線検査をすり抜ける拳銃、と誤った紹介をされてしまうほど、当時としては画期的だった。
とは言え、先駆者はいくつか他にあったのだが、この銃ほど、大きな成功をおさめることはできなかったのが実情だった。
コストパフォーマンスも高く、世界中の軍隊や法執行機関で採用されている。
その銃口がまっすぐ俺の額を狙っていた。
「怪我人は黙ってなさい」
いかん、おそらくこれは本気だ。
マズい。
とは言え、本当にここはどこで、このメイドは誰なのか。
騎士修道会の連中ではあるまい。
フェルナンの古き栄光の騎士修道会なら、俺はあっさり殺されているだろう。
聖母騎士修道会にとっては、ディエゴ・ガルシアを殺した俺を助ける義理はない。
「機関」に至っては、フェルナンあたりとことを構える気概もないはずだ。
うむ。悲しいね。
「エマ、そのへんに」
若い少女の声。
もう一人、いや二人少女が姿を現した。
金髪の少女。長く伸ばした髪が、緩やかなウェーブを描いている。
服装は、と言えばゴスロリというのか。
過剰なまでにフリルで飾られた服を着ている。
それも漆黒の。
そして背後にはもう一人のメイド。
こちらは日本人っぽい。三つ編みおさげの黒髪に眼鏡。
そして、このメイドもグロック19を構えていた。
ポジション的には、ゴスロリの少女が主人で、その護衛を兼ねたメイドというところか。
メイド服も、主人の趣味なのだろう。
しかもどう見ても全員、同じくらいの年齢の少女だ、
少女の側近が少女というのは、わからなくはないが、拳銃の構え方が堂に入りすぎている。
この年齢で、どれだけの修羅場をくぐったのか。
「初めまして。涼真空くん」
「俺の名前を知っているのか」
「有名人だからね」
そう言ってころころと笑う。
「デス・モンクだったっけ。格好いいじゃないか」
「そのあだ名はやめてほしいのですけどね」
「『機関』のエージェントとしては、とても優秀と聞いている。まあ、僕も痛い目にあったことがあるしね」
「どこかの組織の人間か」
「そうだね。君たちが『結社』と呼ぶ組織の人間だよ。ヘンリエッタ・ダイアー。以後、よろしく」




